GMT機構 第3回「デュアルタイムとバリエーション」

FEATURE時計機構論
2017.04.28

ユリス・ナルダン「クラシック デュアルタイム マニュファクチュール」
ホームタイムは、ダイアル9時位置の丸い窓で数字で常時表示。旅先でのタイムゾーン変更(時差修正)は、ケース左のプッシュボタンによる時針の進める/戻すの各操作で行う。ユリス・ナルダン特許のこの便利な「GMT±」機構は、1994年に初めて登場して以来、現在まで受け継がれる古典。写真は最新の自社製ムーブメントを搭載する2015年モデル。自動巻き (Cal.UN-334)。

ブレゲ「クラシック オーラ・ムンディ 5717」
2011年に初めて発表された「オーラ・ムンディ」とは「ワールドタイム」の意味だが、実際はワールドタイムではなく、一種のデュアルタイム・ウォッチ。ダイアルでの時刻表示は一つだが、都市名、日付、昼夜表示が連動するインスタント・ジャンプ・タイムゾーン機能により、事前に設定した世界24タームゾンの都市のいずれかの時刻に素早く変更できるのが特徴。3時位置には大きな昼夜表示もある。自動巻き(Cal.77F0)。


 さて、ここまでGMT機構のうち、元祖GMTとデュアルタイムの代表的な例をいくつか取り上げてきたが、さらにこんな特異なタイプもある。GMT機構はそもそも旅行の場面で実際の使用に値する実用コンプリケーションだから、表示や仕組み、操作性にさまざまな知恵が盛り込まれていて興味深い。

 一つは、1990年代に登場したユリス・ナルダンの歴史的名作「GMT±」である。これは、ケース左に設けられたプッシュボタンによって、メインの時針を1時間刻みで進む/戻るの各操作ができ、旅先でのタイムゾーン変更、すなわちローカルタイムへの変更が素早く行えて便利だ。パテック フィリップの「トラベルタイム」とよく似ているが、ホームタイムの表示に時針を用いず、窓の数字で24時間表示する点が大きく異なる。よりシンプルな表示と操作性を特徴とするこのGMT機構は、のちに永久カレンダーと組み合わさって「GMT±パーペチュアル」という傑作が生まれたが、現在のユリス・ナルダンでは同機構が「クラシック デュアルタイム マニュファクチュール」に受け継がれている。

 そして最後にもう一つこれまた独創的なのは、ブレゲ「クラシック オーラ・ムンディ 5717」(2011年初出)である。世界24のタイムゾーンに対応する一種のワールドタイムなのだが、厳密に言えば、デュアルタイムの入れ替えが可能なワールドタイムとも言うべき、少々変わったGMTウォッチだ。ダイアルが表示するのは、ふつうの3針と同様に一つの時刻のみ。しかし予め他に参照したい都市を設定しておくと、たとえばそれが東京に対してパリならば、それが機械的なメモリーに登録され、パリに着いてプッシュボタンを押せば、ダイアルの時刻がパリ時間に変わるという仕組み。二つの都市の時刻が瞬時に入れ替えられる機能は「インスタント・ジャンプ・タイムゾーン」と呼ばれるが、ブレゲは「クラシック オーラ・ムンディ 5717」の複雑機構に関して実に4件もの特許を登録した。