自動巻き時計薄型への挑戦 / マイクロローター新時代[なぜマイクロローターは開発されたのか?]

2017.06.29

クロマチック Cal.11/12
ビューレン・ハミルトン、タグ・ホイヤーとブライトリングの依頼で、デュボア・デプラが完成させたマイクロローター自動巻きクロノグラフ。オフセットされた輪列を持つマイクロローターは、厚みを増すことなくセンターセコンド化しやすい。そのセンターセコンド用のカナをクロノグラフのスイングピニオンに見立てたのがこのムーブメントである。自動巻き(直径31mm、厚さ7.7mm)。17石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約42時間(Cal.11の仕様)。

 では、かつて各社は、どうやって自動巻きの薄型化に取り組んだのか。答えは簡単で、古典的な枠組みの中で薄型化を図ろうとした。その最も究極と言えるのが、ジャガー・ルクルトのキャリバー920だろう。この、2番車をセンターに置き、しかも可能な限り大きなローターを載せたムーブメントは、そう言って差し支えなければ、既存の自動巻きを押しつぶす試みの極北だった。古典的な設計を持つこの自動巻きを、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲ、そしてパテック フィリップといった老舗が好んで採用したはずである。

 しかしながら、パテック フィリップは、この古典的な極薄の自動巻きに懐疑的であったようだ。実際、この耐久性を重んじる老舗は、920の地板と受けの厚みをわずかに増やし、ムーブメントに頑強さを与えようと試みたのである。

 だが、それでも満足がいかなかったのだろう。同社は頑強さと薄さを両立できる、マイクロローターの開発に着手した。そして完成したのがマイクロローター自動巻きのキャリバー240である。ちなみに、920の厚さはカレンダーなしで2.45㎜。そして240という名称は、それよりも0.05㎜薄いということを示していた。

 針飛びしやすいオフセット輪列と、巻き上げに劣る小さなローターをあえて採用し、しかもまったく問題がなかったパテック フィリップのキャリバー240。このムーブメントの出現以降、マイクロローターは、徐々に市民権を得ることになる。


ピアジェ Cal.12P
1960年に発表されたピアジェの野心作。ただし、マイクロローターとはいえ、2番車のカナに当たる部品をセンターに置いた比較的堅実な設計を持つ。おそらくオフセット輪列につきものの針飛びを嫌って、あえてこういう設計にしたのだろう。巻き上げ効率の低さを補うべく、ローターは24Kゴールド製。自動巻き(直径28.1mm、厚さ2.3mm)。30石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約36時間。

パテック フィリップ Cal.240
マイクロローターの可能性を拓いた名機。一貫して2番車をセンターに置くことに固執してきたパテック フィリップは、そのためにペリフェラルローター自動巻きなども開発してきたが、このムーブメントでは一転してオフセット輪列を持つマイクロローター自動巻きに挑戦。その堅牢さと優れた精度は後の設計に大きな影響を与えた。ローターは22Kゴールド製。自動巻き(直径27.5mm、現行品は厚さ2.53mm)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。