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GREUBEL FORSEY 完全無欠の手仕上げ美(2/2) 2016年11月号(No.67)

ダブルバランシエール Ref.91005660
初出2013年。30°に傾斜させたふたつのテンプを持つ時計。テンプはコンスタントディファレンシャルギアで連結され、それぞれの歩度と姿勢差誤差を平均化させる。一種のレゾナンス機構だが、物理的にそれを行った点が興味深い。手巻き(Cal.GF04)。50石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径43.5mm)。3気圧防水。世界限定33本。3990万円。
シグネチャー1 18KRG Ref.91008409
初出2016年。グルーベル フォルセイ初のシンプルウォッチ。同社に所属する時計師、ディディエ・クレタンとの共同作品。いわゆるエントリーモデルだが、現行3針モデルの中では、仕上げは随一か。手巻き(Cal.GFS1)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約54時間。18KRG(直径41.4mm)。3気圧防水。世界限定11本。1990万円。

 長らく知る人ぞ知る存在だったグルーベル フォルセイ。平均価格5000万円以上、創業以来の総生産数は約1070本と聞けば、よほどのコレクターであっても見る機会がなかったのは当然だろう。加えて、かつてのモデルはデザインのアクが強く、サイズも大きかった。つまり、買えるコレクターであっても食指を動かしにくかったことは否めない。

 しかし、銀座に新しくギャラリーが生まれ、年々デザインも洗練された結果、以前より敷居はずいぶん低くなった。価格は相変わらず途方もないが、時計の完成度を考えれば、これは妥当と断じたい。筆者の知る限り、止まった時計を軽く振るだけでキャリッジがひとりでに回り出すトゥールビヨンは、グルーベル フォルセイをおいてほかにないのである。

 ルノー・エ・パピに勤めていたロベール・グルーベル氏とステファン・フォルセイ氏。彼らは1999年に独立し、2001年にコンプリタイム社を創業した。

グルーベル フォルセイ共同創業者のステファン・フォルセイ氏。1967年、英国生まれ。87年、宝石商のアスプレイに入社。修復部門のマネージャーを務めた後、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ)に入社。99年にロベール・グルーベル氏と独立し、2001年にコンプリタイム社を創業。04年にグルーベル フォルセイ社を設立し、第1作のダブル トゥールビヨン 30°を発表。

 フォルセイ氏はこう語る。「独立した私たちはコンプリケーションを作ろうと思った。トゥールビヨンにフォーカスした理由は、それが200年もの間、大きく変わっていなかったからだ」。

 グルーベル フォルセイの特徴のひとつが、トゥールビヨンへの傾倒である。「シグネチャー1」と「ダブルバランシエール」以外、彼らはトゥールビヨンのみを作ってきた。

「トゥールビヨンの進化は3つある。1870年のアルバート・ポッター、1926年のアルフレッド・ヘルヴィグ、そして1976年にアンソニー・ランデルが作った2軸トゥールビヨン。今のトゥールビヨンは大変良く出来ているが、基本的には懐中時計用のトゥールビヨンを小さくしただけだ」。対して、グルーベル フォルセイは腕時計専用のトゥールビヨンを作ろうと考えた。それは「デルタの平立差(≒姿勢差誤差)を可能な限り縮めたトゥールビヨン」。2004年に完成したのが「ダブル トゥールビヨン °30」。

「平立差を平均化するには、キャリッジを45度傾ければいい。しかし、テンプの直径は11㎜、キャリッジのそれは14㎜。45度傾けるとケースの厚みが増すので、あえて30度にとどめた。平置きで30度、立置きで60度、つまり平立の差は30度しかない。姿勢差誤差は詰まるだろう」

ダブル トゥールビヨン 30° テクニック Ref.90002395 5Nレッドゴールド
初出2004年。グルーベル フォルセイの第1作にして代表作。30°傾けたキャリッジは1分間に1回転、それを動かす第2のキャリッジが4分間に1回転することで時計の姿勢差誤差を大幅に減少させる。手巻き(Cal.GF02s)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約120時間。18KRG(直径47.5mm)。3気圧防水。5916万円。

グルーベル フォルセイの開発した2軸トゥールビヨン。フォルセイ氏いわく「キャリッジを30°傾けると、時計を平置きで保管するときの精度も安定する」とのこと。キャリッジの重量は1.17gもあるが、スムーズな回転は、その重さを一切感じさせない。精度の調整はテンワの上面ではなく、側面(!)に設けられた4つのミーンタイムスクリューで行う。
  
グルーベル フォルセイによるトゥールビヨンの姿勢差に関するグラフ。赤線は一般的な機械式時計、青線は一般的なトゥールビヨン、緑線は2軸のダブル トゥールビヨン 30°を示す。効果が疑われる多軸トゥールビヨンだが、グラフの通り、結果は良好だ。2軸で回すことにより天真にかかる側圧が分散され、姿勢差誤差は6姿勢で3.5秒以内に減少した。

 以降、彼らは一貫してデルタの平立差、つまり時計の姿勢差誤差を減らそうとしてきた。「創業以来、作ってきたムーブメントは延べ20種類。私たちはどうすれば姿勢差誤差を詰められるかについて経験を積んできた。トゥールビヨンの平立差を図で明示したのは、私たちが初だろう」。

 2011年のクロノメトリーコンクールで、市販品のダブル トゥールビヨン °30は1000点中915点という得点で優勝した。6姿勢での姿勢差誤差は実に0・3秒から0・8秒以内。彼らが精度を誇るのもむべなるかな、だ。

 そして、もうひとつの特徴が、仕上げである。グルーベル フォルセイと聞けば、私たちは卓越した面取りや筋目仕上げを思い浮かべる。しかし、より重要なのは、抵抗を減らすための仕上げである。この点で、グルーベル フォルセイにかなうメーカーは存在しないだろう。

トゥールビヨン 24 セコンズ ヴィジョン レッドゴールド Ref.91007122
初出2015年。25°傾いたキャリッジを24秒で1回転させる「トゥールビヨン 24 セコンズ」(2007年)のムーブメントと外装を改良したモデル。文字盤は素っ気ないが、インデックスはグラン・フーエナメルの象嵌仕上げ(!)である。手巻き(Cal.GF01r)。41石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG(直径43.5mm)。3気圧防水。3364万円。2015年のジュネーブ ウォッチ グランプリで金の針賞を受賞したトゥールビヨン24セコンズ ビジョン ホワイトゴールド Ref.91005850も銀座ギャラリーに在庫する。
本作の特徴である裏側に大きく飛び出たキャリッジのみをドーム型サファイアクリスタルで覆うことで、それ以外のケース厚を13.65mmに抑えた。装着感が悪くなりそうだが、腕に載せても違和感はない。理由は「腕の凹みに収まるようにドームを設計したため」(フォルセイ氏)。ケースは外部メーカーの製造だが、ムーブメント同様、卓越した仕上げを誇る。

例えば、ダブル トゥールビヨン °30。フォルセイ氏が意地の悪い表情で質問してきた。「このモデルの主ゼンマイのトルクはいくつだと思う?」。最も力の弱いプゾー7001が500g、ETA2892A2は800g。800gはあるはずと答えたところ、彼はその半分だと言う。

「摩擦こそが時計のリスクだ。今の時計は精度を上げるために振動数を高めるが、私たちはそれを好まない。他社を批判しているわけではないが、私たちは摩擦を減らし、弱い力で高いパフォーマンスを出したい。香箱の回転を速くし、ホゾを丁寧に磨き、穴石にオリーベを使う理由だ」。そのためにもメカニズムは手で仕上げるのが重要、とフォルセイ氏は語る。

「今では手仕上げはほとんど残っていない。でも最高の手仕上げは、パフォーマンスを出すし、工業化された製品にはない美しさもある」。他の人間が言うと説得力はないが、ステファン・フォルセイ氏には言うだけの資格があるだろう。

 筆者が思うに、今のグルーベル フォルセイに比肩するプロダクトはひとつしかない。卓越したメカニズムとそれを支える手作業は、戦前のロールス・ロイスそのものである。ひょっとしてフォルセイ氏は、祖父がエンジニアを務めていた時代のロールス・ロイスを、腕時計で再現したいのかも知れない。戦前のロールス・ロイスは、見ようと思っても不可能だ。しかしグルーベル フォルセイは、銀座に出向けば実際に見ることができるし、その価値は間違いなくあるのだ。

グルーベル フォルセイ 銀座ギャラリー
営業時間/13:00~19:00 (日曜・火曜定休、臨時休業あり)
Tel.03-6264-5685
〒104-0061 東京都中央区銀座6-4-6 花の木ビル1階

2016年8月30日、銀座の外堀通り沿いにグルーベル フォルセイのブティックがオープンした。日本唯一の取扱店舗というだけでなく、常時7~8本という在庫数は世界屈指である。実際にグルーベル フォルセイの作品を眺めながら、詳細な説明を受けることができるのは貴重な体験だ。

Contact info: グルーベル フォルセイ銀座ギャラリー Tel.03-6264-5685
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