ウブロ「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー」かつてないヌケ感をもたらす素材×設計のコンビネーション

FEATURE本誌記事
2023.12.11

「アート・オブ・フュージョン(異なる素材やアイデアの融合)」を掲げて、さまざまな素材に取り組むウブロ。こういった試みは他社にも見られるが、ウブロのユニークさは、素材自体を自社でコントロールするところにある。ケースとブレスレットを透明なサファイアクリスタル素材に改めた「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー」は、素材と設計のコンビネーションで、かつてないヌケ感を実現する試みである。

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


ウブロの巧みな手腕を示す、サファイアクリスタル製のブレスレット

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー

 サンドイッチ構造のケースを持つウブロ「ビッグ・バン」は、高級時計の在り方を大きく変えた野心作だった。ケースの製造に鍛造ではなく、切削を採用し、複数の素材を組み合わせるという発想により、今までにはない素材をケースに使えるようになったのである。カーボン、セラミックス、そしてサファイアクリスタルなど、2000年代以降の高級時計を特徴付ける切削の可能性を明快に示した点で、ビッグ・バンは、その名にふさわしいインパクトを持っていた。

 以降のウブロは、新素材の開発に取り組むことで、切削や加工というテクニックに習熟するようになった。現時点におけるその集大成が、サファイア製の外装を持つ「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー」である。

 同社は2016年の「ビッグ・バン サファイア」でケースとベゼルに硬いサファイアクリスタル素材を採用し、翌17年にはブルーとレッドのカラーサファイアを追加した。最初期のモデルはミドルケースが樹脂製だった。ケースの気密性を高めるなら妥当な選択だろう。しかし、ウブロのサファイアモデルは、今やすべてがサファイア製となった。可能にしたのはノウハウの蓄積である。ニヨンにあるウブロの工場では、サファイアを切削するだけでなく、サファイアクリスタルの素材自体も内製するようになった。あくまで研究段階だが、素材から取り組むことで、ウブロはサプライヤーに依存するメーカーとは違う次元でサファイアを扱えるようになったのである。

 ウブロCEOのリカルド・グアダルーペはこう語る。「良質なサファイアケースの時計を少量生産できるメーカーはあるでしょう。しかし、まとまった数を作れるメーカーはウブロしかありません。ニッチなメーカーは数を作れませんし、大メーカーはさまざまなリスクがあるため、サファイアケースに取り組めませんからね」。

 ノウハウの蓄積は、サファイア製のブレスレットに見て取れる。正直、サファイア素材でケースを作るよりも、ブレスレットの方がはるかに難しい。コマの左右に遊びを持たせないと破損するが、遊びを持たせ過ぎると、やはり壊れてしまうためだ。対してウブロの技術陣は、コマをつなぐインサート(金属製のチューブ)を柔軟性のあるチタン素材に改め、さらに短く切ることで、左右に適度な遊びを持たせた。また、仮に破損しても交換がしやすいよう、すべてのコマはネジ留めとなった。満を持して発表されたサファイア製のブレスレットとは、サファイアの扱いに習熟したウブロの自信の表れだろう。「完成には5年かかった」とグアダルーペが語るのも納得だ。

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー

ウブロ/ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルサファイア レインボー
ケースだけでなく、ブレスレットまでサファイア製のモデル。輪列のコンパクトなムーブメントを採用し、受けをサファイアに改めることで、かつてないヌケ感を得た。ベゼルには48個のカラーストーンがあしらわれる。外装と素材に注力してきた、ウブロの記念碑的モデルだ。自動巻き(Cal.HUB6035)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。サファイアクリスタルケース(直径43mm、厚さ15.25mm)。30m防水。世界限定30本。6550万5000円(税込み)。

 ベゼルにあしらわれた貴石や半貴石にも、今のウブロらしさが見て取れる。ベゼルでレインボーカラーを表現するのは、48個ものカラーサファイア、ルビー、トパーズ、アメジスト、ツァボライト。貴石だけで揃えるという時計業界の定石を破ったのは、透明なサファイア素材にふさわしい、ヌケ感と色を重視したためだ。

 ムーブメントにも工夫が凝らされた。搭載されるHUB6035は、輪列がコンパクトなトゥールビヨンに、香箱と同軸に重ねたマイクロローターを加えたムーブメントだ。古典的な設計思想からすると悪手だが、ウブロはスケルトン化を前提として、ムーブメント内の余白を可能な限り広げたのである。加えて本作では、受けをサファイアに改めて、時計全体のヌケ感をより強調した。改良はムーブメントに留まらない。ウブロはケースから見えている大半のビスを除くことで、ケース内のすみずみまで光が届くように改良したのである。本作では、ケースだけで37、ブレスレットで165もの部品が使われているが、全体の透明感はそれを感じさせない。

 2005年のビッグ・バン以降、切削を武器に、新素材の採用に取り組んできたウブロ。透明であることを前面に打ち出した本作とは、ウブロの真摯な歩みがもたらした集大成と言えるだろう。



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