メートル・デュ・タンが凄い理由を教えよう

2016.08.03

チャプターワン トノー ビスポーク
右モデルのユニークピース。インデックスの書体や、インダイアルの色などが変更されている。なおチャプターワンがトノーケースを持つ理由は「私は(カーベックスケースで有名な)グリュエンの出身だから」とのこと。長年高級時計を扱ってきたホルツマンの経験を反映してか、外装の仕上げも、大手メーカーのハイエンドモデルを凌駕する。この点も、多くの独立時計師がメートル・デュ・タンに信頼を寄せる所以だ。基本スペックは右モデルに同じ。18KRG。参考商品。
チャプターワン トノー トランスペアレンス チタニウム
2008年初出の第1作は、GMTと曜日・日付・月齢表示を備えたトゥールビヨンクロノグラフ。設計と製造に携わったのは、クリストフ・クラーレとピーター・スピーク-マリンである。ケースの上下には、ホルツマンのアイデアによる、ローリングバー式の月齢・曜日表示を備える。手巻き(Cal.SHC02.1)。58石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti(縦62.6×横45.9mm)。世界限定11本。非防水。7960万円。

独立時計師を超えた3つのコラボレーション

 独立時計師にオリジナルの時計を作らせるというアイデア。多くの企業家が取り組んだものの、成功したのはMB&Fと、メートル・デュ・タンしかない。

 創業者のスティーブン・ホルツマンに他のビジネスマンとの違いを見出すならば、彼が時計を愛し、かつ時計師たちに心からの敬意を払った点にある。創業時に彼が声をかけたのは卓越した6人の独立時計師たち。彼らは2005年以降、チャプターワン、トゥー、スリーという3つの傑作を作り上げた。

 シリアスな時計愛好家を魅了し続けるメートル・デュ・タンの時計。ここではその魅力をいくつか挙げたい。ひとつは、スイスの高級時計でも最上級の仕上げを持つこと。これは「チャプターワン」の地板に施されたペルラージュを見れば一目瞭然だ。ペルラージュを均一にしかも隙間なく施すには、優れた加工技術とそれ以上に入念な手作業が必要になる。こうした仕上げは現在では望むべくもないが、メートル・デュ・タンは一切手を抜かない。

チャプタートゥーTCR
右モデルのムーブメントを、スポーティなチタンケースに収めたのがチャプタートゥーTCRである。併せてストラップもチタン製のデュプロインバックル付きのラバーに変更された。柔らかいチタン材を立体的に整形するのは極めて難しいが、メートル・デュ・タンはただ3D上に作るのではなく、かつてない造形を与えることに成功した。それを示す、ケースの切り立ったエッジに注目。基本スペックは右モデルに同じ。Ti×18KRG。1410万円。
チャプタートゥー オリジナル
ケースの上下に高精度ローリングバーによる月と曜日表示を持つトリプルカレンダーウォッチ。開発に携わったのは、ピーター・スピーク-マリンとダニエル・ロート(!)である。大きなふたつのローリングバーは日の裏輪列側から取られた動力で動いている。仕組みは大がかりだが、節度ある動きや緻密な感触は比類ない。自動巻き(Cal.SHC01)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWG(縦45×横32mm)。3気圧防水。1390万円。

 もうひとつが卓越した外装の作り込みだ。残念ながら、独立時計師の多くは優れたムーブメントを作れるものの、外装には総じて無頓着である。しかしスティーブン・ホルツマンは、ムーブメントと同じ水準の仕上げを、独立時計師たちに求めた。一例がチャプタートゥーのケースだろう。複数の部品で構成されるケースのチリ合わせは完全で、しかも面は整っている。独立時計師の作品で、これほどのケースを持つ例を、筆者はほかに知らない。

 ユニークな機能も大きな魅力のひとつである。チャプターワンとトゥーには、ローリングバーによる月、曜日、月齢表示などが付いている。多くの独立時計師たちは総じて保守的で、こういう斬新な機構に取り組もうとしない。しかしメートル・デュ・タンのみはクリストフ・クラーレやピーター・スピーク-マリン、そしてアンドレアス・ストレーラーという〝腰の重い〟独立時計師たちに、かつてない機構を作らせることに成功したのである。

「チャプタースリー リヴィール」。カリ・ヴティライネンとアンドレアス・ストレーラーによる第3作。リュウズのボタンを押すと文字盤の一部が開き、12時位置の昼夜表示と6時位置の第2時間帯を表示する。ちなみにムーブメントの設計がヴティライネン、回転式の表示機構がストレーラーによるもの。ただしムーブメントは自社製造・自社組み立てとなった。手巻き(Cal.SHC03)。39石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約36時間。18KWG(直径42mm)。3気圧防水。1500万円。

 さらに付け加えるならば、自製化の進展も見逃せない要素だ。製品の完成度を高めるべく、メートル・デュ・タンはムーブメントの内製化に着手。コレクションの完成度をさらに高めつつある。

 さまざまな才能を融合させ、しかもひとつの時計として見事にまとめ上げたメートル・デュ・タン。このメーカーが、独立時計師の〝最良〟を引き出すことに成功した秘訣は、すべてのモデルのバックケースに、誇らしげに刻まれた刻印を見れば理解できよう。〝匠たちと彼らの創作とは、果てしなき卓越さの追求である〟。このメッセージを目の当たりにして、心の震えない時計師はいないだろう。

   
Cal.SHC02.1
チャプターワンが搭載するムーブメント。クラーレ製のトゥールビヨンクロノグラフにレトログラード式の日付と第2時間帯表示を加えている。ケースの上下には、ローリングバー式の月齢表示と曜日表示を搭載。大きく重そうに見えるがアルミ製。「軽いため振り角への影響はほとんど無い」(スピーク-マリン)。
 
Cal.SHC01
チャプタートゥー用のムーブメントは、スピーク-マリンとダニエル・ロートの共同作である。ムーブメントの基礎設計は汎用エボーシュからの転用だが、地板を含めてほとんどが作り直されている。ムーブメントの上下にローリングバー式を持つのは、チャプターワンに同じ。実用性と審美性を巧みに両立した傑作だ。
 
Cal.SHC03
カリ・ヴティライネンとアンドレアス・ストレーラーの手がけた、チャプタースリー用のムーブメント。レクタンギュラームーブメントを横に置き、上下の隙間にローリングバーを収めた設計が光る。驚くほど野心的な構成だが、部品の配置には無理がない。また受けの面取りなどはヴティライネン譲りの緻密さを誇る。
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