オーデマ ピゲのアンバサダーも務める3つ星シェフ 小林圭に聞く、腕時計への情熱と愛用モデル

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2023.06.14

パリ中心部にある「Restaurant KEI(レストラン・ケイ)」でオーナーシェフを務める小林圭。フランス版ミシュランガイドでアジア人初となる3つ星を獲得した彼は、高級時計の愛好家としても知られている。愛用モデルやお気に入りの時計ブランドをはじめ、時計にまつわるさまざまな話を聞いた。

小林 圭

小林 圭
パリ中心部にある「Restaurant KEI」のオーナーシェフ。2022年からは、日本人シェフとして初めてオーデマ ピゲのアンバサダーに就任している。
Originally published on Montres De Luxe
2023年6月14日掲載記事


日本人らしい感性と、フランスの古典主義への理解を兼ね備えた小林圭が選ぶ腕時計

 パリ中心部にある「Restaurant KEI」は、高級フランス料理のエスプリを取り入れたレストランだ。グレーを基調としたグラデーションに、サンルイ・クリスタルのシャンデリアが輝く店内は、まさにパリのシックな雰囲気に満ちている。

Restaurant KEI(レストラン・ケイ)

 ニュートラルな色調、ゆったりと配されたテーブル、きめ細やかなサービス。そのすべては訪れた人々が日常を忘れ去ることができるように考え抜かれている。フランスに来て約20年の小林氏は、プラザ・アテネのアラン・デュカスのもとで7年間修行した後、2011年にレストラン・ケイを設立した。

Restaurant KEI

グレーを基調としたインテリアがシックな「Restaurant KEI」の店内。

 小林氏は2020年にフランス版ミシュランガイドでアジア人初の3つ星を獲得した後、3年連続で3つ星を取得している。その料理は味の喜びと同様に目の喜びも重要視したものだ。丁寧に調理された料理は、皿の配置をはじめとした完璧な比率に表れている。

 料理でも、陶芸でも、漆器でも、書道でも、形は中身と同じくらい重要な意味を持っている。そこで小林氏は、自らの別なものへの情熱を見出した。時計である。20歳の頃から大きな関心を持っており、現在では知識豊富なコレクターとなった。

最初に時計に対する気持ちが動いたのはロレックス

 最初に時計に対する気持ちが動いたのは、東京滞在中にロレックスのクロノグラフウォッチ、デイトナを見た時だった。父親がデイトジャストを愛用していたこともあり、このブランドにはなじみがあった。懐石の料理人である父親が、彼のふたつの情熱の源であったことは間違いない。そして、自身の料理には極限の美学を外観に持ち込む一方で、時計についてはムーブメントに特に関心を抱いている。

 また時計に関しては、デザインよりも複雑性を好む。純粋さとある種の古典主義が、彼の求めるものの一部を成すのだ。一方で、パネライの直径44mmのモデルを除いて、特定のブランドに見られるような大径の腕時計には興味を示さない。パテック フィリップ、オーデマ ピゲ、A.ランゲ&ゾーネが、彼のお気に入りのブランドだ。

 取材当日、小林氏はステンレススティールのロイヤル オークを着用していた。他にも小林氏はパテック フィリップのアクアノートやカラトラバを所有し、ワールドタイム Ref.5131を愛用している。小林氏は次の目標として、グランド・コンプリケーション 5270や直径38mmのミニット・リピーター・トゥールビヨンを手に入れることを夢見ていると語る。

小林 圭

取材当日には、ステンレススティールのロイヤル オークを着用していた小林氏。

 彼のコレクションにはA.ランゲ&ゾーネのダトグラフもあり、その複雑性を高く評価している。小林氏にとって、この時計はパテック フィリップを超える完璧性をもたらしてくれるのだ。

 またリシャール・ミルの時計が彼に夢を与えるように、F.P.ジュルヌの時計は、その創造性に対してある種の敬意を抱かせるものである。その創造性は、毎日彼がキッチンで実践しているものと同じだ。リシャール・ミルであってもF.P.ジュルヌであっても、この2ブランドはムーブメントの卓越性と外観における美的バランスが完璧である。

 時計への情熱だけでなく、彼のお気に入りのレストランや、日本酒「獺祭」の成功の要因についても尋ねてみたいと思った。彼がパリのお気に入りのレストランとして挙げたのは、モンパルナスのラ・ロトンド。伝統的なブラッスリー文化を好む彼らしい選択だ。また、獺祭の政治的なマーケティング手腕についても驚くような話を聞かせてくれた。

職人技の生きた小さなマニュファクチュール

 余談はさておき、小林氏がグルーベル・フォルセイ(特にトゥールビヨンを称賛)やMB&F、ロマン・ジェローム、ウルベルク、ローラン・フェリエにも注目していることを伝えよう。

 知識豊かな愛好家がそうであるように、彼もまた、これらのブランドによる仕事を理解し、高く評価している。完璧さと厳格さを求めるが故に、このような小規模のマニュファクチュールを自らの料理の世界と結び付け、大きなホテルのチームと自らの小さなレストランとを比べてみるのだ。

 小林氏と同様に、これらの職人技の生きた小さなマニュファクチュールは、その緻密さ、品質、実現時の革新性なしには存在し得ない。それこそが唯一の存在意義、そして継続性につながるものなのである。


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