腕時計用のアラーム機構。その歴史と代表的モデル

FEATURE時計機構論
2019.09.06

ア・シルド

 ヴァルカンやジャガー・ルクルトの場合は、自社のオリジナルムーブメントだが、他ブランドでは、ムーブメント専門メーカーのア・シルド(AS)の製品が多く使われた。ここでまず、ア・シルド系の流れをざっとおさらいする。

 ギズベルト・L・ブルーナー共著『Wristwatches Armbanduhren Montres-bracelets』(1999年ドイツ・KÖNEMANN社刊)によれば、ア・シルド社のアラーム機構搭載、ツインバレル手巻きCal.AS1475(ムーブメント径11リーニュ)は、1954〜70年までに78万1000個以上が製造され、さまざまな時計メーカーに供給されたという。これをモディファイしたバリエーションとなると、約150万個にも達したそうだから、いかに人気を博したかが想像できる。ヴァルカンやジャガー・ルクルトのムーブメントを利用できない時計メーカーは、ア・シルドが頼みだった。

 70年代は、クォーツウォッチの台頭によって機械式腕時計は廃れた。当然ながら機械式アラームウォッチ自体も運命を共にし、いったん幕を閉じる。その後のアラームウォッチは、電子音の時代に入る。

 ところが、1990年代の機械式時計ブーム復活が幸いして、2000年代に愛好家向けの商品として息を吹き返したのだからおもしろい。興味深いのは、1970年代に量産された機械式アラームのオールドストックムーブメント(例えばア・シルドの自動巻きCal.AS5008)をベースにして、アラームにGMT機能を加え、現代的にアップデートしたモデルの数々である。ちなみに付け加えると、この時期にCal.AS5008をアレンジして作られた大半がトランスパレントバックを採用する。ハンマーが裏蓋ではなく、ケースの横を叩いて音を出す仕組みになっているので、裏蓋を透明化して機構を見せることができたわけだ。

GMT

 実用性を考えれば、アラーム機能と最も相性が良いのは、ホームタイムとローカルタイムが同時に分かるGMT機能である。時差で時間感覚が狂いがちな海外の旅先では、朝の目覚ましにこのアラームが役立ち、旅行用のアラーム置き時計を携行しなくても済むから便利である。

ラジオミール GMT アラーム

パネライ「ラジオミール GMT アラーム」
貴重なコレクターズアイテムとして人気のこのモデルは、1999年に限定モデルとして初めて発表され、2000年代にサイズ違いや素材違いの限定モデルが作られた。アラームおよび6時位置にGMT機能の第2時間帯表示が備わる自動巻きムーブメントは、ジラール・ペルゴ製Cal.GP59(ア・シルドCal.AS5008ベース、31石、2万8800振動/時)。2時位置のリュウズで時刻調整、4時位置のリュウズでアラームを設定する。写真は2006年発表の18KPGモデル(直径42mm)。生産終了。

 当時の主だったモデルに、アラン・シルベスタイン「ル レヴェイユGMT」、ジラール・ペルゴ「トラベラーⅡ」、パネライ「ラジオミール GMT アラーム」、ボーム&メルシエ「ケープランド GMTアラーム」、モーリス・ラクロア「マスターピース・レベイユグローブ」、ジン「6066」などがある。いずれも時計好きを魅了するモデルばかりだが、エボーシュムーブメントのストックが尽き、次々と消えていったのは惜しまれる。ちなみに近いところではルイ・ヴィトン「タンブール レヴェイユGMT」もそのひとつだ。

 このようなアラームGMTは、鳴り物時計としては比較的手に入れやすい魅力的なプライスだったこともあり、ソールドアウトが続出した。今や、希少価値の高いコレクターズアイテムだ。

ジン「6066」

ジン「6066」
ジンの本拠地であるフランクフルトの経済振興協会から要請を受けて開発されたファイナンシャルウォッチ「6000」シリーズは、1999年に始まり現在に至るが、同シリーズにかつて存在したアラームGMTウォッチ「6066」は、時計愛好家垂涎のレアモデル。ジャケ製の自動巻きCal.5900(ア・シルドCal.AS5008ベース、31石、2万8800振動/時)を搭載し、GMT機能は6時位置の第2時間帯表示に加え、インナーベゼルの操作で第3時間帯の表示も可能。100m防水、トランスパレントバックなども特色だ。SS(直径38.5mm)。写真は2000年代モデル。生産終了。