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F.P.ジュルヌ 帰ってきたヴァガボンダージュ(2/4) 2016年11月号(No.67)

待望の
ヴァガボンダージュⅢ
開発プロジェクト進行中

新作ヴァガボンダージュⅢの文字盤のプロトタイプ。サファイアクリスタル製。文字盤の5分の位置に見える切り欠きはパワーリザーブ表示のためのもの。30分位置には2桁のデジタル式秒表示用の開口部がふたつ見える。45分から50分位置に見えるのは、時表示用の開口部である。 今回、ヴァガボンダージュⅢで確認できたのは文字盤のみ。デジタル表示の時と秒を瞬時に切り替えるムーブメントはすでに完成しているが、完璧主義のジュルヌは社内の人間にさえめったに見せない。「テストしているが機構はまったく問題ない。2017年1月に発表する予定」とのこと。

 フランソワ-ポール・ジュルヌの手掛けた時計で、最も愛好家を刺激してきたのは何か?

 異論があることを承知の上で言うと、そのひとつは間違いなく、「ヴァガボンダージュ」だろう。限定数の少なさもさることながら、天才ジュルヌが、精度や実用性ではなく、表示の面白さに特化してコレクションを作ってきたことが、コレクターたちを刺激してきたのだ。

ヴァガボンダージュⅢのスケッチ。上に見えるのは、2桁の秒表示ディスクの連結方法である。1の位のディスク外周には、ひとつだけ大きな突起がある。ディスクが1回転すると、突起が10の位を示すディスクに引っかかり、瞬時に切り替える。極めて簡潔な解決策だ。

トゥールビヨン・スヴランが載せるルモントワール機構(特許EP 1 528 443 A1)。2番車の回転運動は秒針が付いたルモントワール車を経て、風車状のガバナーと、キャリッジを動かす4番カナにつながる中間車に伝わる。力が伝わって中間車が回ると、手前の巨大なプレートごと奥にせり上がり、奥のルモントワールスプリングが手前方向に押し戻す。プレートが押し戻されるとプレート先端の爪がガバナーとの噛み合いを外され、そこに噛み合ったルモントワール車が1秒分進む。

 ちなみに、第1作となるプロトタイプの発表は2004年、2作目のお披露目は2010年である。とすれば、そろそろ「ヴァガボンダージュⅢ」が出ても良さそうだ。3作目の予定はないのか尋ねたところ、ジュルヌは「来年1月に出す」と即答した。

「3作目のヴァガボンダージュⅢは、2作目の延長になるだろう。つまり、ルモントワール機構を使って、デジタル表示を行う時計だ」。主ゼンマイのトルクを一定に抑えることで、テンプの振り角を一定に保つルモントワール機構。今でこそさまざまなメーカーが採用するが、初めて腕時計に載せたのは、F.P.ジュルヌの「トゥールビヨン・スヴラン」だった。当時、ジュルヌはこう説明した。「トゥールビヨンは精度が出ない。だから、主ゼンマイのトルクを安定させるためにルモントワールを加えた」。

トゥールビヨン・スヴラン
今もって腕時計トゥールビヨンの金字塔。新規設計のコンパクトなルモントワールを採用することで、デッドビートセコンドの搭載と、テンプの振り角を安定させることに成功した。テンプの振り角は常時280°以上を保つ。手巻き(Cal.1403)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRG(直径40mm)。3気圧防水。1787万5000円。

 そもそもルモントワールとは、テンプの振り角安定のために、主ゼンマイから伝わるトルクを一定にする付加機構だった。しかしやがて、意外な副産物でも知られることになる。ルモントワールを噛ませると、輪列を動かすトルクが抑制される。結果、余った力を、時計の駆動以外に回せることが分かったのである。A.ランゲ&ゾーネの技術陣はこの副産物に着目し、機械式ながら、分と時間を瞬時切替するデジタル時計「ツァイトヴェルク」を完成させた。ジュルヌもこう語る。「ルモントワールにはふたつのメリットがある。ひとつは精度の向上、もうひとつは付加機能を動かせること」。

 しかし筆者の知る限り、ジュルヌはルモントワール機構を精度にのみ使ってきた。筆者はトゥールビヨン・スヴランが載せるシンプルなルモントワール機構を好むが、その極端な簡潔さを思うと、付加機構を動かせるほどのトルクに耐えられるとは思えない。

「いや、トゥールビヨン・スヴラン以外にもルモントワールは用いてきた。ヴァガボンダージュⅡの瞬時切替式デジタル表示は1分間ルモントワールで実現したものだ。Ⅲは、1分ではなく、1秒ルモントワールでデジタル表示を行う」

 ヴァガボンダージュⅡがルモントワールを載せていたこと自体驚きだが、1秒ルモントワールでデジタル表示云々は、実現可能とは思えない。Ⅲを見せてほしいと頼むと、ジュルヌは渋々スマートフォンを開き、動画を見せてくれた。

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