RICHARD MILLE TECH 1/1000mmの外装技術

2017.06.02

(左)ムーブメントメーカーが外装部品を作ることはある。しかしケースメーカーがムーブメントの部品を作る例は極めて希だ。これはスケルトンの地板。プロアートがミクロン単位の加工精度を誇ることを思えば合点がいく。(右)プロアートの特徴は、常にオペレーターが機械に張り付いていること。機械と切削の状況を常にチェックすることで、最良の加工精度を維持するためだ。

計測の様子を確認するアラン・バラン氏。2002年に会社を継承して以降、プロアート プロトタイプスSAをスイス第一級のケースメーカーに成長させた。工作機械の温度を上げない、部材をきちんと固定する、過剰に生産しないなどの原則を守ることで、同社の作るケースは、ミクロン単位の精度を誇る。


工房の実力は治具と金型に出る。これはチタン製のベゼルを支える治具と、固定する土台。ベゼルの上面に筋目を施す場合、普通はこういった治具を使わない。しかしプロアートは面のわずかな歪みを嫌い、強固に固定する。

「精度を出すのは難しくない。機械の温度を一定に保ち、クリーニングをきちんと行うこと」。同社は大量に作れる機械を持っているが、あえて生産数を抑えて機械の温度を一定に保ち、かつクリーニングがきちんと行えるようにしているわけだ。「同じ機械を入れてもリシャール・ミルみたいにはできない」とバラン氏は豪語していたが、確かに、あえて数を作らない姿勢は、そもそも真似のしようがない。

 完成したケースは、寸法チェックに回される。5本限定ならば5本すべて、100本作ったならば10本を抽出して調べるのは他社に同じだ。しかし確実な計測が可能な接点センサーを使い、しかもケース全体で250カ所も測る会社は他にない。その際求められる精度は、やはり基本的にミクロン単位だ。

 圧巻なのは、カーボンの切削だ。荒削りしたケースを、1キロある治具に固定。それをさらにハードスティールに据え付けて、切削時にブレないようにしてある。また温度が上がって加工精度が変わらないよう、切削油は過剰なほど用いられる。

 高い加工精度を前提としたのが、カーボンケースにダイヤモンドをセッティングした「RM 037 カーボンTPT ジェムセット」である。企画の責任者であるオロメトリーのセシル・ゲナ氏はこう語った。「カーボンケースにダイヤモンドを入れようと思ったのは2年前です。製法は、ベゼルに穴を開けて石を埋め込み、爪で上から押さえるだけ」。なおこの作業は、ダイヤモンドのセッティング工房にすべて委ねられているとのこと。そのため詳細は明かせない、とゲナ氏は語るが、そもそもケースが高い加工精度を持っていなければ、穴を開けたところで、セッティング面は歪んでしまう。歪みなく揃ったセッティングは、ベースの高い加工精度を証明するものだ。なお関係者曰く、セッティングの鍵を握る穴開けはひとつ50スイスフラン(!)もかかる。そういったコスト増を許容できるのも、やはりリシャール・ミルしかないだろう。

 改めて冒頭に戻る。普通、ケースとムーブメントの加工精度は一桁違う。対してリシャール・ミルは、内装と外装を、同じ基準で加工しようと試みてきた。正直、外装の加工精度を上げたところで、分かる人はほとんどいないだろう。しかし誰も分からない部分に注力すればこそ、リシャール・ミルはリシャール・ミルたり得たのだろう。


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