新世界へ躍動する カルティエ「サントス」

FEATURE本誌記事
2019.06.06

サントス ドゥ カルティエ

サントス ドゥ カルティエ クロノグラフ

サントス ドゥ カルティエ クロノグラフ
サントス ドゥ カルティエに加わった新しいクロノグラフ。ムーブメントは既存のCal.1904 CH MCをベースにしているが、ワンプッシュに改良されたほか、プッシュボタンは9時側に移動された。ケースはSSだが、ベゼルは傷の付きにくいADLC処理が施されたほか、インデックスと針にも夜光塗料が塗布される。ラバーストラップと“Gomma”アリゲーターストラップが付属する。自動巻き。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約47時間。SS+ADLC(縦51.3×横43.3mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。97万円。

 一方、サントスの持つマルチパーパス性を強調したのが、2018年発表の「サントス ドゥ カルティエ」である。最大の特徴は、簡単にストラップを交換できる「クィックスイッチ」システムの採用だ。ストラップの裏側をワンプッシュするだけでストラップを付け替えることができるため、シチュエーションに応じて、時計の見栄えを変えられる。取り付け部は非常に剛性があり、左右のガタツキは皆無だ。カルティエは現在、ケースの大半を自製しており、そのメリットを最大限に生かした機構と言えるだろう。自社製のブレスレットも、特殊な工具を使わずに、コマに内蔵された突起を押すだけで簡単に長さを調整できる。一見、調整機能があるとは思えないほど、部品同士の噛み合わせは緻密だ。また、ブレスレットの左右の遊びは抑えてあり、高級機らしい手触りを楽しめる。時計のサイズは、LMが39.8㎜、MMが35.1㎜。厚さはLMが9.08㎜、MMに至っては8.83㎜しかない。極薄ではないが十分に薄型だ。これならばサントス=デュモンよろしく、細身のシャツを選んでも決して袖口を邪魔しないだろう。

 もっともカルティエはサントスという時計の出自を決して忘れてはいない。カルティエは公言しないが、搭載するキャリバー1847MCはシリコン製脱進機の採用により1200ガウスもの耐磁性能を持つ。また、厚さ10㎜を切る薄型ケースにもかかわらず、防水性能は10気圧もある。新しいサントスはスポーツウォッチではないものの、スポーツシーンで使えるだけの性能を備えているわけだ。

初代サントスは衝撃を受けてもストラップが外れないよう、強固なデプロワイヤントバックルが備わっていた。新作の中ではクロノグラフのみがデプロワイヤントバックル付きである。プッシュボタンで簡単に開閉できるようになったほか、ストラップを折り曲げる必要がなくなった。

 2019年に加わった「サントス ドゥカルティエ クロノグラフ」も、やはりユニークなキャラクターが際立つ。カルティエは、この時計に極めてモダンな造形を与えたが、あくまでもハイテクで武装したスポーツウォッチとは一線を画している。例えばクロノグラフのプッシュボタン。普通はリュウズ側に置かれるが、カルティエはあえてワンプッシュにまとめ、9時側のケースサイドに配した。カルティエはクロノグラフであっても、サントスのデザインを損ねたくなかったというわけだ。この時計のケース厚が、12.5㎜しかない理由でもある。

 しばしば、腕時計の祖と言われるサントス。カルティエはその造形以上に、キャラクターを磨き上げ、新しいサントスデュモンとサントス ドゥ カルティエを創り上げた。どこでも使えるという腕時計の理想を、巧みなパッケージングでまとめ上げた新しいサントスコレクション。もしサントス=デュモンが今にありせば、彼は喜んで、新しいサントスを腕に巻いたに違いない。

サントス ドゥ カルティエ

サントス ドゥ カルティエ
1200ガウスという高耐磁性能に加え、簡単にストラップを交換できる「クィックスイッチ」システムを備えるマルチパーパスウォッチ。ケース厚が8.83mmしかないため、見た目以上に着け心地は良好だ。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(縦41.9×横35.1mm、厚さ8.83mm)。10気圧防水。195万円。
サントス ドゥ カルティエ スケルトン

サントス ドゥ カルティエ スケルトン
新しいサントスで最も魅力的なモデルのひとつ。ムーブメントは既存に同じだが、ケースをSSに改めたことで普段使いにも向く。インデックスと針には、ブラックのスーパールミノバが塗布される。手巻き(Cal.9612MC)。20石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS+ADLC(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.1mm)。10気圧防水。予価275万円。
サントス ドゥ カルティエ

サントス ドゥ カルティエ
LMサイズのコンビネーションモデル。交換可能なブレスレットを備えるにもかかわらず、加工精度が高いため、左右の遊びは極めて小さい。また、ヘッドとブレスレットの重さのバランスが適切なため、長時間着けても疲れにくいだろう。今のカルティエらしく、ケースの面に歪みは極めて小さい。基本スペックは右のモデルに同じ。112万円。

サントス ドゥ カルティエ
こちらはサイズの大きなLMモデル。といってもケース幅は39.8mmしかない。調整の容易な「スマートリンク」システムはIWCに先例が見られるが、完成度はこちらの方が高い。カーフスキンストラップ付属。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.08mm)。10気圧防水。74万円。