モリッツ・グロスマン あるマイスター時計師が語る半生とグラスヒュッテ高級時計産業の歩み

2016.12.02

Die Glashütter Geschichte, von Gestern bis Heute.
旧東ドイツ時代、シュナイダー講師に師事した訓練生の証言

針の加工を担当するマティーナ・ハーンチ氏は、旧GUB時計学校時代に訓練生としてシュナイダー氏に師事したひとり。当時は2年制で、工業化された組み立て実習が主だったが、“内気な印象だった”というシュナイダー講師は、放課後に古い時計のレストアを実施して、伝統的な手仕事も教えてくれたという。「当時は町並みにももっと活気がありましたよ。中央通りには映画館もあったし、現在SUG(ケースメーカー)になっている建物はカルチャーホールで、毎週土曜日にパーティなどが開催されていました。今でも社内でアフターワークパーティを開きますよ」。なお、PR担当のライナー・ケルン証言によれば、酔ったシュナイダー氏はかなり踊る、らしい。

 見習い期間を終えた後、GUBから通常の時計師としての仕事に就くか、訓練生の講師となるかというオファーを受け、私は講師となる道を選びました。生徒の中には、現在モリッツ・グロスマンで針の加工を担当しているマティーナ・ハーンチがいたのですが、実は当時をよく憶えていないのです。私も1年前に正式な時計師になったばかりで、どう指導したものかと悩んでいましたし、一度に30人ほどを受け持っていましたから…。

 ところがその1年後、GUBのプロトタイプ部門を受け持っていた時計師が亡くなってしまい、急遽プロトタイピストの仕事を任されることになったのです。プロトタイプに使う部品を、旋盤で作るような仕事です。

 個人的にはもっと時計と関わるような仕事がしたかったので、現在のグラスヒュッテ時計博物館の前身となる、“伝統品キャビネット”という展示室の運営にも携わるようになりました。ここではツアーガイドをしたり、展示品の修理やオーバーホールを担いました。いま振り返ってみても、ここでの仕事は最高でしたね。特に思い出深いのは、フェルディナント・アドルフ・ランゲのハーフセコンド振り子時計です。ランゲが工房を興す前に実験的に2台だけ作ったとされる時計で、時計史家であるラインハルト・マイスの著作にも記述があります。リンデル式の脱進機でスタイルは私の好みなのですが、非常に薄いバネが使われているため、うっかり折り曲げてしまわないかと、冷や汗をかいたほどです。

 ところで重い振り子をグラスヒュッテで使うようになったのはグロスマン以降のことで、東京ブティックにある柱時計(レンツキルヒ秒振り子時計 Nr.1.306.596)の振り子は、約6.5kgもありました。グロスマンは19世紀グラスヒュッテの技術アドバイザー的な人物で、彼がいなければランゲもユリウス・アスマンも成功しなかったでしょう。これは一般向けのツアーでもよく話していたことです。

 東西ドイツ再統合直前の1989年に、新しく設立される博物館の館長をやらないかという話をもらいました。故郷のディポルディスヴァルトに関連した博物館で、グラスヒュッテ市内にあった古い学校内に間借りしていました。ここではグラスヒュッテで作られていた機械式計算機の特別展示などもオーガナイズしましたが、再統合直後の混乱もあって、誰も博物館などには見向きもしませんでしたね。そんな頃、GUB社屋の壁に「A.ランゲ&ゾーネが会社を再建する」という内容で、従業員の募集告知が貼り出されたのです。それを見た私は、すぐさま応募を決意しました。

Mit der Gangreserve
hat die zweite Generation vom BENU vorgetreten.

パワーリザーブ表示を備える
第2世代のバリエーションモデル

第2世代ムーブメントとなるCal.100.1に、パワーリザーブ機構を加えたバリエーション機。香箱に直結するパワーリザーブ機構は、中間車が増えるほどトラブルを生む原因を増やしてしまう。そのため厚みのあるムーブメントの基本設計を活かし、かつ香箱付近のデッドスペースを活用することで、差動歯車方式のパワーリザーブ機構を収めた。入力と出力を1軸にまとめたことが特徴で、入出力が完全な別系統となる一般的なパワーリザーブ機構に対し、はるかに堅牢な構造を持つ。Cal.100.1で改良された後退式コハゼは角穴車外周のあらゆる位置に配置でき、またパワーリザーブの表示ディスクが筒車の受けを兼ねるなど、拡張性を見越した基礎設計が光る。

BENU Gangreserve
ベヌー・パワーリザーブ

ベヌー譲りのアラビックインデックスを受け継ぐ現行モデル。ロゴ下に加えられたスリットで、駆動時間の残量を読み取る。ハイセラム樹脂がインサートされた時分針は、このモデル専用に用意された独自ディテールのひとつ。手巻き(Cal.100.2)。26石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。Pt(直径41.0mm、厚さ11.65mm)。520万円。