ピアジェ/ピアジェ アルティプラノ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.08.18

薄型時計のトレンドを牽引してきたピアジェ。その歩みを見ていくと、ただ時計を薄くするだけでなく、時計としての実用性を、可能な限り盛り込んできたことが分かる。薄さと汎用性を両立させてきたピアジェの歴史を、代表作の「ピアジェ アルティプラノ」とともに振り返ることにする。

広田雅将:取材・文 吉江正倫、三田村優:写真
[連載第22回/クロノス日本版 2014年7月号初出]


ROUND  MODEL [1961]
Cal.9Pを搭載するアルティプラノの原型機

ラウンドモデル

ラウンドモデル[1961]
Cal.9Pを載せた最初期の薄型時計。すでに現行モデルに比肩するほどの完成度を備えていることが分かる。エッジを立たせたケースにも注目。手巻き(Cal.9P)。1万9800振動/時。パワーリザーブ約36時間。18KWG(直径32mm)。非防水。ピアジェ アーカイブコレクション蔵。

 ピアジェが初の薄型ムーブメントを発表したのは1957年のこと。堅牢だが、ごく一般的な時計を作っていた同社は、キャリバー9Pの発表以降、高級メーカーのひとつと見なされるようになった。薄型ムーブメントがステータスであったことを考えれば、それは当然だったろう。

 しかしピアジェは、以降同社の立脚点となる薄型ムーブメント以外にも、すでに高級メーカーと見なされるだけの資格を持っていた。それが良質な外装である。この時代のピアジェは、外装部品を基本的にはサプライヤーから購入している。しかし現代ほど外装への価値基準が高くなかった当時でさえ、ピアジェは第一級の外装部品を使っていた。好例がこの薄型時計(61年製)だろう。原型をよく留めたこの個体を見ると、当時のパテック フィリップに比肩するほど角が立ち、整った面のケースを持っていたことが分かる。

 またピアジェは、薄型時計のデザインでも他社に先駆けていた。それを象徴するのがベゼルのチムニー(煙突)だろう。ベゼルを低く抑えると、時計は薄く見える。しかし薄くすると、風防を取り付けられない。そこでピアジェはベゼルを煙突状に成形して風防をはめ込んだ。この手法がスイス時計産業に浸透するのが70年代以降であることを考えれば、ピアジェは他社に大きく先んじていたといえる。またケースの構造も、ラグと裏ブタを一体化させることで、薄さと剛性を両立させた2ピースである。近年ジャガー・ルクルトが、薄型化の切り札として採用したケース構造を、ピアジェはとっくに採用していたわけだ。

 ごく最初期のモデルでさえも、すでに非凡な完成度を備えていたピアジェの薄型時計。同社がたちまち名声を得たのも、この時計の造形センスを見れば納得である。

ラウンドモデル

(左上)1960年代のピアジェを特徴付けるのがベゼルの構造。ベゼルの高さを低く抑え、しかし風防の取り付け部分のみを立てているのが分かる。実際に薄いこの時計を、ピアジェはさらに薄く見せようと試みた。(右)極めてクリーンな文字盤。粗い筋目を縦に入れてモダンに見せる手法は、1960年代半ば以降に普及したものだ。しかし筆者の知る限り、ピアジェは50年代後半には取り組んでいた。シャープな文字盤とケースを見る限り、1970〜80年代に製造された時計といわれても、納得してしまうだろう。(中)ケース側面。製造年代もメーカーも異なるが、そのプロファイルは1980年代に登場することになるパテック フィリップRef.3919を思わせる。しかしあまりにも野心的な構造だったためか、以降のピアジェにこういったケース構造はあまり見かけない。(左下)スクエアなバックル。これもオリジナルである。取り付け部を太く、対してバックル側を極端に絞ってドレッシーに見せる、という定石を、このモデルはきちんと守っている。(右下)ケースバック。この時計のケースは3ピースに見えるが、実は2ピースである。ラグと裏ブタでひとつのピース、そしてベゼルがもうひとつのピースである。ちなみに2013年のジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・ジュビリー」は、まったく同じケース構造を採用した。