急進する文字盤の製造技法 (前編)

FEATURE本誌記事
2019.10.24

コラム

(左)一見、アプライドインデックス。しかしこれは、テフコ青森製の電鋳文字だ。シールで文字盤に転写できるため、極めて正確な位置決めが可能である。電鋳らしからぬ質感を持つ理由は、表面をダイヤモンドカッターで削っているため。このクォリティなら、超高級時計でも使えるだろう。
(右)最近普及しつつあるのが、転写式のルミノヴァインデックス。N夜光(ルミノーバ)の開発者である根本特殊化学との共同開発。現在、スイスのさまざまなメーカーがこれを採用するようになった。

文字盤表示を革新する日本企業TEFCO

 最近見かけるエンボスのような、アプライドのようなロゴやインデックス。多くの関係者を悩ませるその正体は、テフコ青森製の電鋳文字である。

 顧客の大半は日本の時計メーカー。しかし5年ほど前から、同社のエッチングシールは、スイスの時計業界でも広く使われるようになった。
 テフコの創業は1988年のこと。電気分解成形メーカーで働いていた創業者の中山廣男氏は、時計メーカーの相談を受けて、インデックスをプリントでも、アプライドでもなく、シールとして貼り付けられないのか、と考えるようになった。彼が至ったのは、電気鋳造で立体的な構造物を作り、それをシール状にして文字盤に転写し、貼り付ける、というものだった。

 転機が訪れたのは、電波ソーラー時計の普及であった。ソーラーセルに受光しやすくするため、電波ソーラーの文字盤はほぼ99%がプラスチック製である。そして、プラスチック製の文字盤には、インデックスを固定する穴を開けるのが難しい。そこで、直接文字盤に貼り付けられる電鋳のインデックスやロゴが注目されるようになった。

 その後、同社は50年後、100年後でも絶対にはがれない印字と、より立体的な文字の開発に着手。貼り付ける粘着剤は自社で調合、そして0.25mmという非常に分厚い文字を完成させることで、国外からも広く注文を受けるようになった。加えて現在は、さまざまな色でインデックスやロゴを作れるようになった。となれば、同社の顧客リストに、超一流のブランド名が連なるのも当然だろう。

(左)テフコ青森の電鋳文字は、このような形で時計メーカーや文字盤のサプライヤーに納品される。裏には粘着剤が塗布されており、シールとして文字盤に転写し、貼付できる。現在、ほとんどの文字盤に転写可能とのこと。
(右)テフコ青森は、2000年以降、金のインデックスも製造するようになった。素材は本物の18Kゴールド。現在は1Nから5Nまでの各色に対応可能である。「今後取り組みたいのは、さまざまな色を混在させたマルチカラーです」と語る中山元氏。

 とはいえ、電気鋳造で文字を製造するのは、非常に手間のかかる作業だ。現社長の中山元氏は「250ミクロンのインデックスを作ろうと思ったら、8~9時間はかかる。歩留まりは6割程度」と述べる。にもかかわらず、スイスのメーカーはコストを負担してまでも、テフコに新しい試みを依頼する。

 中山氏が、あるメーカーのロゴを見せてくれた。厚さは0.15mmしかないが、それ以上厚くすると細かいディテールが潰れてしまうためという。遠からぬうちに、そのメーカーは、テフコのロゴを使うはずだ。

 今やスイスの高級時計、超高級時計には欠かせなくなったテフコ青森の電鋳文字。現在同社は、より分厚い表現に挑戦中だ。

 もし仮にそれが実現したらどうなるだろうか。高級時計における文字盤の表現は、まったく変わってしまうに違いない。

Contact info: テフコインターナショナル ☎045-786-0038