BREGUET マリーン エクアシオン マルシャント 5887 / ブレゲと「均時差」かくも永き蜜月

2017.08.22

No.1160
デッサンと資料から製作されたNo.160「マリー・アントワネット」の完全な復刻版。発表は2008年。永久カレンダー、均時差表示、ミニッツリピーター、センター秒針、バイメタル温度計、パワーリザーブ表示を備える超複雑時計である。自動巻き。63石。パワーリザーブ約48時間。18KYG(直径63mm、厚さ26.2mm)。参考商品。

No.1160「マリー・アントワネット」の均時差表示機構。12カ月ディスクの上に見えるのが、均時差表示を司る均時差カムである。そのカムに接する細いレバーが均時差表示を動かすレバー。先端がカムに接触して動くことにより、現時点での均時差を文字盤に表示する。


 18世紀から19世紀にかけて、フランスはイギリスと並ぶ、あるいはそれ以上のマリンクロノメーター先進国だった。フェルディナント・ベルトゥ、ル・ロワ親子、アンティード・ジャンヴィエなどの時計師たちが優れたクロノメーターを製作し、アブラアン-ルイ・ブレゲもそれに続いた。もっとも、先人たちの機構を模倣しなかったのが、ブレゲのブレゲたるゆえんだ。彼はマリンクロノメーターにもさまざまな改良案を持っていたが、その中には、理論上は優れているものの、当時は実現不可能だったものがある。そのひとつがイクエーション・オブ・タイム、つまり均時差表示機構である。生涯を通じて、均時差表示機構の開発に情熱を燃やしたブレゲ。しかし彼はなぜ、これをマリンクロノメーターのスケッチに加えたのだろうか。

均時差表示に不可欠な均時差カムの形状は、太陽に対する地球の公転軌道を、地球の自転を加味して図形化したもの。上の図を見ると、11月に南中時間(太陽が真南に昇った時間)が進み、2月に遅れることが分かる。そして1年に4回、真太陽時と平均太陽時の示す時刻が一致する。LIGAなどの現代技術の導入により、均時差カムの加工精度は大きく高まった。

「クラシック“グランド・コンプリケーション”パーペチュアル・イクエーション・オブ・タイム 3477」の均時差表示機構。初出は1992年。均時差カムと、そのカムに先端が接触するレバーの関係が示す通り、均時差を表示するための基本構造は「マリー・アントワネット」の均時差表示機構をほぼ忠実に模していることが分かる。


 私たちは、正午になると太陽が真南に昇ると考えている。しかし、実際に真南に昇る時間(真太陽時)と、時計が示す正午(平均太陽時)にはずれがある。それを示すのが均時差表示だ。両者のずれが明確になったのは17世紀後半のこと。以降、均時差表示は、時計を正確に調整するために不可欠なものとなった。事実、当時作られた高精度な日時計は、例外なく均時差表示を備えていたし、18世紀に入ると、いくつかの機械式クロックも均時差表示を備えるようになった。ではなぜ、海上の位置を知るためのマリンクロノメーターに均時差表示が必要なのか。

 18世紀半ば以降、船乗りたちは、六分儀とマリンクロノメーターを使って自らの位置を測るようになった。前者は緯度を、後者は経度を計測するためである。ちなみに、マリンクロノメーターで経度を知る作業は、ワールドタイマーを用いて世界各地の時刻を知ることと理屈は同じだ。少し説明したい。イギリスのグリニッジ天文台を0度(現在は約100m移動した)とし、東西で180度ずつ分けたものが経度である。赤道上で計算した場合、経度が15度変わると時差は1時間変わる。日本の時差は基準となるグリニッジ天文台から+9時間だから、標準時を司る明石は東経135度となる。これを文字盤上に記したのがワールドタイマーである。仮に時差が+10時間ならば、その都市は東経150度にあるはずだ。