ロンジンは航空史の発展に貢献していた! パイロットウォッチの歴史的名作を紹介

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2023.06.14

長年にわたってパイロットを支え続けてきたロンジン。ここでは航空史の発展に寄与する歴史的名作を紹介する。また、それら名作の“スピリット”を受け継ぐ現行モデルに関しても見ていきたい。

ロンジン スピリット フライバック

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
細田雄人(クロノス日本版):取材・文 Edited and Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
2023年6月14日掲載記事


パイロットを支えたロンジンの腕時計

 スイス・サンティミエの名門、ロンジン。1832年にオーギュスト・アガシによって興された時計メーカーは、1900年代前半の航空機黎明期から多くのパイロットを支えてきた。

 例えばハワード・ヒューズによる1938年の世界一周飛行3日19時間14分という快挙は、星座の位置を利用して飛行中の現在地を割り出すシデログラフなしには達成し得なかった。

 また、フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームスが確立した航空機用の天測航法を、チャールズ・オーガスタン・リンドバーグが時計に落とし込んだことで誕生した「アワーアングルウォッチ」は、30年代以降のパイロットの必需品となっている。

 航空史上に燦然と輝く数々の偉業を支え、そして航空史の発展に貢献したロンジンの名作パイロットウォッチから、特に重要なモデルを今回は紹介していこう。


1.第2時間帯表示を可能にした「ズールータイム」など、マルチタイムゾーンウォッチ

 ふたつ以上の異なるタイムゾーンの時刻を同時に表示する、マルチタイムゾーンウォッチ。タイムゾーンを跨ぐことが多いパイロットにとって、必須とも言える同ジャンルの時計を、ロンジンは古くから作り続けてきた。

 数多いロンジン製マルチタイムゾーンウォッチの中でも、特筆すべきは2本ある。パイロット向けの時計ではないが、ロンジンのマルチタイムゾーンウォッチにおける原点とも言える、1908年発表の「ターキッシュウォッチ」。そして25年の「ズールータイム」だ。

ターキッシュウォッチ

ターキッシュウォッチ(1908)
オスマン帝国(現トルコ)市場向けに開発されたデュアルタイムウォッチ。タイムゾーンを跨いだ他国での運用のほか、国内でもヒジュラ歴と標準時、それぞれの時刻を示すのに使っていた。ロンジンは1911年にこのデュアルタイム表示の特許を取得している。

 ターキッシュウォッチはその名の通りトルコ市場向けに作られた懐中時計で、時分針のほかにもうひと組、時分針が付けられているのが特徴だ。

 なぜこのような時計が生まれたのか。これはトルコがヒジュラ歴を採用していることに起因する。月の満ち欠けを基準とした太陰暦の一種であるヒジュラ歴では、1日の始まりを日の出ではなく、日の入りからと定義している。つまり、一方の時分針で標準時を表示しながら、もう一方の時分針でヒジュラ歴準拠の時間を表示するために開発されたのだ。

 同軸上に針を2セット配置し、ふたつの時刻を示すという発想を基に、より簡素なマルチタイムゾーン表示としたのが、25年のズールータイムである。

ズールータイム

ズールータイム(1925)
第2時間帯を示す副時針を備えたロンジン初の腕時計。大型船舶の無線オペレーター向けに製造されており、副時針は時針と同様、12時間で1周する。現在のGMTウォッチのように副時針を24時間で1周としなかったのは、技術的な問題以上に、時差の大きな国への移動がまだ一般的でなかったことの方が大きいのではないか。

 このズールータイムの名を冠したモデルが、「ロンジン スピリット Zulu Time」だ。1925年のズールータイムは副時針が12時間で1周する簡易的なデュアルタイムウォッチであったのに対し、こちらは24時間で1周する純然たるGMTウォッチに仕上げられている。

ロンジン スピリット Zulu Time

ロンジン スピリット Zulu Time
ズールータイムの名を冠したGMTウォッチ。こちらは2023年6月に加わった39mm径モデルだ。自動巻き(Cal.L844.4)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。45万3200円(税込み)。

 加えて、GMTの時刻調整は時針を単独で動かすタイプだ。一度副時針の時間を合わせれば、以降はタイムゾーンを跨いだ移動をしたとしても、時針のみを動かすだけで調整が済むこの方式は、ごく一部のメーカーに採用が限られている。

 40万円台のロンジン スピリット Zulu Timeに、同機構を組み込んだ点に、ロンジンの強みを感じられる。


2.飛行時間の経過を測るクロノグラフ

 長時間に及ぶ飛行時間を計測できるクロノグラフは、パイロットにとって必需品のひとつだった。特にクロノグラフの瞬時リセット&リスタートを行えるフライバックは、ウェイポイント間の平均速度の算出やウェイポイントの進入タイミングを計算するのに重宝されたのだ。

ロンジン フライバック クロノグラフ

フライバック クロノグラフ(1928)
1936年のCal.13ZNよりも10年以上も前の25年にはロンジンによって開発されていた記録が残るフライバック機構。モノプッシャークロノグラフであるCal.13.33Zをベースに、2プッシャー&フライバック化したこのクロノグラフを、ロンジンは数十本製造している。本機は28年の個体。

 そして、このフライバックを生み出したブランドこそ、ロンジンである。1935年にふたつのプッシュボタンを含む、フライバック機構に関する特許を取得し、翌36年にCal.13ZNを発表。ここにフライバック搭載クロノグラフが誕生した。

 というのが、これまでの通説だった。しかし近年、ロンジンのアーカイブからこの事実を覆す資料およびモデルが発見されている。Cal.13ZNの前身にあたるクロノグラフムーブメントCal.13.33Zをフライバックに改良したモデルが、1925年にはすでに開発されているのである。

リチャード・バード。

ロンジンのCal.13ZNを搭載するフライバッククロノグラフを着用し、1939年の南極大陸への飛行および探検を行なったリチャード・バード。

 フライバックの初出年が10年以上早まったことも驚きだが、この事実にはもうひとつ、これまでの常識をひっくり返すような発見が隠されている。

 それがクロノグラフのプッシャーだ。当然、フライバック機能を載せるためには、クロノグラフのプッシャーをスタート/ストップとリセット用で、ふたつ用意する必要がある。

Cal.13ZN フライバック クロノグラフ

フライバック クロノグラフ(1936)
傑作Cal.13ZNを搭載したフライバッククロノグラフ。Cal.13ZNは1935年にフライバックに関する特許を申請、翌年に取得した。

 そしてもちろん、25年のモデルにもふたつのクロノグラフプッシャーが配されている。しかし、これまで世界初の2プッシャークロノグラフは、1934年に特許を取得したブライトリングとされてきたのだ。

 では、なぜ25年に開発した機構の特許をそのタイミングで取らず、10年後に取得したのか。ロンジンのヘッド・オブ・ブランディング・アンド・ヘリテージであるダニエル・フグは、当時の社会情勢を理由として挙げたが、世界恐慌中である29年以降ならばいざ知らず、この時点であえて特許を取らなかった理由としては弱いかもしれない。

13ZN フライバッククロノグラフ

パイロット クロノグラフ(1936)
こちらもCal.13ZNを搭載するクロノグラフ。初期のCal.13ZNはムーブメントスペースの問題から12時間積算計を持たなかったため、写真のようなインジケーター回転ベゼルを用いることで、長時間のフライトタイムを計測していた。

 Cal.13.33Zのフライバック付きが基本的にプロトタイプしか残っていないこと、またCal.13ZNが登場後、しばらくフライバック付きと非フライバックを並行して出していたことから、25年の時点ではそこまでの設計に至っていなかったのではないか。

 いずれにしても、ロンジンはフライバックを20年代には作っていた。それだけが紛れもない事実である。

陸上自衛隊 ロンジン

パイロット フライバック ストップウォッチ(1946)
日本の陸上自衛隊に1955〜59年にかけて納品されたとされるパイロットウォッチ。ロンジンのブランディング&ヘリテージ部門によればこの個体もそのうちのひとつとのこと。回転式のインナーベゼルと、センター同軸のクロノグラフ60分積算計が特徴。60分積算計を小型のインダイアルではなく、センター同軸とした点にミリタリーウォッチのキャラクターが伺える。

 そして、ロンジンのお家芸とも言えるフライバック搭載機が2023年、久しぶりに復活をした。

「ロンジン スピリット フライバック」は、「ロンジン スピリット クロノグラフ」をベースに、フライバック機能を追加したモデルだ。

 ロンジン スピリットは、かつての冒険者精神を落とし込んだスポーティーウォッチとして誕生したコレクションだが、フライバックというパイロットのために作られた機構を持つ同作は、明確にパイロットウォッチのイメージが与えられている。

ロンジン スピリット フライバック

ロンジン スピリット フライバック
往年のパイロットウォッチを想起させるツーカウンタークロノグラフ。ムーブメントにはCal.L688.4をさらにフライバック化したCal.L791.4が採用される。自動巻き(Cal.L791.4)。28石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約68時間。SSケース(直径42mm、厚さ17mm)。10気圧防水。65万6700円(税込み)。

 それを象徴するのが、両方向回転ベゼルとインダイアルだ。特に1920〜30年代のクロノグラフが多く採用した、ふたつのインダイアルを持つツーカウンターデザインは、まさにレトロなパイロットウォッチを意識したものである。


3.飛行士のための“アワーアングルウォッチ”と“マジェテック”

ロンジン アワーアングル

ロンジン アワーアングル Ref.3210(1931)
ウィームスによるセコンドセッティングウォッチをベースに、アワーアングル付き回転ベゼルを組み合わせたモデル。同作を用いることで、パイロットは天測航法に必要な時角と弧分を読み取ることができる。高精度を得るため、ムーブメントには懐中時計用のCal.18.68を搭載する。

 回転ベゼルを活用することで、パイロットの飛行を手助けする時計もロンジンは数多く作ってきた。その代表作が1931年に発表された「アワーアングルウォッチ」だ。

ロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチ

ロンジン リンドバーグ アワーアングルウォッチ Ref.L2.678.4.11.0
2006年に発表された初代アワーアングルウォッチの復刻モデル。オリジナル同様の直径47.5mmというケースを持つ。自動巻き(Cal.L699)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径47.5mm、厚さ16.3mm)。3気圧防水。76万8900円(税込み)。

 同作はフィリップ・ウィームスがロンジンと開発した「セコンドセッティングウォッチ」に、アワーアングルを刻んだ回転ベゼルを組み合わせることで、緯度を割り出せるようにしたモデルだ。開発に協力したのは、ウィームスの下で天測航法を学んだチャールズ・リンドバーグだった。

チャールズ・オーガスタン・リンドバーグ

アワーアングルウォッチの開発に協力したチャールズ・オーガスタン・リンドバーグ。1927年5月の大西洋横断無着陸飛行や31年の北太平洋横断飛行などの輝かしい功績を残す。写真後ろの機体は「スピリット・オブ・セントルイス号」の愛称で知られるライアン NYP-1。

 1935年の「パイロット ウォッチ マジェテック」はベゼルを回すことで、風防内の印(ムービングアワーメーカー)が回転し、経過時間を測ることができるというシンプルなモデルだ。

 アワーメーカーには自発光の夜光塗料が塗布されており、飛行中でも一目でフライト時間を知ることができる。

マジェテック

マジェテック(1935)
チェコスロバキア軍のパイロットに向けて作られた時計。トライアングル表示のある回転ベゼルを分針に合わせることで、フライトの開始時刻を示すことができる。パイロットウォッチらしく軟鉄製のインナーケースにムーブメントを包むことで、耐磁性能を得ている。

 このパイロット ウォッチ マジェテックを忠実に再現したのが、新作の「ロンジン パイロット マジェテック」だ。クッション型ケースからフルーテッドベゼル、ムービングアワーメーカーに至るまで、多くの意匠が再現されている。

 オリジナルとのデザイン上の相違点は、リュウズガードと、文字盤上のロゴ、および「ANTI MAGNETIQUE」の表記の有無くらいだ。

ロンジン パイロット マジェテック

ロンジン パイロット マジェテック
かつてのマジェテックを復刻した2023年新作。オリジナルからの変更点としてリュウズガードの追加などが挙げられる。自動巻き(Cal.893.6)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。55万円(税込み)。(初回、スペシャルBOX、NATOストラップ付属)

 復刻モデルを得意とする現在のロンジンらしい1本である。


“スピリットは継承されていく”

 クロノグラフから、アワーアングルウォッチまで、さまざまな方向性で時計を作り、多くのパイロットを支え続けてきたロンジン。

 その豊富なアーカイブを活用することで、航空機黎明期の空気感やその時代の“スピリット”は継承されていくのだ。

ロンジン スピリット

ロンジン スピリット
航空機の黎明期にロンジンの時計、もしくは計器を使用し活躍した冒険家たちの「パイオニア精神」を落とし込んだコレクション。写真は最もベーシックな3針モデルだ。自動巻き(Cal.L888.4)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。31万7900円(税込み)



【ロンジン 公式サイト】
https://www.longines.com/jp


Contact info:ロンジン Tel.03-6254-7350

大空に夢を馳せた、ロンジンと伝説のパイロットたちのストーリー(前編)

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受け継がれた “ロンジン流” パイロットウォッチの系譜

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伝統と歴史を持つ時計ブランド ロンジン。その魅力に迫る

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