2017年 日本の高級時計市場の行方

2017.02.03
伊知地 徹(オフィチ−ネ パネライ ブランドCEO)

1968年東京都生まれ。獨協大学経済学部経営学科卒業後、1992年に大沢商会入社。時計部に配属され、ヴァン クリーフ&アーペル、ニナ・リッチ、モバードなどを手がける。同社を辞し、ある時計ブランドの日本法人設立に参画。セールスマネージャーを務める。2000年9月より現職。32歳でのブランドCEO就任はリシュモン ジャパン最年少記録である。

 

 今回の取材では最年少ながら、ブランドの最高責任者という立場においては、我が国で最も長いキャリアを持つのが、伊知地徹氏である。20世紀最後の年にオフィチーネ パネライのブランドCEOに就任して以来、ブランドの日本市場における黎明期からデカ厚ブームに沸いた勃興期、さらにはリーマンショック真っ只中というタイミングでの銀座ブティック開店、長引く不況の産物たる小径・薄型化への揺り返しに対する苦慮……。実にさまざまな局面に立ち会ってきた。そして今また、彼はインバウンド需要の減衰と、株価や雇用不安、グローバル化の崩壊が緩やかに進む不透明な2017年という一時期において、イタリア海軍特殊部隊御用達商の末裔という、極めて特殊なブランドの日本地区最高責任者の重責を担い続けるのだ。

「マーケット内の変化は強く感じますね。ここ2年で外国人需要が——ゼロにはならないまでも——浮動票になり、一方のメインターゲットである日本人の顧客層は、多少の購買態度の変化は見受けられますが、着実に購買いただいているという状況です」

 多くのブランドが苦戦にあえいでいるという話は市況として当たり前のように聞く。パネライもまた然りと思っていたのだが。彼は続けてこう語る。

「全体的な単価の押し上げで、確かに中間層は弱くなっています。しかし、パネライは平均単価自体が上がっているので、そうした状況に惑わされず富裕層のマーケットにうまくフィットしています。平均単価は2015年が100万円強、2016年は値下げをしましたので90万円弱ですね」

〝最悪期〟は2016年の前半に脱したと語る伊知地氏はまた、さらなるセルアウトを促す起爆剤として、7月に10〜15%の値下げを断行した。告知から実施まで約2週間という早業であった。もちろんタイミングは、夏のボーナス商戦での勝機を見据えてのものである。顧客はもちろん、販売の前線に立つショップの店員を中心に、マーケットからはとても良い評価を受けた。高級商材の価値を減じさせないように値下げをするのは、ジャッジがとても難しいと思うのだが。

「適正価格で販売するという考えですね。日本市場だけの価値観では小売価格は決められません。透明性を保って、価格を戻したという認識です」

 では、小径・薄型化への対応はどうなのだろう。2000年代前半に市場を席巻した大型で分厚い時計は、もはやオールドスタイルである。しかし、仔細に市場を見渡してみると、ビッグサイズを堅持、つまり当時のサイジングを現行にまで持ち込んでいる唯一のブランドはほぼパネライだけという事実に行き着くのだ。

「上は47㎜から下は40㎜。基本的なサイズ構成は変えていませんね。しかし、市場の動向に背を向けるだけでは生き残ってはいけません。そこで投入したのが、42㎜と45㎜サイズでありながら、薄型へとサイドを絞ったルミノール ドゥエのシリーズです」

 昔ながらのパネライファンは見向きもしないが、新しい顧客層の開拓につながったニューライン。日本はもちろん、北米、ヨーロッパ、中東でもすこぶる評判だという。

 最後に2017年の動向予想を聞いた。

「日本は成熟マーケットです。故に、大きな伸びは期待できません。しかし、昨対比で数%伸びる余地はまだ残されています。パネライはロレックスとオーデマ ピゲの中間に入っていこう、王道のスポーツウォッチに特化しようという戦略なので、コンテンツ豊富なブランド力を今後も維持、推進して多くのファンにアピールしていきたいと考えています」

 1月に開催されたSIHHでバリエーション豊富な新作群が出そろうことは、先行発表された「ラジオミール スリーデイズ アッチャイオ – 47mm」を見ても明らかだった。日本人の細腕にパネライは似合わないというパブリックイメージを払拭した伊知地氏率いるパネライチームの2017年は、間違いなく彩りに満ちたものになるだろう。

ルミノール ドゥエ スリーデイズ オートマティック アッチャイオ-45㎜
PAM00674。新時代のドレスウォッチとしてパネライが世に問うた新シリーズ。ケース厚11㎜に満たないため、装着感はとても良い。サテンソレイユ仕上げの文字盤など、ディテールも秀逸だ。自動巻き(Cal.P4000)。31石。パワーリザーブ約72時間。SS(直径45㎜、厚さ10.7㎜)。3気圧防水。112万円。

ラジオミール スリーデイズ アッチャイオ-47㎜
1930年代後半に作られたというヴィンテージピースを復刻したモデル。12面のカットベゼルには、“OFFICINE PANERAI ‒ BREVETTATO”の刻印が刻まれる。右はパネライのニューカラーであるシェイドブラウン、左はヴィンテージモデルの定番カラーであるブラックをそれぞれ文字盤に配している。PAM00687(右)。PAM00685(左)。自動巻き(Cal.P.3000)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径42㎜)。各103万円。

 

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