ヨーロッパ&アメリカで激増する時計強盗! ロンドンではロレックス強盗団が大問題に

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2023.12.23

世界中で高級時計を狙う強盗や窃盗が激増している。日本では闇バイトの若者が銀座のロレックス専門店を襲撃して捕まったが、世界でも同様の事件が起こっている。中でも英国ロンドンで大問題になっているのが、「ロレックス・リッパー・ギャング団」という犯罪集団だ。今回は、そんな海外の高級時計強盗・窃盗の最新事情について報告する。

2023年12月5日、英国公共放送BBCの若者向けチャンネル「BBC THREE」で放送されたドキュメンタリー番組「Hunting the Rolex Rippers(ロレックス強盗団を追え)」。同番組内において、ロレックス・ギャング団が“義賊”のように扱われているとして、時計関係者から強く非難されている。上の画像はBBCオフィシャルサイトの番組紹介ページ。英国国内ならここから番組の視聴が可能だが、残念ながら日本国内では視聴できない。
渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
[2023年12月23日公開記事]


「切り裂きジャック」を彷彿させる「ロレックス・リッパー」=「ロレックス強盗団」

 筆者はほぼ毎日、海外メディアの時計ニュースをチェックしている。そして、2023年10月に英国の大衆紙のニュースをチェックしていたら「'Rolex ripper' gangs(『ロレックス・リッパー』ギャング団)」という単語が目に飛び込んできた。

 この場合の「ripper」とは日本語に訳せば童話の『ピノッキオの冒険』に出てくる「追い剥ぎ」になるだろうか。もともとの意味は「何かをバラバラに裂く人やそのために使う道具」のこと。英国文学が好きな方や、筆者のように犯罪学に興味がある人なら「ジャック・ザ・リッパー(Jack the Ripper)」という言葉をご存じかもしれない。

 1888年に英国ロンドンのホワイトチャペルとその周辺で、刃物で被害者の女性を内臓まで切り裂く猟奇的な犯行を繰り返した正体不明の連続殺人犯のこと。日本語では「切り裂きジャック」と呼ばれ、日本語のウィキペディアにも詳しい記述がある。貧困による犯罪が頻発し、大衆メディアが発達してセンセーショナルな犯罪報道が日常化した当時の英国社会を象徴する事件として、さまざまな小説や映画などのモチーフになり、また犯罪学や社会学の考察対象にもなっている。

 ちなみにこの「ripper」という言葉はスラングとしてもさまざまな使い方があって、オーストラリアでは「Little ripper」という言葉は意味が逆転して「最高の人やモノ」という意味になっている。これは時計と関係のない、どうでもいい話だが。

 英国で報道されている犯罪集団「ロレックス・リッパー」ギャング団とは、ロレックスを腕に着けている人を狙って、その人の腕からロレックスを奪う強盗団のことだ。彼らはロレックスを着けている人を街で見つけると集団で囲み、人のいない裏通りに連れて行って暴行してそのロレックスを奪う。その結果、暴行された被害者が亡くなったという悲惨な事例もあるという。

英国ロンドンのタブロイド新聞『Daily Mail』のオンライン記事(2023年2月14日付)に躍る見出し。「『ロレックス・リッパー』ギャングに有罪判決:6人の凶悪犯がゾンビナイフやナタで武装し、恐怖に怯える被害者から時計や宝石を盗む――押収した携帯電話に保存された盗品時計を着用した写真を手掛かりに特定される」。同記事は下記URL参照。
https://www.dailymail.co.uk/news/

  彼らの中には、組織的に犯罪を展開する連中もいる。ネットのダークウェブやSNSで客から「あのセレブの時計を盗んでほしい」というリクエストを受け付けてセレブのSNSを細かくチェック。どんな高級時計を所有しているのか。どんなイベントやパーティーに出かけるのか。それを確認し、待ち伏せして強奪したり、住居に侵入して盗んだり、これをビジネスとして行っているのだ。


「ロレックス・リッパー」ギャング団を“義賊”扱い(!?)で大炎上!

 こんな状況でいま、あの「ジャニー喜多川の性加害」を告発する番組を作った英国の公共放送BBCの「ロレックス・リッパー」ギャング団を扱ったドキュメンタリー番組「Hunting the Rolex Rippers(ロレックス強盗団を追え)」という番組が大批判を浴びている。BBCの若者向けチャンネル「BBC THREE」で2023年12月5日に放送された28分間のこの番組は、このロレックス・ギャング団に直接コンタクト、仮面を被った彼らに直接インタビューするという内容だ。その中でギャング団のリーダーは「異常な貧富の差をわれわれは解決しているのだ」という主張をしている。それが「犯罪者をロビン・フッド(=中世イングランドの伝説に登場する弓の名手で、英国イングランド・ノッティンガムのシャーウッドの森に住むアウトロー集団の首領)のような義賊(金持ちから金品を盗んで貧乏人に分け与える盗賊)扱いしている」と、時計関係者から大批判を浴びているのだ。

 この番組、英国国内ならBBCのオフィシャルサイトで視聴することができるが、残念ながら日本からは視聴できない。ただ、YouTubeにはこの番組を非難する時計関係者のコンテンツが多数上がっている。

2023年12月5日に「BBC THREE」で放送されたドキュメンタリー番組「Hunting the Rolex Rippers(ロレックス強盗団を追え)」を批判するYouTube動画のひとつ。同番組が「異常な貧富の差をわれわれは解決しているのだ」というロレックス強盗団の主張を放送したことで、この番組の内容が時計業界の多くの人々にとって真実味を帯びなかった理由を批判的に解説している。

 もちろん、ギャング団は義賊であるはずもなく、ただ自分たちのシノギ(生きるための稼ぎ、収入を得るために使う手段)としてこの犯罪を行っているわけで、彼らには一分の理もない。ただ、こんな番組が作られるほど、「ロレックス・リッパー」ギャング団は英国で大問題になっているのだ。


急増する高級時計強盗&盗難

 この英国の「ロレックス・リッパー」ギャング団に限らず、高級時計の強盗&盗難は、新型コロナウイルス禍が収束したこの2年あまり、ヨーロッパやアメリカで激増している。海外メディアによれば、2023年春には、アメリカのロサンゼルスやフランスのパリ、そして英国ロンドンで高級時計の盗難が前年比で50%以上も増えたという。

 このため、ロンドンの警察は目下、この種の犯罪対策として「ロレックスなどの高級時計を着けて街を歩かない」「SNSに所有する時計の画像をアップしない」ように警告している。

 今後、ヨーロッパやアメリカを仕事や観光で訪れる人は、ロンドンの警察のこの警告をしっかり受け止めて、ロレックスなどの高級時計を身に着けて出歩かないようにすることをおすすめする。



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