BREGUET マリーン エクアシオン マルシャント 5887 / ブレゲと「均時差」かくも永き蜜月

2017.08.22

このモデルの鍵となったのが、コンパクトな永久カレンダー機構。24時間で1回転する24時間車の突起が作動レバーを押し、その作動レバーが曜日ディスクと日付車を直接駆動する。月末の日送りを司るのが、月表示ディスクの下に内蔵された、閏年をプログラムした12カ月カム。コンパクトな上、耐衝撃性を考慮した形状になっている。日付車は中間車を介して、均時差ディスクを回転させる。

 しかし、ブレゲはその難しさも理解していたはずだ。1年を通して、真太陽時の時刻は大きく変動する。つまり、均時差表示機構が正確な真太陽時を示すには、永久カレンダーと連動させる必要があった。事実、ブレゲはいくつかのウォッチやクロックに均時差表示を与えたが、それらはすべて永久カレンダー付きだった。好例が「マリー・アントワネット」ことNo160(2008年の復刻版はNo1160)である。このモデルでは、均時差表示機構と永久カレンダー機構を完璧にシンクロさせるため、太陽の動きを模したイクエーションカムと、12カ月を表示するディスクは同軸に置かれた。

 しかし、スケッチに記したにもかかわらず、ブレゲは均時差表示機構をマリンクロノメーターに載せなかった。その理由は想像に難くない。ひとつは、永久カレンダー機構と均時差表示機構を加えると、精度が悪化するため。穴石が普及していなかった当時、付加機構がもたらす抵抗は、今の時計師たちが想像するよりはるかに大きかったのである。そして、もうひとつがショックである。カムとレバーで動く永久カレンダー機構と均時差機構は、お世辞にも耐衝撃性が高いとは言えなかった。船に乗せたら、たちまち壊れてしまっただろう。

左は、曜日、日付、月を駆動する作動レバー。既存の永久カレンダーが用いる作動レバーとは異なり、レバーの重量が全体に分散されるような設計になっているため、理論上の耐衝撃性は高いだろう。右は、ムーブメントの外周に置かれた自動巻き用のペリフェラルローター。ムーブメントを薄くできるほか、ローターの重さを分散できるため、ショックにも強い。自動巻きにペリフェラルローターを採用したことは、スポーティーウォッチ「マリーン」の性格によく合っている。