【76点】セイコー/プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

FEATUREスペックテスト
2023.09.23

セイコー

日本のマニュファクチュール、セイコーは、ムーブメントの部品をほぼすべて社内で生産している。大手メゾンでも外部の専門メーカーに任せることの多い主ゼンマイやヒゲゼンマイまでもが自社製造なのだ。安価なモデルにも採用されているセイコー独自の革新的な技術には、ミネラルガラスに特殊な強化処理を施した「ハードレックス」や、二重爪のローター巻き上げシステム「マジックレバー」などがある。


セイコー/プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

美しい文字盤と優れたコストパフォーマンス
セイコーが1968年に発表したダイバーズウォッチがスペシャルエディションになってよみがえる。この時計が備える美徳は、氷河を想起させる美しい文字盤だけではない。

セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
セイコー:写真 Photographs by Seiko
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yuto Hosoda
[クロノス日本版 2023年9月号掲載記事]

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・魅力的なデザイン
・優れた視認性
・操作が簡単

-point
・精度にやや難あり
・ダイバーズエクステンションが簡素

セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

SBDC167の文字盤は氷河をモチーフにしたもの。発色の優れたアイスブルーが、古典的なダイバーズウォッチに新たな風を吹かせた。

 セイコーはダイバーズウォッチの分野で多くの偉業を成し遂げてきた。このブランドの時計が高い人気を誇るのにはそれなりの理由がある。日本で初めて作られたプロ仕様のダイバーズウォッチは、1965年に発表された〝150mダイバー〞ことセイコーの「62MAS」である。回転ベゼルを備えたステンレススティール製ケースは、水深150mの水圧まで耐えることができた。この時計は66年、日本の南極地域観測隊に採用され、その実力を証明した。プロフェッショナル ダイバー300m「6215」で防水性を300mまで引き上げることにセイコーが成功したのは、そのわずか2年後のことである。このモデルでは、リュウズが手の甲に当たらないように4時位置に移動されるなど、すでにプロダイバーズの特徴を備えていた。さらにその1年後である68年には3万6000振動/時のハイビート機が搭載され、文字盤にも変更が加えられた。

 今回、そんな68年に発表されたセイコーダイバーズが現代的な解釈でよみがえる。「プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル SBDC167」は、オリジナルモデルと異なり、ケースはワンピース構造でなく、伝統的なスリーピース構造が採用されている。エッジや斜角面を多用し、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げが交差するデザインは、オリジナルモデルよりも一段と洗練され、美しい外観が出現している。ケースの素材には焼き入れし、硬度と強度を高めたステンレススティールが使用されている。

6159

1968年に発表されたオリジナルモデル「6159」。ワンピースケースを採用することにより300mの防水性能を得た「6215」をベースに、振動数を3万6000振動/時に引き上げた。

 針とインデックスもオリジナルモデルを踏襲しており、6時位置と9時位置にはバーインデックス、12時位置には下部を鋭角に仕上げたダブルバーインデックス、その他の時刻にはドットインデックスが配されている。蓄光塗料を備えた特徴的な秒針もセイコーダイバーズ特有のもので、新作では赤ではなく青いドットが付いている。ケース同様、文字盤もオリジナルモデルの時よりも品質が高い。片側がサテン仕上げ、もう半分がポリッシュ仕上げの時分針は、視認性の向上だけではなく、エレガントな外観にも寄与している。

氷河を想わせる文字盤

 スペシャル・エディション「Save the Ocean」のハイライトは、氷山を想起させるライトブルーの文字盤である。見た目も華やかで、細部まで非常に丁寧に作られており、自然からインスパイアされたことを明確に認識することができる。ダークブルーのベゼルも、光の当たり方によっては黒く見えるものの、文字盤との調和が素晴らしい。この配色と文字盤のデザインは、66〜69年にかけてセイコーが供給してきた日本の南極地域観測隊の装備品を彷彿とさせ、ブランドの歴史にもふさわしい。

 セイコーが自社製造するミドルクラスのムーブメント、キャリバー6R35は、2万1600振動/時とロービートながらも、約70時間のパワーリザーブを備えていて快適に着用することができる。これよりも簡素なキャリバー4R36のパワーリザーブは約41時間で、雫石高級時計工房製のダイバーズウォッチにのみ搭載される高級機、キャリバー8L35でも約50時間なので、パワーリザーブが約70時間供給されるのはありがたい。

Cal.6R35

堅牢な自動巻きムーブメント、Cal.6R35。精度は決して高くないが、約70時間のパワーリザーブを供給する点は魅力だ。

 残念なのは、ETAやセリタ製のベースムーブメントと異なり、このムーブメントには特筆に値する微調整機構を備えていない点である。そのため緩急針もヒゲゼンマイの有効長を細かく設定するのに向いておらず、そのためか、セイコーは各姿勢の許容日差をプラス25秒〜マイナス15秒/日と、かなり広範囲に指定している。今回のテストウォッチは平均日差がマイナス4・7秒/日だったため、セイコーの基準は満たすことになるが、最大姿勢差は29秒と、標準的な許容値に比べるとかなり大きい。そのため、クロノスドイツ版編集部が行ったテストでは、精度安定性の項目では10点満点中3点を獲得するに留まった。なお、この結果はキャリバー6R35ではよく見られるものであり、今回が偶然というものではない。

 ムーブメントはステンレススティール製ケースバックでしっかりと保護されており、装飾を見ることができない。その代わり、裏蓋の中央には波のレリーフ彫りが施されている。葛飾北斎の有名な木版画「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」を彷彿とさせ、ダイバーズウォッチに使用するモチーフにはまさにうってつけである。

セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

トランスパレントではないため、Cal.6R35をケースバックから見ることはできない。代わりに「SPECIAL EDITION」の刻印と、波模様のメダリオンが配される。

ブレスレットとエクステンション

 ダイバーにとって、バックルに内蔵されたエクステンションは便利な機構である。プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン SBDC167ではエクステンションを簡単に繰り出すことができ、ブレスレットの長さを約2㎝延長できる。しかし、エンボス加工されたシートメタルで出来ており、材料が薄く簡素な仕上がりで、高級感のある全体像にそぐわない感がある。この点を除けばブレスレットは堅牢な作りで、大部分が無垢材から削り出し加工されたバックルはセーフティーキャッチとプッシュボタンを備え、頑丈な設計になっている。直径42mmというサイズは、ダイバーズウォッチとしてはコンパクトで着用感も良好である。ブレスレット、バックル、ケースのどこを見ても鋭利なエッジはなく、表面の仕上がりは滑らかだ。

セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

手首へのフィット感に優れるSBDC167。ダイバーズウォッチながら、直径42mm、厚さ12.5mmのため、ジャケットとの組み合わせでも問題なく着用できる。

 快適な操作感も好印象である。大きなねじ込み式リュウズは解除しやすく、回すのもねじ込むのも容易で、時刻と日付の設定も簡単だ。だが、日付ディスクが午後10時15分から午前0時にかけてゆっくりと進むため、日付が切り替わるのには少し時間がかかる。とは言え、日付の切り替わりは午前0時に完了するので、間違った日付が表示されることはない。

 潜水時間や任意のタイムを最長60分まで計測できるベゼルは、わずかな力で回すことができ、30秒刻みに噛み合う音も心地よい。ベゼルに配された目盛りのゼロマーカーは、針やインデックスと同様、セイコー独自の蓄光塗料、ルミブライトの恩恵で、暗所で明るく輝く。水色の文字盤からは想像できないほど、この時計の視認性は良好で、日中も時刻を容易に判読することができる。ブルーの文字盤にはそもそも風防が反射しにくいという利点があるが、サファイアクリスタル製風防の内側に施された無反射コーティングも良好な視認性に貢献している。

セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル

氷河文字盤に目を奪われがちだが、ディテールはオリジナルを再現している。特徴的なバーとドットを組み合わせたインデックスはその最たる例だ。

 16万5000円という価格は、超高額なモデルが多い腕時計の世界では適正な価格設定と言えよう。ムーブメントが比較的シンプルなことや、エクステンションの作りが簡素であるといった点を除けば、今回のテストウォッチは優れたコストパフォーマンスを提供している。精度は残念な結果だったが、氷河を想わせる魅力的な文字盤を見ていれば、今何時か知りたかったことなど、たちまち忘れてしまうことだろう。