高い評価に納得の実力。チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」を実機レビュー/インプレッション

FEATUREインプレッション
2023.08.15

2021年にチューダーのラインナップに加わった、「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」。素材にシルバー925を使用することで、優しい雰囲気や“使いこんだ物の魅力”をオーナーに提供してくれる。今回は、そんなブラックベイ フィフティ-エイト 925をインプレッション。使って分かるその実力をお伝えしていこう。

佐藤しんいち:文
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2023年8月15日公開記事]

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト 925 レビュー

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」をインプレッション

 今回インプレッションするのは、シルバー925製ケースのチューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」のファブリックストラップモデルである。本作は、シルバーでありながら黒ずみを生じにくい独自素材「インカンデセントシルバー」を用いる点が特徴のダイバーズモデルだ。ブラックベイの優れたパッケージングと、評価の高いケニッシ製ムーブメントを備え、黒ずみを抑えながらも、使い込むことで風合いを増すケース素材が本作の魅力である。

 今回、ブラックベイのデザインとインカンデセントシルバーの質感に、筆者はある種の「優しさ」を感じ取った。この点に着目しながらインプレッションを始めよう。


ストイックさとポップさが同居したブラックベイのデザイン

 ブラックベイのデザインに対する筆者の印象は「ストイックなツールウォッチの趣にポップなダイアルデザインが同居している」というものだ。本作を始めとしたブラックベイシリーズのケースは、ツールウォッチ然とした切り立ったケースサイドからラグにかけてのラインを描く。ここに本作では、ベゼル上のインデックスとして細いフォントで分表示が与えられている。ベゼルサイドやリュウズに施された刻みは細かく、デザインは繊細さも感じられる。これらと対比的なのがダイアルデザインで、コントラストがはっきりとした幾何学的なスノーフレークの時針とペンシル型分針が組み合わされ、ポップでカワイイ印象を添えている。ダイバーズウォッチはストイックで凛々しく、緊張感のあるデザインが珍しくないが、本作にはある種の優しさがあって特有の魅力を備えていると言えるだろう。

 優しさを感じるのには、ダイアルのカラーリングも影響している。僅かにブラウンの効いたグレーであるトープカラーが、視覚的な印象の強いブラックダイアルなどに比べて柔らかい印象を生み出している。様々なファッションとの組み合わせを考えると、このトープカラーのダイアルは主張し過ぎず、取り入れやすそうだ。

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」
自動巻き(Cal.MT5400)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。シルバー925(直径39mm)。200m防水。58万5200円(税込み)。


どこか優しさを感じるインカンデセントシルバー

 さて、今回のインプレッションのキーワードは「優しさ」となりそうだが、それに関する要素が本作にはもうひとつある。本作はステンレススティールよりも柔らかいシルバー925製である点だ。柔らかいとは硬度が低いのに加えて、ケースに触れると肌当たりに暖かさや優しさを感じたことも含めて述べている。シルバーアクセサリーが肌に馴染むような感触が本作特有の質感であり、この点を好んで選ぶ価値がありそうだ。

 インプレッションした個体は試着やプロモーションなどで使用された経緯があるため、細かな傷や、傷までは至らないような当たりが現れていた。その表情も、使い込んだSSモデルにおける直線的で鋭い傷ではなく、どこか丸みを感じるものであった。

 一般的なシルバーは酸化によって黒ずみやすいのに対して、本作はチューダー独自の合金配合比率により黒ずみや、くすみを生じにくい「インカンデセントシルバー」を採用している。その効果により、高湿度な夏場のインプレッションであったが、その期間中に気づくほどの変化は生じなかった。一方、変化が全く無いわけではないようで、手元に届いた時点で部分的にパティーナが生じており、全体は極僅かに赤みや黄色っぽさ帯びたような色調を現わしていた。これらが全体のトーンを落ち着いたものとし、渋さや特有の風格を生み出している。

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト 925 レビュー

かなり陽射しの強い日にも着用したが、視認性は確保されていた。時計全体は渋さのあるクラシカルな雰囲気であるのに対し、真っ白なスーパールミノバが現代的でコントラストを生んでいる。また、風防から針までのクリアランスも詰められており、見栄えも視認性も良好である。


使い込んだ様子に本作の魅力を見出す

 これまで述べてきた本作の特徴は、ミントコンディションの綺麗な状態が良いものであるという評価指標とは異なる、「使い込んだ様子に魅力を見出す価値観」にマッチするものだ。近年の腕時計市場においては、パティーナを生じやすいブロンズケースや、エイジング加工が施されたモデルが発表されて注目を集めている。ヴィンテージウォッチの人気が高まっていることも、この価値観と呼応する面があると筆者は考えている。この傾向は時計だけではなく、筆者の趣味であるギターにおいても見られる。ギターのトップブランドがハイエンドモデルにレリック加工(塗装剥げやクラック、ボディーの傷、金属パーツのくすみ)を施し、歴戦の風格を再現して目の肥えたファンから支持を集めている点は、時計よりも先行していると言える。

 シルバーを用いた本作は、材質そのものの魅力に加えて、このような「使い込んだ様子に魅力を見出す」文脈に沿ったものであると言えるだろう。加えて本作は、レリック加工のように使い込まれた様を再現したものではなく、新品状態からユーザーの愛用に伴って風合いを増してゆく、育てる楽しみも備えている。

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト 925 レビュー

直ちに真っ黒になるでもなく、磨いた直後の白く輝く状態を保つのとも異なる、程よく渋い表情が生まれている。ベゼルサイドの細かな刻みやリュウズのデザイン、特にローズの意匠はクラシカルな印象を生み出している。


スペック良し、精度良し、操作感良しのケニッシ製Cal.MT5400

 本作に搭載されるのはケニッシ製ムーブメントのCal.MT5400である。筆者がケニッシ製ムーブメントをインプレッションするのはフォルティス「マリンマスター M-44」に続いて二度目だ。インプレッションを通じて、実用性が非常に高く、操作時の質感も高いことを改めて感じた。パワーリザーブは約70時間で、チューダーがウィークエンドプルーフと呼ぶように、金曜日の夜に腕時計を外して月曜日の朝に再び手に取る際、ゼンマイの巻き足しを必要としないスペックであり、多くの人にとって十分なものだろう。精度についても、COSCによる公認クロノメーターを取得しており申し分ない。あくまで参考値となるが、インプレッションした個体では平置き、着用状態共に日差-2秒から-3秒ほどで推移していたことを付記しておこう。

 パワーリザーブが長く、精度も高いとなるとリュウズ操作の頻度が下がりそうだが、Cal.MT5400は操作感も優れている。巻き上げ時のフィーリングは滑らかでしっとりとしている。手巻きムーブメントのようなカリカリとハッキリとした感触とは異なるが、汎用自動巻きムーブメントで生じることのある、ザラザラとした巻き心地とは異なる。時刻合わせも前後方向で遊びが少なくスムースで、正確な時刻合わせが容易である。

チューダー ムーブメント MT5400

本作に搭載されるMT5400。なお、本作はブラックベイの中では珍しくシースルーバックとなっていることも大きな特徴だ。

 さらにCal.MT5400は、シリコン製ヒゲゼンマイにフリースプラング、両持ちのテンプ受けを備えて文句のない構成である。プレート類も頑強な設計で手堅いものだ。以上を総合すると、その評価が非常に高いことに納得がゆく。

 初めての機械式腕時計としてケニッシ製ムーブメントを搭載したブラックベイなどを選んだとしたら、良い機械が搭載された腕時計と付き合う素晴らしい経験となることだろう。しかし、その先のステップアップ時に、ケニッシ製ムーブメント以上の性能や質感を求めることとなって苦しむかもしれない。


薄さと着用感を両立したファブリックストラップ

 本作に組み合わされるファブリックストラップは、フランスのサン・ティティエンヌで150年以上の間、家族経営を続けているジュリアン・フォール社製のものだ。19世紀に作られた織機を用いて製造されており、目が詰まっていて特有の織目が現れている。単純な引き通しタイプに見えるが横穴が開いているのが特徴で、そこにバネ棒を通すことでヘッドを固定する専用設計だ。この際、ケースバックと手首の間には引き通しタイプと同様に1枚のファブリックストラップが挟まっている。薄い仕立てだがコシがありつつしなやかで、硬すぎないホールド感が良い。また薄いのでケースバックとの間に挟まっていても重心が低く抑えられている。肌当たりが柔らかい点も高評価だ。ブラックベイ フィフティ-エイト登場直後の古い記憶で恐縮だが、もう少しチクチクした感触であったように思うので、改善されたのか(少し使われた個体であったので)馴染んで落ち着いたのかもしれない。なお、ブラックベイ フィフティ-エイト 925には他にレザーストラップモデルは用意されるが、ブレスレットの設定は無い。

 ストラップも含めた全体の着用感としては、ストラップが軽量のためヘッドの重みを感じやすいものの、着用時の重心が低く抑えられていることとホールド感の良さでバランスが取れている。ラグの形状が適切なのか手首の上での収まりが良く、ラグ先端が肌を突くようなことも無かった。

チューダー ブラックベイ フィフティ-エイト 925 レビュー

バックルもシルバー925製で、ケースと同様の渋さが生まれている。本作のファブリックストラップは、丈夫なナイロン製に比べれば耐久性は劣るだろうが、それに代えて余りある質感の良さを備える。ストラップの長さについて、タイトフィットを好む周長約18cmの筆者の手首では1穴から2穴(約0.5~1cm)分の余裕しか無かった。筆者より手首の太い方は店頭での要チェックポイントだ。


レビューを通じて再認識したチューダー ブラックベイの完成度と魅力

 ダイバーズウォッチに求められる高い防水性能と良好な着用感を両立したケースに、文句のないムーブメントを搭載し、優れたデザイン性も備えるチューダー ブラックベイ。その高いポテンシャルに、愛用に応えて風合いを増す(しかし過激な変化はしない)インカンデセントシルバーが組み合わされた本作は、実力と独自の魅力を備えている。

 「使い込んだ様子に魅力を見出す価値観」を持つ方、あるいは特有の優しさのある質感を好む方にとって、インカンデセントシルバーを用いた本作は良い選択となることだろう。一方、ブレスレットへの希望が強い方や、風合いに大きな変化を求めない方はSS製モデルを選ぶのも有力な選択肢だ。チューダーのブレスレットの完成度は評価が高いものであるし、全体のポテンシャルの高さは今回述べたとおりであるからだ。

 インプレッションを通して様々な観点から考察しても、チューダーのブラックベイはこれといった欠点が無く、それなのに凡庸ではない。さらに、ケースサイズを始めとしてラインナップも充実している。現在のチューダーが非常に高い評価を受けていることに納得のゆくものであった。



Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570


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