セイコー・シチズン・カシオ 国産ウォッチメーカー ネクスト戦略 (前編)

FEATURE本誌記事
2019.09.24

SEIKO

日本の時計メーカーが苦手としてきたブランド化。その中で、最もうまくいっているのはセイコーウオッチだろう。同社は、ここ2、3年で、グランドセイコーのイメージと認知度の向上に成功した。日本市場に限っていうと、売上金額では上位4位以内に入るまでに育て上げた。そして、セイコーは、グランドセイコーで培ったノウハウを、他のコレクションにも転用。成功の勢いを駆って、海外進出と、より一層の高級化に取り組みつつある。

アストロン 8Xシリーズ デュアルタイム SBXB041

セイコー アストロン 8Xシリーズ デュアルタイム SBXB041
GSに次ぐ柱がアストロン。GPSソーラーを搭載する多機能クォーツだ。第1世代の使い勝手は今一歩だったが、第2世代では大きく進歩し、時計の容積も約3割縮小した。40のタイムゾーンとサマータイムにも対応する。GPSソーラークォーツ(Cal.8X53)。Ti×セラミックス(直径45mm)。10気圧防水。23万円。

セイコーを大きく変えたグランドセイコーの成功体験

 グランドセイコー(以下GS)のブランド化に成功したセイコーは、その方法論をGPSソーラーのアストロンにも転用。日本メーカーが不得手としてきた20万円以上の価格帯でシェアを伸ばしつつある。もっとも、セイコーホールディングスの財務状況は良好とは言いがたい。リストラに成功しつつあるが、自己資本比率は低く、グループの営業利益率にも改善の余地が大きい。しかし半面、ウォッチ事業は好調で、国内外の時計関係者が、最も可能性を見いだしているメーカーがセイコーであるのもまた事実だ。最大の理由は、同社がコレクションのブランド化と海外進出に取り組んでいるからだ。国内市場に限って言えば、GS、アストロン、プロスペックスなどは、日本製の価格帯を超えたところで勝負できるようになった。
「かつてのGSは、愛好家向けの時計でした。しかし2、3年前から、一般のユーザーにも認知が広がりました」

9Fクオーツ

グランドセイコー 9Fクオーツ
SBGV005幅広いラインナップを揃えるGS。今やエントリーラインを担うのは、9Fクォーツ搭載機だ。年差±10秒以内という高精度や、大トルクが可能にした太くて長い針、そして薄いケースは大きな魅力だ。セイコーはクォーツで20万円は超えられないという常識を覆した。クォーツ(Cal.9F82)。SS(直径40mm)。10気圧防水。31万円。

こう語るのは、セイコーウオッチで取締役を務める庭崎紀代子氏。彼女は理由をふたつ挙げる。ひとつは震災以降、メイド・イン・ジャパンを応援する気運が高まったため。そして一層重要だったのは、流通との協力関係をより深めたことである。

 ここ10年ほど、海外のメーカーは小売店に対する締め付けを強化してきた。売り場を取れないと撤退する。ラインナップをセットで買わないと撤退する。確かにメーカーの売り上げの改善には有効だが、結果としてリテーラーの疲弊を招くことになった。その真逆の方針で進出したのが、セイコーの高級ラインである。「5年前は高級ラインの導入商談は苦戦していました」と庭崎氏は語るが、今やセイコーの高級品は、多くの時計店に置かれるようになった。加えて、同社は高級品を中心に扱うセイコーブティックをニューヨークやフランクフルトにも展開するようになった。店舗数は現在60店を超える。庭崎氏は「利益を出すことはもちろんだが、高級ラインの世界観を体験していただくことが主目的」と語る。

 もっとも課題は少なくない。ひとつは内外価格差。そもそもセイコーの高級品は、海外で売ることを前提としていなかったため、内外価格差は大きい。対して庭崎氏は、価格差は詰めていくと明言した。そしてもうひとつが、GPSソーラーのコモディティー化。現在、日本の時計メーカーは、高価格化の切り札として、GPSソーラーにシフトしている。しかし、かつての日本メーカーは、競争の末、多機能時計の価格を引き下げて、やがて共倒れした。それはGPSソーラーでも起こりうるのではないか。

「クォリティを下げて、安く作ることもできます。しかし私たちは今後、コモディティー化する時計を作ろうとは思っていません」。簡単にいうと、安易な値下げはしない、ということだろう。海外のメーカーでは当たり前の施策だが、国産メーカー関係者が言うとは思いもしなかった。また、現在のセイコーは10万円台のコレクションが相対的に弱くなっている。セイコーは、GS、アストロンに続くコレクションをどう育てていくのか。
「今後、プロスペックスやGSの下の価格帯の機械式時計のラインナップを増やしていきます。幸いにも、数年前にメカムーブメントを製造するセイコーインスツルが、ホールディングスグループの一員となり、一層緊密に連携できる体制が実現したのでやりやすいですね」

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