【87点】オメガ/シーマスター アクアテラ

FEATUREスペックテスト
2016.04.03

テクニカルフリーク

 オメガが2007年に導入したキャリバー8500は、当時すでに技術的なハイライトとして紹介されていた。巧みな設計で、機能性が高く、細やかな仕上がりである上に、付加機能のモジュールを搭載することも視野に入れてある。これをもとに、さまざまな観点から新たな進路に踏み出したのだ。連動するふたつの香箱は、硬く磨耗に極めて強いダイヤモンドライクカーボンの被膜をまとい、両方向巻き上げ式のローターは新たな切り替え構造になり、加えて、セラミックベアリングが効果を発揮して、気になる作動音がなくなった。歯車の歯先の形も変わり、特製のグリースが輪列全体の磨耗を抑えている。極めて精緻に作られたオメガ独自のコーアクシャル脱進機は、当初のガンギ車を新しいものに替え、3重構造になった。テンプ受けは、テンワをがっしり受け止める両持ちのブリッジとなり、高さがある分、空間のあがきがうまく作用する。
 同時にムーブメントの表面にも、独特の仕上げが加わっている。キャリバー8500は、ローターと文字盤側のブリッジをロジウムメッキにしただけではなく、「コート・ド・ジュネーブ・アラベスク」という名の装飾研磨を施しているのだ。ブリッジ群はエッジを面取りして、そのわずかな面を鏡面に磨いている。ビスは黒く仕上げられ、テンワや香箱によく映えるようになった。そして地板はペルラージュで飾られている。
 2013年には、さらにアップグレードされた。同年に登場したシーマスター アクアテラ 15000ガウスは、可動パーツを耐磁素材で作ったのだ。テンワはチタン製、天真は、オメガ、ETA、ASULAB、ニヴァロックス‐FARで共同開発した新しい合金であるニヴァガウス製、耐震軸受けにも別の特殊素材を使用。ヒゲゼンマイに使われているシリコンや、地板、歯車、ブリッジに従来通り使われている真鍮は、もともと耐磁性素材だ。
 2014年には、同じ系統のキャリバー8400が耐磁仕様になってシーマスター 300に搭載された。続いて2015年にはシーマスター アクアテラのほとんどのバージョンに耐磁ムーブメントのキャリバー8500が装備された。このムーブメントは、正式には「オメガ マスター コーアクシャル 8500」と言い、「マスター」には耐磁仕様という意味が込められている。マスターシリーズは、最低でも1万5000ガウスもしくは1・5テスラの磁力に耐えられることが試験で確認されている。実際に、オメガが右記の最大磁力を検知できる磁気共鳴トモグラフィ装置に掛けたことは、『ウーレンマガジン』2014年第6号掲載の同誌独自のテスト記事にも記述されているが、我々クロノスドイツ版編集部では、日常生活において機械式ムーブメントに対して脅威となり得る強力な磁気をもってシミュレーションを行った。その上、オメガは昨年からマスター コーアクシャルのムーブメントを、スイス連邦計量・認定局(METAS)に測定させている。
 これらのことから分かるのは、オメガは自身の技術に真面目に向き合っており、それにより製品は日常生活での有用性を非常に高めるに至った、ということだろう。つまるところ、磁界はあらゆるところに潜み、機械式ムーブメントの規則正しい精度を脅かす第一の存在なのだ。ちなみに、我々がテスト用に借りたモデルを歩度測定機に掛けたところ、文字盤下のポジションでは、キャリバー8500系搭載モデルを取り上げた今までのテストでは見られなかったほど遅れが出ている。従って、最大姿勢差は7秒と大きくなってはいるが、平均日差はプラス1・5秒と極めて優秀なので、なんら陰りを感じることはないようだ。数週間に及ぶ着用テストでは、平均日差の数値はさらに下回り、いつもゼロからプラス1秒の間であった。これはもう、ほとんど完璧な結果と言っていいだろう。