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[Kamine × Time Aeon Foundation ×クロノス日本版]〝伝統を守る〟という想いが交差する瞬間(2/3) 2016年11月号(No.67)

トークセッションの会場となったのは、神戸港に建つ高級ホテル「ホテルオークラ神戸」。最上階フロアのバンケットルームには、多くの時計愛好家だけでなく、メディア関係者も来場。“Le Garde Temps, Naissance d’une Montre”(時を計る、時計の誕生)に対する関心の高さがうかがえた。なお、今回のトークセッションは、ライター篠田哲生氏の進行による“公開取材”という形で進められた。

ステファン・フォルセイ氏
1967年、英国・セントオールバンズ生まれ。ロンドンの時計学校を卒業し、87年よりアンティークウォッチの修復師として活動。その後、アスプレイの高級時計修復部門の責任者となる。90年、スイスに渡り、ヌーシャテルのWOSTEPで複雑時計の教育を受け、92年に複雑時計工房ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ)に入社。複雑機構を担当する。99年に同僚のロベール・グルーベルと共に独立し、2004年にハイエンド時計ブランド「グルーベル フォルセイ」を設立。完璧で理想的な時計作りを目指すため、徹底的な手作業と少量生産を貫いており、ジュネーブ ウォッチ グランプリでも高評価を得ている。

篠田哲生(以下ST) 仕事柄、さまざまな時計ブランドの工房に取材に行くのですが、10年ほど前からどこの工房に行っても同じような工作機器を目にするようになりました。もちろん、精密な金属加工ができるので、時計の品質レベルが向上したのは事実でしょう。時計を購入するユーザーにとっては安心感がありますが、その一方でいわゆる〝伝統的な手仕事〟を使う機会が減っているように思えるのです。これは危機的状況ではないですか?

ステファン・フォルセイ(以下SF) それは事実ですね。テクノロジーの進化は目覚ましく、伝統技術が隅に追いやられているのが現状です。例えば、伝統的な仕上げの技法は、時計学校でもほとんど学ぶことはできず、実技を積む機会は失われる一方。ですから技術の伝承は、かなり意識的にやっていかねばならない時代になっています。

ST その危機感から2007年に設立されたのが“Time Aeon Founda- tion”。そして、2009年に始まったプロジェクトが、“Le Garde Temps, Naissance d’une Montre”(ル・ガルド・タン ネソンス ドゥンヌ モントル=時を計る、時計の誕生/以下ガルド・タン)ですね。今回は主要メンバーであるフィリップ・デュフォーさんから、ビデオメッセージが届いているので、まずはそちらをご覧ください。

フィリップ・デュフォー このプロジェクトは7年ほど前から始まりました。きっかけは、旧知の時計師であるロベール・グルーベルやステファン・フォルセイとの何気ない会話からです。私たちは顔を合わせるたびに、〝時計芸術〟のノウハウがどんどん失われていくという現状を嘆き合っていました。そして、この悲惨な状況を軽減させるために我々が協力して行動を起こせば、もしかしたら食い止めることができるかもしれないと考えたのが始まりでした。しかし、このプロジェクトを進めるためには、やる気のある時計師を探す必要がありました。そして、ミッシェル・ブーランジェに出会ったのです。彼は、このプロジェクトの意義を理解し「やりましょう」と快諾してくれました。彼はパリの時計学校の教師ですが3年間休職してプロジェクトに参加してくれました。最初のデッサンから部品の製造、仕上げに至るまで、すべてのノウハウを教え込んでいきました。このプロジェクトは2012年からS.I.H.H.でも紹介しており、弓鋸や旋盤を使った作業を見てもらいました。残念ながら周囲の反応は薄くて、博物館の展示物のように思われていたようです。今年の1月にプロトタイプが完成し、クリスティーズをはじめ、世界中の時計関係者が注目してくれるようになりました。中でも、時計文化を理解するカミネだから、このプロジェクトを提案したのです。

時計業界の危機感が卓越した
技術を持つ時計職人を動かした

篠田哲生氏
1975年、千葉県生まれ。講談社『ホット ドッグ・プレス』を経て独立。フリーランスのエディター&ライターとなる。時計学校を修了した実践派で、守備範囲は高級機械式時計からカジュアルウォッチまで幅広い。仕事の幅も広く、骨太な時計専門誌からファッション誌、新聞、ウェブサイトなど、40を超える媒体に寄稿。時計をライフスタイルアイテムと捉え、時計を通じて豊かな時間を提案するのがモットー。

ST プロジェクトのあらましが分かってきました。では、もっと詳しい話をフォルセイさんにうかがいましょう。まずはミッシェル・ブーランジェ氏とは、どういう人物なのですか?

SF 彼は時計学校の教師であり、レストアのスペシャリスト。理論派で頑固。典型的な時計師ですね(笑)。彼を選んだのは他にも理由があります。学校を卒業したばかりの若手時計師の場合、学んだ技術をビジネスに転用してしまうかもしれない。それは本意ではありません。その点、彼なら授業を通して、技術を広めてくれるでしょう。本当はスイスに引っ越してきてもらいたかったのですが、ブーランジェ氏にも家族がいますから、1カ月に一度ラ・ショー・ド・フォンに通い、さまざまな技術を学んでは、パリのアトリエに戻って復習を続けました。時にはインターネットを使ってやり取りをすることもありましたね。

ST 話を聞くだけでも、かなり壮大ですね。「ガルド・タン」プロジェクトでは、11本の時計を製作し、その時計を11カ国11店舗で販売する予定で、日本ではカミネがその重責を担うそうですが、このプロジェクトに関わるきっかけは何だったのですか?

上根亨(以下KT) プロジェクトを知ったのは、プロトタイプが完成した今年の1月ですね。最も感銘を受けたのが、このプロジェクトが〝営利目的ではない〟ということ。しかも、時計の歴史への深いリスペクトがあることも重視しました。フィリップ・デュフォー氏との関係も重要ですね。実はカミネでは創業100周年を記念し、特別なシンプリシティを製作してもらったという経緯があります。そこで創業110周年となる2016年にも何か特別な時計を作ってほしいとオーダーを入れていたのですが、どうしても自分の仕事が忙しいようで一向に話がまとまらない(苦笑)。今回は難しいかなと諦めていた時に、この「ガルド・タン」のプロジェクトを聞かされ、その崇高な理念に共感し、参加を決めたのです。

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