未来を占うジュネーブ

2017.04.03

SIHH2017 編集部注目モデル

〈A.ランゲ&ゾーネ〉ランゲ1・ムーンフェイズ
手巻き(Cal.L121.3)。47石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Pt(直径38.5mm)。3気圧防水。592万円。問A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080
審美性と実用性を両立させたWonderful Buy
広田雅将

 無難だが、SIHHの1位には「ランゲ1・ムーンフェイズ」を選んだ。理由はいくつかある。ベースムーブメントのCal.L121.3が優秀であること。パワーリザーブはCal.L901に同じだが、携帯精度は向上し(旧作も静態精度は優れていた)、アウトサイズデイトが瞬時送りに変わった。ムーブメントの見た目は地味だが、A.ランゲ&ゾーネのムーブメントは、仕上げはさておき、造形で勝負するものではないだろう。122.6年に1日しか誤差がない月齢表示も今までに同じ。しかし24時間表示が付いた点が大きな違いだ。月と空のディスクは2層に分けられ、空を示すブルーのディスクは24時間で1回転する。誰も思いつかなかったのが不思議なぐらい巧みな構造で、使い勝手と見た目を両立させることに成功した。なお昼夜の違いを分けるのは、ブルーの色。昼間は明るく(筆者にすると明るすぎるが)、夜は暗いブルーが与えられた。本作が採用した、昼夜と月齢を同軸で表示するアイデアは、今後他社も模倣するかもしれない。細かい点だが、ケースがわずかに薄くなった点も評価したい。0.2mmの違いだが、装着感は明らかに良くなった。高級時計を見る機会は多いが、そうそう買えるわけではない。選ぶ際に考えるのは常に実用性と審美性のバランスであり、その点本作は、万事にわたって程がよい。2017年のWonderful Buyだ。


〈パルミジャーニ・フルリエ〉トリック クロノメーター
自動巻き(Cal.PF331)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRG(直径40.8mm、厚さ9.5mm)。予価184万円。問パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン Tel.03-5413-5745
“初心”を忘れぬための“心の基準機”
鈴木幸也

 SIHH2017を振り返ると、周囲からは“停滞”“地味”“売れ筋優先”“ネタ切れ”など、ネガティブな評価が多く漏れ聞こえてくる。確かに、さまざまな面を切り取れば、それぞれに的を射た側面はある。他方、局地的には、今年も“億超え”は健在で、しかも好調を維持しているとも聞く。そんな中、率直な感想を言えば、多くのメゾンやブランドにとって、その実、“内省”と“平準化”の年であったように思う。だが、個人的には、今年のSIHHが“停滞”とは決して思わない。往年の人気モデルを復活させた「パンテール ドゥ カルティエ」なども、平準化へのひとつの試みと捉えられなくもない。そして昨年、創業20周年を迎えたパルミジャーニ・フルリエもまた、今年は創業者であるミシェル・パルミジャーニが手掛けた初期モデルへの“原点回帰”を掲げる。ここで紹介する「トリック クロノメーター」は、その象徴であり、意匠の塩梅が実に良い。SIHH取材初日に訪れたブースで、このモデルを目にした刹那、「今年はこのモデルだ」と脳裡に刷り込んでしまった。建築に造詣の深いパルミジャーニ氏の審美眼や思い入れ、復活にあたって19回も見直したというインデックスなど、語るべきトピックは尽きないが、それよりも直観したのだ。こういう時計を身に着けて、常に眺めていたら、“初心”を忘れないだろう、と。そういう佇まいをこの時計は持っている。


〈ユリス・ナルダン〉クラシック デュアルタイム
自動巻き(Cal.UN-324)。53石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。149万円。問ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791
堅実さを見せたSIHHの華はジミなくせに色香漂う秀作たち
鈴木裕之

 おそらく今年のSIHHには、華やかさを欠いた印象を持ったプレスが大多数だったに違いない。年1回の新作展示会に一極集中するよりも、ニューモデルのリリースタイミングを意識的にずらして話題を分散させた方が、“インターネットメディア的に有利”であることくらい分かる。だけど「タンク」や「アルティプラノ」などのアニバーサリーコレクションくらい、この大舞台でお披露目して欲しかったな。では今年が不作なのかと言えば、まったくの正反対! だって“ジミ子”たちが素晴らしく良かったのだから! もともと堅実なシンプルウォッチが大好物の筆者にとっては、この流れは大歓迎。だけど「今年はジミ子が良いですね」って真面目に話すたびに、一部諸兄が必死に笑いをこらえようとするのはどうしたことなんだ? さてこれから始まる今年のSIHH特集には、そんな「ジミだけど○○」な秀作が多数掲載されているはず。その中から1本だけを選ぶなら、SIHH初出展となったユリス・ナルダンの「クラシック デュアルタイム」が気になる。ジェイドから流用されたリュウズセレクターも使いやすいし、ドンツェ・カドラン謹製のエナメルも実に良い雰囲気。なにより価格が適正なのが素晴らしい!