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熟成期を味わい尽くす(3/4) 2017年1月号(No.68)

パテック フィリップ ジャパンでカスタマーサービスのテクニカル マネージャーを務める細田剛志氏。時計学校卒業後は、パテック フィリップのみのメンテナンスに携わってきた専門家だ。

 オフセット輪列には、ムーブメントを薄くできるというメリットがある。2番車が中心にないため、ローターをセンターに置いても、ローター真と干渉しない。しかし2番車が中心にないと、針合わせの際に針飛びが起きやすい。パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲといったメーカーが、長らく2番車のセンター配置に固執してきた理由である。

 もっともパテック フィリップは、初のオフセット輪列を採用するにあたって、入念な研究をしたのだろう。初のオフセット輪列にもかかわらず、335系では針飛びがよく抑えられていた。

 あくまで私見ではあるが、この335にはさまざまなモディファイが加えられ、91年に名機315に進化したと筆者はにらんでいる。主な変更点は緩急調整装置。精度を向上させるべく、アオリ調整機能付きのトリオビス緩急針から、テンプの錘だけで精度を調整するジャイロマックスに改められた。ちなみに81年の335からジャイロマックスを採用しなかったのは、おそらくムーブメントの成熟を待ったためだろう。

 以降のパテック フィリップの名声は、この薄くて高精度なムーブメントによるところが大きい。このムーブメントはパテック フィリップにおける〝ブレッド&バター〟だったが、使い勝手が良いうえ、信頼性も申し分なかったのである。加えて同社は、315をさらに熟成させた。第1世代に当たる315SCは91年初出。後に315/190、315/290(2003年)と進化し、04年には高振動版の324/390となった。現行の324とは、315の流れを汲む超熟成機なのである。

 パテック フィリップのメンテナンスセンターで責任者を務める細田剛志氏もこう説明する。「324は315の改良版といえるでしょう。いずれも直しやすく、調整しやすい機械で、もともと不具合もなかった。しかし振動数を上げ、ヒゲゼンマイにシリコン製のスピロマックスを採用したため、より精度が出しやすくなりました」。

手際よくムーブメントを分解する細田氏。なおパテック フィリップでは、時計の分解と組み立てに、必ず真鍮製のドライバーを使う。理由はネジの頭を傷めないためだ。

 なお91年の時点で、315系の不具合はひと通り解消されていた。しかしパテック フィリップは、不具合が出る前に問題を解決するという姿勢をもって、315を改良し続けた。335から324にかけて行われた改良は大きく3つある。秒カナバネの素材変更と、カレンダー回りの改良、そして主ゼンマイのトルク増強だ。

 それらを具体的に見ていきたい。ムーブメントを薄くするため、パテック フィリップは324の手巻き機構、通常輪列、そして自動巻きを同一のレイヤー内に置いた。多くの自動巻きが、輪列の一段上の階層に自動巻きを置きたがるのとは対照的だ。加えて輪列を小さくすることで、ムーブメントの中心に、ローター真を埋め込むスペースを確保した。

 ではどうやってセンターセコンドを実現したのか。現在の多くのムーブメントは、1分間に1回転する4番車に針を付けてセンターセコンド化している。ロレックス3100系、ETA2892A2などが好例だろう。対してパテック フィリップの324(正確には81年の335)は、中心からずらした3番車が、ムーブメントセンターの秒カナを回す方式を採用した。いわば、出車を使わないセンターセコンドである。

 そのメリットは厚みを減らせること。対してデメリットは、秒カナの挙動が安定しないことである。ちなみにこの方式を初めて採用したIWCは、規制バネを秒カナの歯に直接押しつけて、秒針の挙動を安定させた。一方、規制バネを秒カナの上から押しつけたのが、ジャガー・ルクルトである。もともとこれは、出車式のセンターセコンドを安定させる手法だったが、1970年代のジャガー・ルクルトはこの方式を当時基幹ムーブメントである、自動巻きの900系(後の889系)に採用した。

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