【81点】ジン/U2.S

FEATUREスペックテスト
2015.10.03

 

 

暗闇に包まれた岩壁と水の異世界

窟というものは、技術の進歩を結集させても、危険な場所だ。探索に伴うリスクは今なお極めて高い。2014年、ドイツとオーストリアの国境に近いアルプス地方にあるベルヒテスガーデンの巨大な立坑内で研究者が負傷した際も、大掛かりな救助活動が大いに報道された。この時は救出までに11日間を要し、出動したレスキュー隊員は200人以上にも及んでいる。 我々編集部はそれを理解した上で、洞窟内でのスペックテストをあえて計画した。現場に向かう前は、その道のプロのアドバイスに従い、安全のための数多くの装備品を準備。防水ランプ付きヘルメット、耐裂性に優れた素材を使用した、シュラーツと呼ばれるオーバーオール、グローブ、それに頑丈な靴も用意した。テスト地に選んだ南ドイツ・シュヴァーベンの山岳地方にあるファルケンシュタインの洞窟内は、水の流れがあるところなので、寒さに耐え得る装備も加えた。ダイビングスーツとネオプレン製の足ひれも欠かせない。熟練の技を要するのは、サイフォンと呼ばれる場所を通過するときだ。サイフォンとは、水没した2つの洞穴が水中でつながっている状態を指す。そのため、水中ゴーグルや、重い酸素ボンベも必要だ。テストのためとあれば、手間暇を惜しむわけにはいかないのだ。 ところで、なぜテストウォッチをジンに決めたかと思う読者もいるに違いない。それは何より第一に、あらゆる腕時計の中で、より頑丈、かつ、傷に強いケースを持っているので、洞窟探査にはうってつけと踏んだからだ。狭い箇所を通らざるを得ない場合以外でも、あたり一面のごつごつした岩に接触することは頻繁にあるだろう。U2・Sのケースは、潜水艦に使われるUボートスティールに硬化処理を行い(ジンではテギメント加工と呼称)、さらに表面にはブラックハードコーティングを施してある。これらにより、ほぼサファイアクリスタルに近い硬さになっているのだ。数値で表すと、ケースに通常使われるステンレススティール316Lが、ヴィッカース硬さで220、硬化処理なしの潜水艦用Uボートスティールは最低でもヴィッカース硬さ300、硬化処理を加えたものは1500、さらに被膜を加えたものは2000だ。これはケース表面のみの硬度のため、被膜は次第に磨耗していくのだが、それでも傷に強いセラミックケースに近いレベルを持っている。しかし、十分な硬さがある上に、なぜさらにそれよりは硬度が低いハードコーティングを施す必要があるのかと、感じる読者もいるだろう。それにはもっともな理由がある。逆に比較的軟らかな素材の上に、それより硬い素材を合わせると、エッグシェル効果を誘発する危険性があるのだ。この場合、ひとたび衝撃を受けると、表面は氷のごとく崩壊し、その下の内部にもそれに追随して破壊が生じてしまう。つまり、下地であるスティールを加工して硬くしておくことは、表面の被膜を維持して長持ちさせる前提になっているわけだ。U2・Sのケース表面は、特製の無反射コーティングになっていて、ヴィッカース硬さは1800と、傷に対してまさにサファイアクリスタル級を誇る。このように、このモデルは、我々の地球内部への小旅行にふさわしい、優れた装備品であると言えるのだ。

いざ未知の世界へ

 ファルケンシュタインの洞窟の入口前には、見目よい風景が広がっている。太陽はきらめいて、川はせせらぎ、明るい森から岩壁に至る小道にはそよ風が吹いていた。そんな中で我々はダイビングスーツの上に洞窟用の赤いシュラーツを着込み、ヘルメットを着用。そして酸素ボンベを背負い込む。U2・Sにはダイビングスーツの上からも着用できるよう、バックルが延長可能な仕様になっているため、厚さ5㎜のネオプレン生地製シュラーツの上でもしっかり留められた。
 この腕時計は水と湿気に対して耐久性が極めて高い。ケースは200気圧防水だ。防水パッキンには緑色のバイトンⓇという素材を使用している。この素材は、腕時計に通常使われている黒いニトリル素材のパッキンより持ちがよく、充塡ガスが通常の4分の1で済み、湿気の内部への侵入を防ぐ効果が高い。多くの薬品への耐久性にも優れている。それに加えて力を発揮するのが、ジンのArドライテクノロジーだ。ケース内部はプロテクトガスで満たされ、湿気が侵入しづらくなっている。それでもすり抜けた湿気に対処するのが、硫酸銅を封入したドライカプセルだ。腕時計にこれほどの装備がされている甲斐はあった。なぜなら今回のテストは気候の穏やかな春に実施したのだが、シュヴァーベンの山岳地方の暖かい空気に晒された後に洞窟に入り、水温9℃の環境の中で過ごしても、風防内側に曇りは見られなかった。
 今回のテストを実施するに当たり、洞窟に入って6時間経過しても我々から外部へ連絡がない場合は、救助を要請するよう依頼しておく手配も怠らなかった。というのも洞窟内には電波が届かず、携帯電話や無線機は使えないからだ。つまり、外の世界とは完全に隔絶した状態になる。例えば、もし岩壁から岩石が落下して道を塞ごうものなら、帰路は閉ざされてしまい、探索のタイムスケジュールをあらかじめ知らせておいた外部からの救助を待つほかはなくなってしまう。
 ファルケンシュタイン洞窟の入口あたりから大きなエルザッハ川が流れていて、内部への探索はそれを辿って行くかたちになる。ここで特殊な組み込みで容易に外れないU2・Sのベゼルを分針の指している位置に合わせ、洞窟内の滞在時間が分かるようにセットする。セッティングはスムーズに行えた。また、日付修正もクイックコレクトで簡単、セカンドタイムゾーンの設定も、針が1時間ずつ動いて回るため容易にできる。メインの長短針も、ストップセコンド仕様のため、素早い時刻合わせが可能だ。