パテック フィリップ/ノーチラス

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.05.03

3ピースケース化された新型ノーチラス

ノーチラスの個性であり、大きな制約でもあった2ピースケース。2005年に始まった3ピース化への試みは、翌06年に開花した。ねじ込み式のケースバックを持つRef.5711/1A、はめ込み式のRef.5712/1A、そしてクロノグラフのRef.5980。それぞれの構造から透けて見えるのは、オリジナルのデザインに対する、パテック フィリップの敬意、である。

Ref.5726A
Ref.5726A
Ref.5726A ノーチラス・年次カレンダー
2010年初出。3ピースケースの採用により、搭載するムーブメントの自由度が広がった。ケースバックが、左右の耳で固定されているのが分かる。そのため、ムーブメント厚が5.32mmにもかかわらず、ミドルケースはオリジナルモデルと同程度に薄い。自動巻き(Cal. 324 S QA LU 24H)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(径40.5mm、厚さ11.3mm)。120m防水。444万円。サイズ表記はすべて10時から4時方向での計測。

 2006年のRef.5800を最後にノーチラスのケースは3ピース化され、分割式のリュウズ巻き芯を持たないムーブメントの搭載(キャリバー315系や240系)に道を拓いた。結果がケースサイズの拡大と、コンプリケーションムーブメントの搭載だった。つまりはノーチラスの新ジェネレーションである。しかし3ピース化にあたって、パテックが取った態度は極めて慎重だった。3針の5711/1Aはスクリューバック、カレンダーモデルの5712/1Aははめ込み式、そして5726Aと5980Rは、ケースバックの「耳」を伸ばしてケースサイドのビスで固定する。同じスリーピースでも、手法はまったく違ったのである。中でも興味深いのが、後者、つまり、年次カレンダーとクロノグラフだろう。

Ref.5980
Ref.5980
Ref.5980 ノーチラス・クロノグラフ
2006年初出。Ref.5726Aと同じく、「耳」でケースバックを支える3ピースケースを持つ。ミドルケースは単なるクッションであり、主にケースを構成しているのは、ベゼルとケースバックである。オリジナルの構造を巧みに応用したケースと言えよう。自動巻き(Cal.CH 28-520 C)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KRG(径40.5mm、厚さ12.2mm)。120m防水。671万円。

 年次カレンダーやクロノグラフのムーブメントは、一般の3針に比べて厚みがある。しかしノーチラスのミドルケースは、分厚いケースバックをねじ込めるほどの厚みを持っていない(ジェラルド・ジェンタは一貫して、薄型ケースにねじ込み式のケースバックやベゼルを与えることを嫌った)。そこでパテック フィリップは、ケースサイドでベゼルの「耳」を支えるという構造を、ケースバックにも転用した。果たして、ノーチラスは搭載するムーブメントを問わず、ミドルケースの厚みがほぼ同じとなったのである。

 かつてパテック フィリップはRef.3800の開発にあたって、新型自動巻き、キャリバー330 SCのカレンダーディスクをムーブメントの内周に移動させ、見た目の印象をオリジナルと同じに揃えた。その微妙なさじ加減は、現行のノーチラスも同様なのである。オリジナルのデザインに対する敬意。それこそが、ノーチラスを長きにわたって長らえさせた理由にほかならない。

ノーチラス
Ref.5712/1A
Ref.5712/1A ノーチラス
2006年初出。一見、Ref.5800同様の2ピースに見えるが、実は裏蓋がはめ込み式の3ピースケースである。裏蓋の高さを抑えることで、装着感を改善する試みか。コンプリケーションにもかかわらず、ノーチラス特有の装着感は、いささかも損なわれていない。自動巻き(Cal.240 PS IRM C LU)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(径40mm、厚さ8.52mm)。60m防水。374万円。


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