2017年 日本の高級時計市場の行方

ジョナサン・キング（オーデマ ピゲ ジャパン代表取締役兼最高経営責任者）
英国・ロンドン生まれ。IWCのシンガポール、マレーシア、インドネシアを統括する支社のブランドマネージャーを皮切りに、リテールと輸出担当の北東アジア責任者を務める。2009年にヴァン クリーフ＆アーペル（シンガポール・マレーシア）のジェネラルマネージャーに就任。その後、同社の東南アジア支社の社長を歴任。2012年12月３日より現職。

　オーデマ　ピゲがヘッドクォーターを置くスイス・ジュウ渓谷はル・ブラッシュの地域性を調度類にも盛り込んだ銀座の直営ブティックで、日本の代表を務めるジョナサン・キング氏に会った。店の内装同様、彼もまた、ビジネスには地域性がとても重要だと説くひとりだ。

「外国人観光客は大歓迎です。しかし、オーデマ　ピゲはインバウンド需要が高まった後も、売り上げを彼らに依存することはありませんでした。つまり、日本の売り上げの核は日本人なのです。オーデマ　ピゲの総生産本数は、最大でも４万本。日本はグローバルアベレージに近い本数が入荷しますが、その数を考えると、商品は非常に限られた層にしか届きません。したがって、インバウンド需要の減衰に左右されている他のメガブランドとは比較するのが難しいのです」

　幸いなことに、スイスを代表する名門の我が国における売り上げは落ちていないようだ。「2015年は大きな、2016年はややなだらか」になりながらも、なおも成長曲線を描いている。昨年は英国のEU離脱、安定しない為替市況、米国の大統領選などに左右される「不透明な局面」を迎えつつも、信頼の置ける、つまり不確かな時代であっても、自身の生活に長きにわたって彩りを添え、なおかつ投資にも足る素晴らしい商品を作るブランドというステイタスが日本国内には根付いているので、その根幹がぐらつくことはないという風に見受けられる。

「2015年以降、新作の評価がとても高いというのも成功の大きな要因でしょう。2015年に発表したロイヤル  オーク コンセプト RD＃１が、わずか１年でロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリとして製品化を果たすなど、我が社の複雑時計における革新的なアイデアと技術力が周知されていることもストロングポイントです」

　日本の顧客は数百の手作業を経たオーデマ ピゲのプロダクトを購入するのであり、私たちも彼らの期待に応えるべく、活発に行うイベントなどを通じて顧客とのリレーションをより深めていきたいとキング氏は語る。まさに「地域性」の発露ではないか。

　最後に今年の展望を聞いた。

「オプティミスティックであるという意味ではありませんが、日本は過去に何度も経済的な危機を経験していますが、不安定な局面からすぐに成長曲線を描く術を知っています。顧客の方々のメンタリティも同じでしょう。エキサイティングな商品さえあれば、彼らは我が社を四半期や単年といった短いタームで結果は見ないと思います。ですので、我がオーデマ ピゲ ジャパンも顧客サービスと製品の地域性、クオリティの最重視という従来の基本路線を変えるつもりはありません」

　スイス時計全般が苦戦を強いられる中、複雑時計揺籃の地であるジュウ渓谷の地域性（独立性、イノベーションの中心地）を強く打ち出すオーデマ ピゲの高評価が揺らぐことはないはずだ。もちろん、ロイヤル オークとロイヤル オーク オフショアという２枚看板を持つのも、市場での優先順位を得るにあたって大きなポイントとなろう。

　キング氏の英国紳士の鑑のような落ち着いた物腰と理知的な発言の数々は、名門の先頭役としてまことにふさわしい。期待して次なる成果を待ちたい。