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ショパール マニュファクチュール創設20周年 成熟と革新の軌跡(1/5) 2017年1月号(No.68)

奥山栄一、ヤジマオサム:写真 Photographs by Eiichi Okuyama, Osamu Yajima
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

孤高のトップランナーL.U.Cが到達した
異次元ミニッツリピーター

「リピーターは、時計作りにおける聖槍です」。そう語ったのは、ショパール共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏だ。
「ですから、普通の時計は作りたくなかった」。加えて19世紀に、ショパールがリピーターを作っていたことを思えば、
歴史を重んじるショイフレ氏が、ショパール マニュファクチュール創設20周年記念の題材に
リピーターを選んだのは当然だろう。開発が始まったのは5年前のこと。
1万7000時間という長い時間を費やして完成したL.U.C フル ストライクは、リピーターの基準を塗り替える時計となった。

L.U.C フル ストライク
5年の歳月をかけて完成したミニッツリピーター。風防とゴングをサファイアクリスタルで一体成形することにより、極めて優れた音量と音質を得た。また誤作動を防ぐ安全装置も充実している。手巻き(Cal.L.U.C 08.01-L)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KフェアマインドRG(直径42.5mm)。30m防水。限定20本。3002万円。

 2016年11月7日、スイスのフルリエに世界中から時計ジャーナリストたちが集まった。ショパール マニュファクチュール創設20周年記念モデル「LUC フル ストライク」のワールドプレミアムに参加するためだ。会場の最前列に座っているのはショイフレ家の人々。そしてショパールの技術陣やデザイナー、営業担当者たちが立錐の余地もなく会場全体を取り巻いている。ショパール共同社長であるカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏、次いでデザインを担当したギィ・ボーブ氏の説明の後、その新しいミニッツリピーターがお披露目となった。

 まず見せられたのは、時計全体の図面。目を引いたのは巨大なハンマーと、それに比してコンパクトなリピーター機構、そしてリピーターを操作するリュウズのボタンである。大きなハンマーから想像するに、ショパールは大きな音量を与えたかったのだろう。しかしリピーター機構が小さいため、ハンマーを動かすためのトルクは捻出できないのではないか。またボタン操作ということは、リピーター専用のゼンマイを持つソヌリ型のリピーターのはずだ。やはりリピーター機構に割くスペースは小さくなるだろう。ゼンマイのトルクは捻出できるが、半面、リピーター機構はさらに小さくなる。となれば、それに比例して、理論上音は小さくなるだろう。

 しかし筆者の予想は完全に裏切られた。ショパールの技術陣は、スペースを食うリピーターシステムを垂直に積み重ねることで、リピーターを小型化したのである。加えて彼らは、音を改善すべく、ゴングをスティールではなくサファイアクリスタルで成形した。しかも音響効果を高めるため、風防とゴングを一体成形するという凝りようだ。

 ゴングと風防を接着するというアイデアは、すでにジャガー・ルクルトが一連の卓越したリピーターで実現していた。しかしゴングと風防の一体成形はかつてない試みだ。結果、その音質は「クリスタルグラスを叩いたような」(ショイフレ氏)、澄んだものとなった。音量も約65 dB(時64・7dB、分65・8dB)と、現行のリピーターでは最大級だ。加えて言うとゴングをサファイアクリスタルで成形するため、音の調整は事実上不要になった。

 LUCを特徴付ける入念な姿勢は、この新作も同じであった。設計者のシャラピ・ニコラス氏は説明する。「ゴングにサファイアを使ったリピーターはこれのみです。耐久性に懸念をお持ちの方がいらっしゃるでしょう。しかし私たちは150万回の耐久テストを繰り返しました。また450Gの耐久テストもクリアしています」。さらにクシ歯の間隔が適切になるスキップ機能を加えることで、時、15分、そして分を鳴らす間には、余計なインターバルが省かれた。筆者が聞いた限りで言うと、このリピーターは、音量、音質、調律共に、歴代リピーターでは最良だ。

 安全性に関しても、入念に配慮が施された。ソヌリ型のリピーターではしばしば起こる、ゼンマイ切れでリピーターが止まってしまう問題。「この時計には、12時59分を12回鳴らせるだけのトルクがあります。またゼンマイの残量が不足していた場合、リピーターは作動しません」(ニコラス氏)。図面を見ると、リピーター用のパワーリザーブ表示機構とリピーターが連結しており、残量が不足している場合はブロックされるとのこと。

ミニッツリピーター用の単独香箱を持つフル ストライク。12時59分を12回鳴らせるだけのトルクを持つ。ハンマーに比してリピーター機構は小さいが、分と時用のクシ歯を丸く成形し、その間にコンパクトなクォーター用のクシ歯を挟み込んだため、極めて省スペースな設計だが、ゴングとハンマーの関係が最適化されている。結果、約65dBの音量でリピーターを鳴らすことが可能になった。右は組み立て中のムーブメント。地板と受けにはジャーマンシルバーが採用される。担当する時計師いわく「部品点数は533点とかなり多く、組み立ては通常のL.U.Cに比べてはるかに困難です。もっともゴングがサファイアクリスタルのため、リピーターの調整はさほど必要ありません」。

 ショイフレ氏はこう語った。「リピーターというのは時計業界における〝聖槍〟のようなものですね。ですから私たちは、ありきたりのものは作りたくなかった」。

 発表会に出席していた『ウォッチ アラウンド』誌のジャン-フィリップ・アーム氏は、常々「インスタントな複雑時計」に対して苦言を呈してきたひとりだ。このスイス屈指のジャーナリストに、新型リピーターをどう思うか、率直に尋ねた。

「多くのコンプリケーションは、今までにあるものを少し手直ししたものですね。対して、このLUC フル ストライクはまったく違う。しかも耐久性に十分配慮がなされている。ショパールというのは、ロレックスやパテック フィリップと同じような会社だと思っています。多くの時計メーカーは、市場の動向を見て製品を投入する。だが、彼らは、自分で時計を決める。ショパールは時間をかけて製品が完成するのを待ち、完成したら市場に出すのです」

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