ブライトリング/クロノマット

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.06.01

CHRONOMAT 44
外装の圧倒的質感と自社製キャリバーで新境地に突入したプロジェクト1号機

クロノマット44(2009)
Ref.B0110(現011)。初出時の名称はクロノマット B01。自社製キャリバーの01を搭載したモデル。サイズは「クロノマット・エボリューション」にほぼ同じだが、細部は大きく異なる。前作以降は、パイロット・ブレスレットの形状も、より一般的なものに近づいた。意匠の好みはさておき、内外装の完成度は非常に高い。自動巻き。2万8800振動/時。47石。パワーリザーブ約70時間。SS(直径44mm)。500m防水。101万5200円。

 2009年発表の「クロノマット 44」は04年発表の「クロノマット・エボリューション」に、自社製キャリバーを搭載したもの、と言える。その中身は後述するとして、大きな違いはサイズにある。従来の39㎜に対して、クロノマット 44は44㎜。幅だけでなく厚みも増している。加えて、ラグも腕に沿うように曲げられた。当初のクロノマットらしさは失われたが、装着感が改善されたのは事実である。加えて17.1㎜というケース厚を考慮したためか、ライダータブの高さも抑えられた。しかしベゼル自体に斜めの傾斜を付け、指かかりを良くすることで、従来以上の操作感を得ている(下写真参照)。

 サイズ拡大のメリットが、防水性の向上である。直径30㎜のキャリバー13と01を39㎜のケースに収め、しかもねじ込み式の裏ブタを与えるのは難しい。しかし44㎜もあれば、裏ブタのヒンジを厚くできる。新しいプッシュボタンと併せて、500mもの耐水性能を実現できた一因である。もちろん2000年前後に改善を見た外装の質感は、このモデルでいよいよ詰まってきた。ケース鏡面部分の歪みを見れば、高い質感は明らかだ。内外装の充実ぶりを考えれば、価格も十分妥当だろう。

 ただ筆者個人の感想を言えば、見事な完成度にもかかわらず、このモデルはクロノマットの原点とはいささか離れた存在である。造形はボリューミーだし、太いベゼルといったディテールからは、原初のクロノマットらしさが減じてしまったように感じる。またサイズ拡大の方法論が90年代に同じ(例えばラグを延ばして装着感を改善する)点も気にならないと言えば嘘になろう。内外装ともに卓越しているだけに、84年初出のクロノマットのような「締まった」モデルを期待したいとは、果たして過ぎた願いだろうか。

(左上)複雑な文字盤。前作の「クロノマット・エボリューション」で試みられた仕上げの併用は、本作で定番化した。
(右上)高さを抑えられた見返し。理由は、サファイアクリスタルの厚みが増したためである。
(中)ボリューミーになったケース。湾曲したラグにより、装着感は改善されている。注目すべきは、ライダータブに向けて傾斜したベゼル。指かかりを良くするための配慮である。
(左下)一方向回転ベゼルとライダータブ。意図的に高さを抑えているのが分かる。それぞれ別部品である回転ベゼルとベゼルトップのクリアランスは極めて小さい。(中下)パイロット・ブレスレットとそのバックル。「クロノマット2000」に比しても、取り付け部はさらに強固である。
(右下)ケースサイドと裏ブタ。前作で採用された、セキュリティ・プッシュボタンにより、500mの防水性能(シースルーバックは200m)を実現した。