いま注目すべき時計のトレンドを変える新潮流

2017.04.03

[THEME①-2]
自動巻きはリバーサー式からラチェット式へ

もうひとつ、ここ10年で大きく変わったものには自動巻き機構がある。
かつて多くのメーカーは、その自社製ムーブメントに、ETAやロレックスと同じ切り替え伝え車式の自動巻きを与えようとした。
しかし今や、リシュモン グループ傘下のメーカーを中心に、新しい自動巻き機構が採用されるようになった。それが、セイコーのマジックレバーである。

Reverser Mechanism
切り替え伝え車(リバーサー)を使うことで、ローターの左右回転を一方向に整流するシステム。正方向では切り替え伝え車に内蔵された切り替え爪が内側の凹みに噛みあってリバーサーがロック。逆回転では切り替え爪が凹みを滑ってリバーサーをロックしない。歯車と小さな爪だけで構成されるため、コンパクトなうえ大量生産に向く。ただしリバーサーの慣性を小さくしないと巻き上げ効率が悪く、一方で小さすぎると部品が摩耗しやすい。


Ratchet Mechanism
ローターの回転運動を、左右の爪の前後運動に変換してゼンマイを巻き上げるのがラチェット式である。これはセイコーの9S55が採用するマジックレバー。現在、セイコー以外の高級メーカーも採用する自動巻き機構だ。他の自動巻きに比べて歯車の数を減らせるため、油が切れたり、部品が摩耗しても巻き上げ効率が落ちにくい。一方で横方向にスペースが必要なうえ、理論上は巻き上げない角度が存在する。そのためきちんと設計しないと巻き上がらない場合がある。

 一時期、時計メーカーと愛好家を巻き込んで起こった片巻き・両巻き論争。たちまち収束した理由は、勝敗がついたからではない。時計メーカーが、自動巻きの優劣を決めるのは設計だけでなく、部品の精度が関係することに気付いたからである。設計だけを言えば、今やどの時計メーカーも、理論上は完璧な自動巻きを作ることができる。しかし実際そうならなかった理由は、多かれ少なかれ、巻き上げ機構に問題を抱えていたためである。とりわけ、両方向巻き上げ式の自動巻きについてはそう言えた。

 長らく両方向自動巻きのスタンダードだったのが、歯車だけで両方向の切り替えを行う、いわゆる切り替え伝え車式(リバーサー式)の自動巻きだった。採用するメーカーは、ロレックス、セイコーの一部機械式、ETAなど枚挙にいとまがない。リバーサー式の自動巻きは、大量生産に向くうえ、設計が良ければ、理論上の巻き上げ効率は非常に高かった。反面、リバーサーには、加工精度が低いと巻き上げないという問題があった。またリバーサーを大きく作ると、耐久性が上がる反面、慣性が大きくなるため巻き上げ効率は下がり、小さく作ると慣性が小さくなるため効率は改善されるが、耐久性は悪くなった。時計メーカーの設計者が考えていたほど、リバーサーの設計・製造は容易ではなかったのである。