カレンダー表示進化論

FEATURE本誌記事
2017.04.06

1941年ドイツ生まれ。スイス連邦政府、文字盤・ケースメーカーの勤務などを経て、1969年ロンジンに入社。営業・販売促進部責任者を務めた後、1988年から現職。「ドルチェヴィータ」「リンドバーグ」などのヒットで業績を大きく伸ばした。1991年以降、スウォッチ グループ取締役会に名を連ねる。

ロンジン「ロンジン ヘリテージ 1935」
1935年にチェコ空軍のパイロット用に製造された時計の復刻版。鏡面仕上げのケースやポリッシュラッカー文字盤などの完成度は高い。当然、搭載するのは日付表示付きの自動巻きムーブメントだ。自動巻き(Cal.L615)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径42mm)。3気圧防水。22万9000円。問ロンジン/スウォッチ グループ ジャパンTel.03-6254-7351


なぜロンジンは日付表示を標準仕様とするのか?

 現在の時計業界において、昔ながらの思想を貫き続けているのがロンジンだ。最近はカレンダーを載せた手巻き時計をしばしば見かけるが、これはかつて“禁忌”とされたものであった。逆に自動巻きには、必ずカレンダーが付くものだったのである。もちろん例外はあるが、国やメーカーを問わず、基本的にはそうだった。

 ロンジン社長のウォルター・フォン・カネル氏は、次のように説明する。「ロンジンは誰にとっても実用的な時計であるべきだ、と私は思っている。だから私は基本的に、どの時計にも自動巻き機構と日付表示を載せるように指示している。たとえそれが復刻モデルであっても、だ」。

 筆者の知る限り、かつてロンジンの復刻モデル(例えばレジェンドダイバー)には一部、日付表示のないものがあった。しかし今や、限定モデルを除いて、すべて日付表示付きに切り替わった。

 もっとも、これにはフォン・カネル氏一流の計算もある。現在、ロンジンが得意とするのは、1000スイスフランから3000スイスフランまでの価格帯だ。つまり、その主な購買層は、時計愛好家というよりも、むしろ普通の人たちになる。フォン・カネル氏は、アメリカの時計専門誌『WatchTime』の編集者であるマーク・ベルナルド氏にこう語った。「私たちのようなブランドにとって、おそらく売り上げの80%を占めるのが3針カレンダー付きだろう」。

 その読みはまったく正しい。ロンジンは、普通の人が使える時計に集中することで、大きな成功を収めた。そして、それを体現したのが、“実用的な”自動巻き機構と日付表示だったのである。