Arnold & Sonのトゥールビヨン / アーノルド&サンの未来を占う野心的な戦略機

2017.08.16

トゥールビヨン・クロノメーターNo.36
ムーブメントの面取りはダイヤモンドカットだが、それ以外の仕上げは超ハイエンドの複雑時計に準じる。トゥールビヨンブリッジに施されたブラックポリッシュ仕上げもかなり良質である。手巻き(Cal.A&S8600)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KRG(直径46mm)。アリゲーターストラップ。30m防水。世界限定28本。633万円。

ポケットウォッチNo.36[クロノメーターNo.1]
ジョン・アーノルドが初めて製作した懐中時計。製造は1778年。グリニッジ天文台の検定で良好な結果を残したため、1780年、アーノルドはこのモデルに“クロノメーター”という新しい名称を与えた。いわば、近代クロノメーターの祖である。22Kゴールドのケース。


 時計愛好家の間で、急速に認知度を高めるアーノルド&サン。個性的なメカニズムとデザインに加えて、価格も妥当とあれば人気を集めるのは当然だろう。近年、同社が傾注するのがトゥールビヨンである。現在各社は価格を抑えたトゥールビヨンをリリースするが、品質と価格のバランスで、同じくラ・ジュー・ペレのインハウスブランドであるアンジェラスと同社は際立った存在だ。今年アーノルド&サンがリリースしたのは、「トゥールビヨン・クロノメーター No.」である。そのデザインはトゥルービートセコンドを載せた「TB 88」に似ているが、トゥルービート秒針が省略され、代わりに5時位置にトゥールビヨンが備わった。アーノルド&サン曰く、モチーフはジョン・アーノルドが1778年に製作した「ポケットウォッチ No.36」とのこと。これは同社初の懐中時計にして、初めてクロノメーターを自称した歴史的なモデルである。

 しかしトゥールビヨン・クロノメーター No.36をより魅力的に見せるのは、時計好きをニヤリとさせるような配慮にある。ムーブメントの地板に彫られるのは、製造番号ではなく、C.O.S.C.クロノメーターの認定番号。少数生産ならではの試みだが、「検定に落ちた場合、刻印を消して作り直す」というからかなりの手間だ。またムーブメントの地板と受けには手作業でサテン仕上げが施される。他社にも見られるが、これほど緻密なものは希だ。そして内容を考えれば、価格も相変わらず妥当である。

 独創的なデザインに、良質な仕上げ、そして面白い試みを盛り込んだ本作。時計好きならこの時計に魅せられるはずだが、残念ながらSS、18Kゴールドモデルともに限定数はわずか28本とのこと。

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