【79点】タフガイたちの闘争

FEATUREスペックテスト
2016.06.14

ゼニス
エル・プリメロ スポーツ

point

・美しく装飾されたムーブメント
・優秀な精度

point

・躊躇しがちな価格
・ストップセコンド仕様になっていない

切り替えの瞬間を見極める
 ブライトリングのムーブメントもケース裏側から観察できる。サファイアクリスタルの裏蓋の下には黒いローターが見え、その下にコラムホイールとたくさんのレバー、そしてハートカムやクロノグラフ車が収められている。このムーブメントは古典的なコラムホイールを使用しているが、クロノグラフの切り替えはモダンな垂直クラッチ式だ。鏡面に磨かれたネジの頭や、装飾研磨も見られるが、打ち抜きパーツのレバーはやはり高級感に欠ける。しかし、パワーリザーブは約70時間と、タグ・ホイヤーとゼニスよりほぼ1日分多くエネルギーを蓄えられるようになっている。
 さて、有名なゼニスのエル・プリメロだが、こちらは現在主流の8振動(4㎐)よりハイビートの10振動(5㎐)を採用したムーブメントだ。それ故に、10分の1秒の計測に適した数少ない量産クロノグラフムーブメントとして今なお存在感を放つ。こちらもサファイアクリスタルの裏蓋を通して輪列が見られる。一部の歯車はフライング式、つまり地板側でだけ支えられている。これはローターを収めるために受けを省いたためであるが、結果、4番車からクロノグラフ中間車、秒クロノグラフ車への連結をトランスパレント化された裏側から見ることができる。エル・プリメロは、3つのテストモデルの中で唯一、動力の伝達が分かりやすい水平クラッチを採用している。コラムホイールと確実性の高い調整ネジ付きの長い緩急針は、技術的な見どころだ。装飾的な要素としては、ペルラージュや青いネジ、クロノグラフのレバーに施されたサテン仕上げが見て取れる。パーツのエッジを面取りして鏡面に磨いているのは、今回のテストモデルではゼニスのみだ。ゼニスはがっしりしたレバーと、何よりも見やすいクロノグラフ機構で、価値の高い印象を受ける。しかし、弱点があることは排除できない。このムーブメントはブライトリングとタグ・ホイヤーとは異なり、ストップセコンド仕様になっていないのだ。つまり、秒単位で正確な針合わせはできない。

 

クラシックさが漂う「エル・プリメロ スポーツ」は、 美麗なムーブメントも見どころ

 ムーブメントにとって最も重要な要素とは正確さだが、それに関してはこの中で唯一の公式クロノメーターであるブライトリングが優位だ。編集部の歩度測定機では、ブライトリングは平均日差プラス0・2秒。最大姿勢差も2秒と狭い数値にとどまった。ゼニスは平均日差プラス4・5秒、姿勢差は最大で3秒。しかし、タグ・ホイヤーは平均日差プラス7・3秒、最大姿勢差は9秒だった。喜ばしいのは、3つともクロノグラフ作動時も数値がわずかしか変わらなかったことだ。
 使用感に注目してみると、バックルについてはどのモデルも似通っている。すべてふたつのプッシュボタンとセーフティーロック付きのフォールディングバックルだ。だが、ゼニスは一度決めたブレスレットの長さを簡単には変えられないが、ブライトリングはバックルで段階的に長さを調節でき、タグ・ホイヤーはクリップ式の金具でストラップの長さを容易かつぴったりに合わせられるようになっている。
 さて、気になるのは価格だが、これには結構な違いが出た。ブライトリングは105万円、ゼニスは97万円と、おおよそ似ているが、タグ・ホイヤーは55万5000円と、明らかに差がついている。しかし、価格だけでは魅力を判断できない。ブライトリングはケースに注力して仕上げ、ゼニスはムーブメントに時間を掛けて製造し、タグ・ホイヤーはケースの複合性とダイアルのスケルトナイズを前面に打ち出し、それぞれのアピールポイントは異なっている。
 それでは結局、どれが優れたモデルなのだろうか。コストパフォーマンスだけで比べると勝者は明らかだ。だが、価格のことをとりあえず不問にするとなると、加工の良さと正確さではブライトリングがぬきんでている。しかし、やはりタグ・ホイヤーのコストパフォーマンスはセンセーショナルと言っていい。そして、採点した点数には差がついたが、ゼニスの全体のバランスの良さは一目置くべきものがある。
 目的の時計は何に秀でていて、何に引き付けられるか。各人各様のその判断には、不正解というものはないのだ。