CPO(認定中古)ウォッチビジネスで注目を浴びる「クロネクスト」、新CEOのフィリップ・ロタンにインタビュー

FEATUREWatchTime
2023.10.19

2013年に設立されたクロネクスト(CHRONEXT)は、新品、中古、ヴィンテージの高級腕時計を売買するためのデジタルプラットフォームだ。2023年4月からは、オメガ、ウブロ、タグ・ホイヤーをはじめとした数々の時計ブランドで実績のある業界のエキスパート、フィリップ・ロタンがクロネクストを率いている。今回は同氏にインタビューを行い、他社との差別化や、将来の枠組みの計画について尋ねた。

フィリップ・ロタン

今回インタビューを行った、クロネクストCEOのフィリップ・ロタン。
Originally published on watchtime.com
Text by Rüdiger Bucher
[2023年10月19日公開記事]


認知拡大を目指すクロネクスト、マイクロブランドの販売支援や保険付帯など独自サービスを展開

WatchTime:あなたは2023年4月にクロネクストのCEOに着任されましたね。今後、どのように会社の舵取りをしていきたいと考えていますか?

フィリップ・ロタン:いろいろありますが、自分の役割は主に橋渡しだと思っています。長年にわたり、時計業界や関係者たちはクロネクストについて批判的でした。ですから、私は信頼を再構築したいのです。相反するのではなく協調できるように、私はすでにいくつかのブランドや小売業者との接触を始めています。我々が二次市場の中でどういう立場になっていくかを説明したいと考えています。業界には付加価値をもたらし、業界と関係者の強力なパートナーとなっていくことができるというものです。

オイスター パーペチュアル デイトジャスト

クロネクストの人気モデルのひとつ、ロレックス「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」。

WatchTime:具体的にはどのようなことを実行していくのでしょうか?

フィリップ・ロタン:何よりもまず、Certified Pre-Owned(認定中古、以下CPO)ウォッチの売買にフォーカスしたいと思っています。同時に、クロネクストのCPOブランドとしての位置付けをより強力なものにしたいとも考えています。自らの取り扱い商品の幅を広げたいと考えている販売店があれば、クロネクストを新ブランドとして組み込み、私たちのCPOモデルを通して自らのポートフォリオに多くの魅力的なブランドを擁することができます。

 また同時に、販売店が新しいウォッチビジネスに注力するための援助も行います。もし単独で中古時計の売買を行うと、考慮しなければならないことがいくつか発生します。時計とそのパーツが純正であるかどうか、時計をさらに良い状態にするのに何が必要なのかというような問題です。その次のステップとしては、適切な市場価格の設定があります。私たちはそのすべてを代行することができます。同様に、新品の時計の販売とCPOビジネスを切り分けたいというブランドのサポートを行うことも可能です。

ブラックベイ クロノ

クロネクストの人気モデルのひとつ、チューダーの「ブラックベイ クロノ」。

直営の路面店をオープン予定

WatchTime:クロネクストのCPOビジネスを、どのように進捗させていきたいと考えていますか?

フィリップ・ロタン:現在、すべての顧客がCPOウォッチをより販売しやすくなるよう、システムを改良中です。次のステップとしては、近い将来、直営店をオープンすることを検討中です。

シーマスター アクアテラ

クロネクストの人気モデルのひとつ、オメガの「シーマスター アクアテラ」。

WatchTime:すでにいくつかのラウンジを展開されていますが、直営店とラウンジの違いは何ですか?

フィリップ・ロタン:既存のラウンジの多くは路面店ではなくオフィスビルにあります。通りから直接アクセスすることはできません。ショーウィンドウを持つブティックを作り、お客様を迎え入れられる体制を整え、可視化と市場での存在感を高めたいと思っています。

WatchTime:異なる都市でCPOブティックを運営するブヘラやリュッシェンベックなどと競合していますね。

フィリップ・ロタン:ある意味その通りです。どちらにしても、私たちのブティックはCPOウォッチのためだけのものとなります。オンラインとオフラインの販売を融合させることは重要です。それはお客様が時計を購入する決断は、これらの販路が重なり合うところで行われるからです。インターネットで気に入った時計を何点か見つけ、後日店舗に行って実物を確認し、気持ちが動けば購入するという形です。

 また他にも、最初に何点かを店舗で試着し、後日お気に入りを自宅から注文する方もいます。現在ではオンラインかオフラインかという話ではなく、両者は共に機能しているのです。こうしたオンラインとオフラインの併用に対し、ブティック導入でさらに応えていきたいと考えています。アナリストたちは、今後数年間で時計の40%がオンラインで販売されるようになると予測しています。2022年には15%でした。これがこの分野に参画したい理由のひとつです。

新品の販売も継続し、マイクロブランドに注力

WatchTime:中古時計以外にも、クロネクストは新品の販売も行っています。そちらも継続されるわけですよね?

フィリップ・ロタン:はい。新品であろうと中古品であろうと、購入したい時計を決めるのはお客様です。価格ではなく、品質やサービス面が決め手になるはずです。2年間の保証やCPO製品の鑑定書の発行など優れたサービスを提供することで、私たちから時計を購入していただきたいと考えています。また、CPOの周辺サービス、たとえば保険プランも提供したいと考えています。つまり、私たちから時計を購入した方は、それに応じた保険をかけることができるのです。

 同時に、ウェブサイトにマイクロブランドのブティックを設け、新品時計の分野で新しい境地を切り開くつもりです。私たちは、販売面において必要なサポートを受けられていないマイクロブランドを、積極的に組み込んでいます。私たちが発行しているニュースレターなどさまざまな情報を発信することで、そういったブランドにプラットフォームを提供することができるのです。すでにイーザ・ウォッチ(Eza Watches)、ヘラクレス(Hercules)、サブデルタ(Subdelta)、スクワーレ(Squale)、そしてエアロウォッチ(Aerowatch)の5ブランドが加盟しておりますし、さらに増える予定です。まだあまり知られていないブランドばかりです。

WatchTime:マイクロブランドに注力しているということですね。ですが、ジンのような大きなブランドをすでに販売していますよね。

フィリップ・ロタン:はい、ただしサービスに関するものだけです。私たちはジンやタグ・ホイヤー、そして直近ではブライトリングの公式サービスパートナーとなっています。

クロネクスト

クロネクストは、2023年からブライトリングの公式サービスパートナーとなっている。

WatchTime:具体的にはどういうことですか?

フィリップ・ロタン:例えば、タグ・ホイヤーの時計を修理に出したい方は、タグ・ホイヤーや近くの正規販売店に行くのと同じように弊社にもお越しいただけます。私たちはブランドから公式認定されています。ジンもブライトリングも同様であり、将来的には同じ方法でもっと多くのブランドと提携していきたいと考えています。

WatchTime:ブランド側はサービス面でクロネクストの援助を必要としていますか?

フィリップ・ロタン:はい、量的にもそうです。CPOウォッチだけを例に取ると、毎年何千本ものCPOウォッチが市場に流れ込みます。それらは転売される前に点検や修理をしなければなりません。幸いなことに時計は非常に持続性のある商品であり、そのため手入れが行き届いていれば、世代から世代へと受け継ぐことができます。これは時計ブランドにとって、サービスに対するニーズがますます高まることを意味します。そこで私たちが、20名の社員が在籍するケルンのサービスセンターを通じて、援助を行うことができるのです。

他の中古販売プラットフォームとの違い

WatchTime:クロネクストと、Chrono24など他のプラットフォームを差別化するものは何でしょうか?

フィリップ・ロタン:買い手も売り手も私たちを通してビジネスを行います。顧客には、私たちのことを知ってもらった上で信頼関係を築きます。ただプラットフォームを提供するというChrono24とは、全く異なる状況です。

WatchTime:そのためには、もう少し高い料金を支払わなければなりませんね?

フィリップ・ロタン:経費増加になるかどうかは疑問です。どちらにしても、価格だけではなく、CPOウォッチを購入するにはさらに多くのことが関わってきます。私たちの時計はプロによって手入れされ、2年間の保証が付いた検査済みのものですから、安心感も得ることができます。

クロネクスト

20名が在籍する、ケルンのクロネクストのサービスセンター。

WatchTime:クロネクスト側のマージンはどれくらいなのでしょうか?

フィリップ・ロタン:現在のところ、マージンは低く抑えています。将来的には比率を検討する必要があると思っています。

WatchTime:時計の適正価格はどのように見極めていますか?

フィリップ・ロタン:私たちは毎日約50万本の価格情報を集めており、それが良い指標になっています。そのため、時計の最低価格、最高価格、平均価格が分かります。私たちのゴールは、ある時計について、参考となるような価格推移を表示し、共有できるようにすることです。そうすることで、私たちから時計を買ったり売ったりする人が、どのようにその時計の価格が変化していくかを見ることができます。私たちから、この情報やその他の市場データを取得するブランドとも協力しています。

WatchTime:2022年夏に起きたCPOウォッチバブルの崩壊の影響をクロネクストも受けていますよね。近い将来、この市場はどのように発展していくと思いますか?

フィリップ・ロタン:投機目的のバイヤーは市場から撤退すると思います。今のところ、価格は少しずつ下がり続けていますが、おそらくすぐに需要が盛り返していくでしょう。極端な誇大広告の後で、これは一種の健全な縮小といえます。しかし、ほとんどの時計愛好家にとって、投機のためではなく自分のために良い時計を買いたいということなのだと思います。これが現在、そして将来的な我々のビジネスの基盤となるとみています。


クロネクストとは

 クロネクストは2013年にフィリップ・マンとルドヴィグ・ウルリツァーによって、中古時計のディーラーとして設立された。

 2021年に上場が検討されたが、現在その意向はない。その代わり、スイスのツーク州に登記されている同社は、2023年に新しい投資家を迎え入れた。その中で特筆すべきはプライベートエクイティ企業である、ヘルベチカ・キャピタルAG(Helvetica Capital AG)である。取締役会長はティル・スピルマン、CEOはフィリップ・ロタンである。

 クロネクストはこれまでドイツ、オーストリア、スイスを中心にヨーロッパで活動してきたが、香港にも事務所を持つ。同社の情報によると2013年以降、10万本以上の時計の真贋をチェックしており、在庫は通常7000本ほどだという。オンライン取引では、クロネクストはオンライン・ファッション小売りのFarfetchと提携し、アメリカなどの欧州外でも活動は活発だ。2023年に、クロネクストは支払い不能に陥ったオンラインのウォッチリテーラー、ウォッチマスターの一部を買収した。


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