GS威風堂堂

2018.10.04

[バックラッシュオートアジャスト機構]
輪列の終端に設けたヒゲゼンマイで輪列全体にテンションをかけることで、輪列の無駄な遊びを詰め、針位置を適切な場所に保持するバックラッシュオートアジャスト機構。9Fムーブメントのお家芸とも言えるこの機構は、当然、9F86にも搭載されている。設計を担当した小池信宏氏曰く「この機構のおかげで、秒針と分針だけでなく、GMT針も適切な位置で保持される」。

Cal.9F86
年差±10秒以内という高精度に加えて、GMT針で示す第2時間帯表示、時針の単独修正とそれに連動した日付の先送り・逆戻し、さらに日付のクイックチェンジ機構を備えたクォーツムーブメント。9Fの持つ大きなトルクが、不可能と思われたこれらの機能の追加を可能にした。


時針を動かすのが、4体構造になった中央の筒車である。右は、時針単独修正を可能にする、時ジャンパー体付きの筒歯車。これを左の筒車体の最下層にはめ込んで、4体構造の筒車は構成される。時ジャンパー体の素材は鉄。バネ部分の厚みと幅を増すことで、時針の確実な切り替えと、正確な保持を可能にした。理論上の抵抗は増すが、強いトルクを持つ9Fは、その問題をクリアした。左は、時針を取り付けた筒車体。

 「従来の9Fは、18時間かけて瞬間日送り用のバネをチャージします。対して9F 86では、その時間を5時間に短縮しました」。チャージ時間
を3分の1以下に縮められたのは、機械式時計並みのトルクを持つ9Fクォーツのポテンシャルの高さ故だ。
「また、時針を規制するジャンパーの保持力を設計当初の2倍に上げることで、時針単独修正の動きをより厳密にしました。普通のクォーツでは動きませんが、9Fなら可能です」

 設計が出来上がり、プロトタイプは完成したものの、問題はさらに続いた。針の取り付けが極めて難しかったのである。関係者はこう語る。
「9F86には瞬間日送り機構が付いています。そのため、日付が切り替わった後に針を取り付けると、GMT針の位置がわずかにずれるんです。切り替わる直前に取り付ける必要がありますが、タイミングを見極めるのは難しい」。しかし、セイコーエプソンの技術者は取り付けに工夫を凝らし、針位置を揃えてみせた。

 年差±10秒以内という高精度に加えて、GMT針で示す第2時間帯、時針の単独修正とそれに連動した日付の先送り・逆戻し、さらに瞬間日送り機構を備えた9F86。現時点で、これに勝るGMTムーブメントは存在しない、と断言したい。しかも、このムーブメントを載せたモデルは、GMTウォッチらしからぬほど薄い上、価格もかなり戦略的だ。海外渡航者ならば、必ず手にすべき実用時計、と言えるだろう。


9Fの特徴が時・分・秒針の軸を完全に独立させた3軸独立構造。3本の軸が干渉しないため、針合わせの際に、分針と時針がぶれず、耐久性にも優れる。また、理論上は精度を悪化させない。9F86では、24時筒車で駆動される24時針も完全に切り分けられた。非常によく出来た仕組みだが、干渉させないためにスペーサーを加える必要があるため、針の取り付け位置が高くなってしまう。「24時針を加えた結果、針高は0.9mm増しました。対して、時針と分針の位置を下げることで針高を抑えました」(小池氏)。果たして、Cal.9F86モデルは既存の9Fとほぼ変わらない見た目を実現した。