ダイバーズウォッチ 防水時計の歴史

FEATURE時計機構論
2019.08.22

 さて、ダイバーズウォッチの二大元祖に続いて、1950年代後半から60年代にかけて続々と本格モデルが登場する。現行コレクションにオリジナルからの系譜を受け継ぐ、こちらも双璧といえば、1957年に発表されたオメガ「シーマスター 300」とブライトリング「スーパーオーシャン」だ。どちらも当時の防水性能は200mで、回転べぜル、視認性の高いダイアル、自動巻きムーブメントを装備していた。

 ジャガー・ルクルトが発表したダイバーズモデルは異色だ。同社が得意としたアラーム機構を搭載する世界初のダイバーズモデル「メモボックス・ディープシー・アラーム」(1959年)である。のちにインナー式の回転ベゼルを加えたタイプの「メモボックス・ポラリス」(1965〜1970年)も作られた。

ジャガー・ルクルト メモボックス・トリビュート・トゥ・ポラリス 1968

ジャガー・ルクルト「メモボックス・トリビュート・トゥ・ポラリス 1968」
ジャガー・ルクルトは、アラームウォッチの代表作「メモボックス」をダイバーズウォッチ仕様にアレンジして、インナー式回転ベゼルを採用した「メモボックス・ポラリス」を1965-1970年の間に1714個製造したという。自動巻き、200m防水。2008年には、当時のオリジナルを忠実に再現する写真の復刻版が発表された。
ロンジン ダイバーズ

ロンジン「ダイバーズ」
2015年に「ロンジン ヘリテージダイバー1967」の名でデザイン復刻されたモデルのオリジナルは、同年に製作されたこのダイバーズクロノグラフ。高い防水性能が備わるダイバーズクロノグラフが多数存在する現在とは違い、60年代当時としては画期的だ。ただし、水中でのクロノグラフ操作は可能ではなかったと思われる。

 ダイバーズウォッチにおいて、ある意味“機構”、それも非常に単純な手動式の機構が回転ベゼルである。この回転ベゼルは、ベゼルに記されている60分スケールのゼロポイント(三角マーカー)を計測開始時に現在の分針に合わせ、潜水中の経過分数を計測するのに利用する。水中での時間計測に使用可能なクロノグラフがまだ開発されていなかった1950年代当時、回転式ベゼルに簡易クロノグラフの機能を担わせるというのはグッドアイデアだった。ちなみに、ふつうの日常生活でも経過時間の計測にさっと使える便利な装置ではある。

 最初期のベゼルは、時計回りにも反時計回りにも回転可能という両方向回転式だったが、これには安全性の観点から問題があった。最初に設定した60分スケールの設定位置がダイバーの誤操作や衝撃などでずれてしまうと正確な時間が測定できないばかりか、時間の誤認が生命に関わる重大事故を引き起こしかねないからだ。

 1950年代に「フィフティファゾムス」の開発に携わったブランパンCEO、ジャン=ジャック・フィスターは、回転ベゼルが不用意に回らないようにロック機構を考案し特許を取得したが、やがて反時計回りの一方向にしか回らず、位置がしっかり保持される逆回転防止型ベゼルの登場によってこの問題は解決を見た。この逆回転防止型ベゼルは、現在ISO(国際標準化機構)やJIS(日本工業規格)では、ダイバーズウォッチの必須規格の一つになっている。

 外に露出したアウターベゼル以外にも、ケース内に収納するインナーベゼルも登場する。アウター式はグローブをした指で直接つかめて回しやすいが、衝撃に弱くキズもつきやすい。その点インナー式は安心だとはいえ、専用リュウズをつまんでベゼルを回しゼロポイントを設定するのが少々面倒である。

 ダイバーズウォッチの大半がアウター式回転ベゼルを採用していたが、インナー式のモデルには、先のジャガー・ルクルト「メモボックス・ポラリス」、あるいはIWC「アクアタイマー」(1970年代)などがある。