[アイコニックピースの肖像38]ベル&ロス BR Series

2017.02.07

(左)創業以来、ベル&ロスのデザインを統括するブルーノ・ベラミッシュ。卒業制作で時計メーカーを作るという試みは、やがてベル&ロスに結実する。(右)BRシリーズのデザインモチーフとなった航空計器。中央上には、ベル&ロス銘のコックピットクロックが見える。


ヴィンテージ 123
1997年初出。ベゼルとミドルケースを一体化した、2ピースケースを持つ実用時計である。なおこれは、インデックスの形状などを改めた第2世代である。2010年には後継機の「ヴィンテージ BR 123」に置き換わった。自動巻き(ETA2895A2)。27石。参考商品。

 ともあれ、ジンとの提携終了の結果生まれた時計が、1997年発表の「ヴィンテージ 123」である。以前のようなハイスペックを追求するのではなく、実用時計で、適度なミリタリーテイストを添えたこの時計はたちまちヒット作となった。ヴィンテージ 123に盛り込まれたデザインの方法論は今見ても斬新だ。2ピースケースは50年代のミリタリーウォッチを思わせる、生産性を考慮したであろう造形を持っていたが、ベゼルはドレスウォッチを思わせるほど細く絞られていた。そのデザインは、現行のミリタリー風ウォッチを先取りしていたと言えるだろう。ジンと共同でハードなハイスペックウォッチを作ってきたベラミッシュは、そのデザイン要素を翻訳し、実用時計に巧みに接ぎ木してみせたのだ。

 しかしカルロス・A・ロシロには、わずかな不満があったようだ。彼は著名なジャーナリスト、クリスチャン・ハーゲンにこう述べた。「私はベラミッシュに対してこう語ったことがある。最も美しい時計を作ろうとすることをやめて、本当のベル&ロスが何かを考えてみないか?」と。対してベラミッシュは、おそらく実現不可能と思われた、コックピットの計器に触発されたスクエアな時計を思いついた。そしてロシロにこう述べたという。「この挑戦は、美しい時計を作らないことではなく、ユニークな時計を提供することだ。そしてBR 01とはまさしくそうした時計だ」。

 ベラミッシュ自身も、本誌の取材に対して「角型の時計自体は、コンセプトとしては洗練されたものではない」とコメントを寄せている。しかし、ブランド創業から13年を経たベラミッシュは、スクエアなミリタリー風という奇抜なアイデアにさえ、洗練を与えられるデザイナーへと成長していた。


 彼はデザインにおけるポイントをいくつか挙げている。ひとつはケースサイズに比して極端に太いストラップ。「当初から機能性の意味において、ストラップは手首にしっかりと固定されるべき、という基準がありました。安全のためのシートベルトみたいな概念ですね。しかし時計を使っているプロフェッショナルからも、ストラップを太くしてほしいという要望はありました」。

 ストラップが示すように、装着感への配慮は当時の基準をはるかに超えていた。ケースが2ピースで成形され、バックケースが限りなくフラットにされたのもその理由だ。

「全てのディテールには意味と機能があるという、ブランドの信念を常に徹底しています。つまり設計においては、可能な限りシンプルにすることです。不要なディテール、特にスタイル的な要素や、見せかけだけの要素を全て削ぎ落とすのです」

 加えてベラミッシュは、オリジナリティと視認性にも配慮を加えた。一例が、寸足らずの針と、内側に寄ったインデックスである。仮にこれが軍用時計ならば、針はインデックスに対して完全にリーチしたはずだ。しかし彼は、あえて針を短くすることを選んだ。

「良好な視認性を保ちつつ、文字盤上の識別に優れていることを目指しました。例えば針は、インデックスと重なり合う部分において認識されやすいよう作りました。しかし同時にブランドとしての特徴、ビジュアルの特徴も尊重してもいます」

 かつてないデザイン性と、ケース径46㎜というサイズに、時計としての使い勝手を高度に成立させたBR 01。以降ベル&ロスは、フランスのニッチな時計メーカーから、ラグジュアリーウォッチを作る世界的な時計メーカーへと飛躍を遂げることになる。