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THE ART OF TRAVEL 旅をアートへと昇華するブレゲ「クラシック オー ラ・ムンディ」(2/3) 2016年07月号(No.65)

ギヨシェを極めるブレゲ
BreguetÅfs Techniques of Guillocheurs

18世紀のギヨシェ旋盤を修復し、改良して使用する現在のブレゲ。複雑で多様なパターンを織り成すラインは、時に1/100mmもの細さを必要とし、職人は顕微鏡をのぞいての作業を余儀なくされる。繊細な指先の動きで刃先を操り、1本ずつ丁寧に彫り進め、緻密に重ねることで美が創出される。

 金属のプレートにパターン装飾を彫金するギヨシェは、古代ギリシャの遺物に、その始まりが見いだせる。専用のマシンの発明も古く、16世紀にはヨーロッパ各地で手動旋盤が用いられていた。イギリス人時計師との交流が深かったブレゲ創業者のアブラアン-ルイ・ブレゲは、ロンドンへの旅行中に、家具の金具に施されたギヨシェと出合ったという。そしてパリに戻ると、この技法を時計に応用できないかと考えた。それは自身が製作する時計に、特別な審美性を与えるのが目的……なだけではない。先端にリングを備える細身の針や、柔らかな筆致のアラビア数字の書体にその名を残す初代ブレゲは、優れた時計デザイナーでもあった。そのデザインは、首尾一貫して機能的であることを、第一の目的としている。ギヨシェも、この例外ではない。

 最初に試みられたのは、懐中時計のケースに対してだった。これは、ポケットから時計を取り出す際の滑り止めとして機能させることを目的とする。さらに彼は、緻密なパターン彫り装飾が、金属製のダイアルの反射を抑えるのにも有効であると気付く。元来は装飾のための技巧であったギヨシェを、初代ブレゲは時計の視認性を高める機能的手段として用いたのである。しかも早くから複数のパターンをひとつのダイアル内に組み合わせてもいた。彼が考案した複雑機構は、ダイアル内にいくつもの針が設置されることとなる。これらの周囲にそれぞれに異なるパターンのギヨシェを施すことで、機能を視覚的に切り分けようとしたのだ。

 

Liseré リズレ
細かな平行線を連ねるパターンで、初代ブレゲによる初期のギヨシェダイアルにも見られる伝統的な模様。このモデルでは、小さな植字のドットインデックスの内と外をこれで縁取ることで、ローマ数字の時インデックスと明確に切り分けた。
 
Clou de Paris クル・ド・パリ
日本語に訳せば「パリの爪」。45°の傾斜を持つふたつの溝を、90°傾けて彫り進めて交差させ、正確なピラミッド形を連ならせる最もオーソドックスなパターン。各ピラミッドの頂点が、鋭い突起を表しているのは手彫りならではだ。

 

Vieux Panier ヴュー・パニエ
デイ/ナイト表示の下側、夜の部分を彩るパターン。ヴューはフランス語で「古い」、パニエは「籠」の意味。デコール・フラメと同じ円弧をベースとし、幾何学的に並べることで籠の編み目が表現された。その印象は静的であり、夜の模様にふさわしい。
 
Décor Flammé デコール・フラメ
デイ/ナイト表示の上側、つまり昼の時間帯のスペースに施されるパターンで、日本語訳すれば「炎装飾」。円弧の模様を順に大きさを変えながら波打つような形の中に彫り進めたラインをわずかに重ねて連ねる様子は躍動感があり、陽光にも似る。

クラシック オーラ・ムンディ 5727
ギヨシェダイアルはブルースティールのブレゲ針とも相性が良く、明確なコントラストで視認性を高める。ギヨシェは、メインダイアル、デイ/ナイト表示の上下、インデックスを配したチャプターリングの縁に4つの異なるパターンを刻み、機能を切り分けた。ムーブメントは前出と同じ。18KRG(直径43mm)。3気圧防水。予価743万円。

 20世紀に萌芽したモダンデザインは、機能美をひとつの通念とする。初代ブレゲは、これに先んじて18世紀末に時計デザインに取り込んだ先駆者であった。

 以来、今日に至るまで、機能ごとに異なるパターンを組み合わせるギヨシェのダイアルは、ブレゲのデザインコードとなっている。今年発表された「クラシック オーラ・ムンディ 5727」のダイアルも、上の4つのギヨシェを使い分け、優れた視認性と美観とが融和する。

 その技巧は、初代の時代に倣う。現代のブレゲは、欧州各地の倉庫の片隅で朽ち果てんとしていた18世紀の手動ギヨシェ旋盤を熱心に探し集め、修理・改良を施して当時の技術を再現しているのである。動力こそ電気に置き換わっているが、旋盤はそれでもなお、手の助力に過ぎず、刃先を操ってパターンを構成するラインを彫り進め、その深さや角度を決めるのは職人の手技による。一刃ずつ彫りを重ねるブレゲのギヨシェは、他社が多用するプレスのギヨシェと比してエッジが際立ち、より光の反射を強く抑え、パターンごとの境目も一層明確にする。 こうして手彫りの伝統を受け継ぐ現代のブレゲのギヨシェダイアルは、機能美を極める。

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