リシャール・ミルの〝陰の右腕〟硬く、美しい素材加工の名手

2017.03.30

ATZやジルコニアなどのセラミックス以外に、写真の「RM053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」のチタンカーバイド(TiC)製のカバーも製作する。TiCのヴィッカース硬さは1450と、ATZの1400よりさらに硬い。立体的に盛り上がった複雑な形状のカバーの製作にはノウハウの蓄積が不可欠だ。

「リシャール・ミルは、当社の顧客の中でも最高レベルの品質基準を要求するクライアントです。難しい注文ばかりですが、我々にとっては理想的な顧客です」

 こう断言するバンゲルター氏。専門の超硬素材精密加工のノウハウをいかんなく発揮できる上に、最新の工作機械に投資しても、その価値を見いだすことができる。確かに、それが可能なブランドは、高級時計メーカーの中でもリシャール・ミルをおいてほかにはないだろう。

 リシャール・ミルというパートナーを得たバンゲルター。同社の顧客の筆頭に、米ゼネラル・エレクトリックや独ボッシュを差し置いて、リシャール・ミルが挙がっているのもむべなるかな、である。

「カーブを描くリシャール・ミルのベゼルは加工自体が難しい上、ベゼルがミドルケースにぴったりフィットしないと、ベゼルの穴にビスを入れて固定する段階で、たとえセラミックベゼルであっても割れてしまうことがあります。オペレーションによって異なりますが、ATZはジルコニアに比べて25~100%余分に加工時間がかかり、トータルでは35~40%の時間が余計に必要です」。このようにRM055のATZ製ベゼルの加工の難しさを語るバンゲルターCEOのマーク・バンゲルター氏。常に超硬素材との闘いだ。

RM055 バッバ・ワトソン
RM038のデザインを受け継いだシンプルな手巻きモデル。ベゼルに新素材のATZを採用し、チタン製のミドルケースと裏蓋にはホワイトラバー加工が施された颯爽としたホワイトモデルだ。ATZは「Alumina Toughened Zirconia」の略で、強化セラミックス(ジルコニア、アルミナ、イットリウムで構成)のこと。手巻き(Cal.RMUL2)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。Ti(縦49.90×横42.70mm、厚さ13.05mm)。30m防水。1029万円。

Contact info: リシャールミルジャパン Tel.03-5807-8162

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