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グランドセイコーが切り拓くニューフロンティア(3/5) 2016年07月号(No.65)

細部の精度が構築する外観美

ジルコニア・セラミックスでブライトチタンのミドルケースを覆う。アイデアだけ聞けば、実現は容易に思える。
しかし、GSの耐久性を盛り込むとなれば、いきなり条件は厳しくなる。
割れやすいセラミックスに、いかに耐久性を持たせるか。
必要だったのは、今までにないケース構造と、より高い加工精度であった。

(左)文字盤の構成は、過剰とも言えるほどの重厚さだ。下から文字盤、ショックを吸収するリング状のバネ、文字盤リング、そしてベゼル。文字盤リングとケースの間にバネを噛ませてあるため、ショックを受けても文字盤が傷む心配はほぼない。(右)直径38mmという大きな文字盤。しかし正確には、下段が文字盤で、インデックスが取り付けられた上の部品は、文字盤を支える文字盤リングである。大きな文字盤に立体感を与えるためにこのような構造が採用された。特殊な形状のリングにインデックスを固定し、上から一定の力で押さえてインデックスの脚をかしめ、その後、裏から接着剤を塗布して固定する。なお、プレスに使うジグは、リングとの完璧な噛み合わせを実現するため、2回作り直したとのこと。リングを押さえる突起の厚さは、0.45mm。押し込むと完全にフィットする。

 ブライトチタンにジルコニア・セラミックスの外殻を被せたハイブリッド構造。セイコーはフルセラミックスも検討したが、裏蓋をねじ込み式にできないこと、経年劣化を否定できないことから、ブライトチタンとセラミックスの混合に決めた。「例えばストラップを固定するバネ棒。常にテンションがかかると、クラックが入る可能性がある」(江頭氏)。あり得ないように思えるが、実際、フルセラミックケースの穴の周囲に亀裂が入った例は少なくない。

 類を見ないハイブリッド構造のケース。開発に際して、セイコーは細かい配慮を加えた。まずは外殻とミドルケースのクリアランスを最小限に抑えたこと。「セラミックスは脆性材ですが、わずかにたわむのです。ですから、ミドルケースに密着させることで、ショックで割れる可能性を軽減しているのです」。セラミックスとチタンの間を可能な限り詰めた理由だ。そして、クリアランスを詰めた分、高級感が生まれる。外殻を固定するネジの位置にも工夫がある。4つのネジは、ケースの中心に向けてねじ込まれた。理由は、セラミックスに最も負荷をかけない角度のため。

 ミドルケースに軽いチタンを採用したことも、配慮のひとつだ。時計が軽くなると、落下時の衝撃は大きく減る。結果、ハイブリッド構造を持つこのケースは、通常GSで実施する落下テストをクリアしている。また、セラミックパーツを分割しているため、仮に外殻が破損してもケースを全交換する必要がない。

 しかし、加工は困難だった、とセイコーエプソンの担当者は語る。例えばインナーケース。ラグとケース部分のつなぎ目は非常に細いバイトで切削している。これは量産品の加工用としてはあり得ない細さだが、セラミックスとのクリアランスを正確に保つには、この細さが必要だったという。またラグの内側も、加工が難しい箇所であった。

「セラミックスとチタンの面が揃っていないと段差が残ります。そのため、ストラップの取り付け部がすぐに傷みます。揃えるには組み上げた後、ヤスリがけをすればいいのですが、痕が残るためにストラップを傷めるし、磨くと割れやすくなる」(久保氏)。結局、セイコーエプソンは、ヤスリがけで整面せずとも面が揃うように、サンプルを6回作り直した。

 ケーシングも今までのGSよりもはるかに手間がかかる。ムーブメントに文字盤を据え、時針とクロノグラフ秒針以外の針を取り付けてケーシング。文字盤側にひっくり返した後、文字盤リングを被せ、ここで分針とクロノグラフ秒針を取り付け、ベゼルを固定する。大変な手間だが、結果、直径38㎜という大きな文字盤と、インデックスに届く長い針の採用に成功した。

 ハイブリッドケースというセイコーならではの試み。可能にしたのは、GSのリバイバル以降に培われてきた、セイコーエプソンの外装加工技術だったのである。

ハイブリッドケースの構造。ブライトチタン製のミドルケースを、ジルコニア・セラミックス製の外殻で覆っている。両者が完全に接触するのは、ネジ留めの部分のみ。ほかは、衝撃を受けた際に接触しないよう、意図的にクリアランスが取られている。もっとも間隔を厳密に取るため、ミドルケースは超精密なバイトを使いミクロン単位で加工される。

(左)ブライトチタンを磨く作業。バフを柔らかく当てて磨いていく。硬くしたとはいえ、もともとチタン。力を入れるとたちまち平面は歪む。(中)裏蓋の筋目付け。湾曲した裏蓋に、ヤスリを当てて筋目を付けていく。鏡面仕上げにした箇所に被らないよう、注意深く当てていく。(右)裏蓋側から見たミドルケースとアウターケースの噛み合いの様子。筋目を施した裏蓋側、鏡面仕上げにした側面、そして2/100mmで噛み合わされたアウターケースが連なる。
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