MEMBERS SALON

ヴァシュロン・コンスタンタン/パトリモニー・トラディショナル・14デイズ・トゥールビヨン(1/1) 2015年05月号(No.58)

VACHERON CONSTANTIN Patrimony Traditionnelle Tourbillon 14 Days

文字盤に開いた穴からテンプの回転を目で追えるという、視覚的な分かりやすさを備えたトゥールビヨン。
そのエレガントな姿に、かつてない強力なパワーが導入された。
時計技法の粋を集めた細密世界に、しばし想像の翼を広げて酔いしれてみよう。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

 
point
・クラシックかつ時代の流れで色あせないデザイン
・カルト性のある独特なデザイン
・非常に長めのパワーリザーブ 

魅惑の細密ワールドへようこそ

計の世界では、仕上げに華麗な技法が数多く見受けられる。なかでも息を飲む情景に遭遇するのは、ムーブメントに施された面取りだろう。その佇まいたるや、まるでノミがショーを行う舞台のごとき細やかさ。そしてその奥は、壮麗な調度品や絵画などを設えた広間が連なる、豪華絢爛なミニチュア宮殿かのようだ。

ヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル・14デイズ・トゥールビヨンは、まさにそういった趣を備えている。その微細な世界に引き込まれると、己が身も小さくなって、コート・ド・ジュネーブが施されたブリッジの上をゆっくり散策してみたくなるだろう。極小の身の丈では、鏡面に磨かれたネジ頭や、金文字で彫り込まれたエングレービングも、間近に見ると驚くに違いない。かの誉れ高きジュネーブ・シールのそばでは、しばし感慨にふけることだろう。ブリッジの端まで歩くと、手仕上げで面取りされたエッジに足を滑らせたり、サンバーストに装飾された香箱の上をぶらついてみたりもするかもしれない。手で丸みを付けたトゥールビヨンブリッジの上を、丸太の橋の上のようにバランスを取りながら歩いて、回転木馬のように回る様を眺めつつ、キャリッジのマルタ十字の上をぴょんと飛び越える気分たるや、いかばかりか。その下の心臓部にあるチラネジ付きテンワをのぞき込む時、刻音はきっと相当な音量のはずだ。差してあるオイルの匂いも漂ってくるかもしれない。ワンミニッツトゥールビヨン周辺の冒険を堪能したら、次はシルバーに輝く文字盤の上によじ登ってみるのも一興だ。レイルウェイトラックに沿って歩き、面取りされたアプライドインデックスを倒木に見立てて越え、金のドーフィンハンドが通る時は身をかがめて北を目指す。12時位置までたどり着いたらようやくゴールだ。対岸の南側のトラックから聞こえるであろう歓声を意識して目をやったりしても、残念ながら観客は誰もいないが、はるか遠くを見つめて、ようやく時分針が若干オフセンターに据えられていることに気づかされるだろう。
その後は、文字盤の下に入り、ペルラージュで飾られた大きなブリッジの上を歩き、パワーリザーブインジケーターのスネイルの所でくつろぐのはどうだろう。のんびりと疲れを癒すうちに、我知らず時は流れ、パワーリザーブ針が追い立てるように終点を知らせ、14日も経ったのかと気づくことになるのかもしれない。

センターをごくわずかに上へずらし、穏やかにアシンメトリーの妙味を体現。時代を超えた気品の良さが漂う。

金属から革のエリアへ

次なる大冒険は、金属から革のエリアに突入するというのもありだろう。アリゲーターストラップに場を移すと、そこは丘陵地帯かのようだ。斑を成す筋目に沿って歩いて行くと、等間隔に穴が穿たれ、手縫いの糸がまるでザイル並みに太く感じられるだろう。ストラップの端ギリギリの所まで行って、ちょっと勇気を出して足を踏ん張れば、ラッカー処理が施された縁も一瞬のぞけるだろう。しばらく歩くと、鏡面に磨かれたゴールドのフォールディングバックルを飾るマルタ十字の一部が見えてくる。そこを通って、もう一方のストラップへ行く時、ストラップの裏革に視線を移すと、表革とは違う光景が広がるのを確認できる。丸斑が並ぶ様は、まるで飛んで渡れるような大きめの石が隙間なく敷き詰められた川底が干上がっているかのようだ。それに感嘆しているうちに、下方に佇むゴールドの地面に気づく。側面には筋目が入り、中心に向かってやや隆起している縁は、サファイアクリスタルを囲む。あたかも火山の火口を間近にしているような迫力だ。その際に立つと、ムーブメントをほぼシンメトリーに分割したブリッジが判別でき、そのさらに下にはテンワとトゥールビヨンキャリッジが、リズミカルに動いている様子を目撃するだろう。
この辺りでため息を深呼吸へと変えて、大きく体を伸ばし、現実の大きさで時計を眺めてみよう。手にするこのトラディショナル・14デイズ・トゥールビヨンは、手巻きの腕時計だ。ロングパワーリザーブを誇るこのモデルは、駆動開始から14日が経って静まり返る前に、動き続けるのに十分なだけの多大なパワーを再び得ることもできる。途中でリュウズを巻き上げて、作動が停止しない状態を維持すればいいのだ。その際、力を要するようなことはない。リュウズは極めてなめらかに回すことができる。興味深いことに、トラディショナルは外部からの検査を受けている。というのも、2012年から新基準になったジュネーブ・シールの要項を満たしているのだ。新たな基準では、ムーブメントとともに、時計の総合的な仕上がりも考慮される。防水性や、各箇所の操作性、ならびにパワーリザーブや精度もテスト対象だ。検査担当者は、組み立てや調整、ムーブメントのケーシングも本当にジュネーブで行われたものか、常に抜き打ちで調査している。矛盾点がなく、事実に相違なしと認められると、ムーブメントだけではなく、ケースの裏側にもジュネーブ・シールが刻印されるのだ。
ちなみに、本来トゥールビヨンとは、重力が与えるテンプへの影響を平均化することによって精度の向上を目指した、アブラアン︲ルイ・ブレゲが発明し、1801年に特許を取得したものだ。テンプと脱進機はキャリッジで囲まれ、キャリッジごと1分間に1回転させることで、テンプにかかる重力が全方位で均等になるように出来ている。しかし、これは時計が吊り下げられたような垂直の状態では有効だが、平置き状態(文字盤または裏蓋のいずれかが上面になっている状態)では、通常の回転軸がひとつのトゥールビヨンについては、著しい精度の向上は見られない。
我々編集部は、今回のテストではいささか緊張しつつテストウォッチを歩度測定機に掛けた。このモデルのパワーリザーブは、挑発的にも約14日間と極めて長い。これだけ長いタイムスパンでは、駆動に十分なだけの一定のトルクを、たったひとつの香箱で維持するのはまず不可能に近いはずだ。そこでヴァシュロン・コンスタンタンは、動力源を4つの香箱に分散させ、安定した駆動に耐え得るだけのパワーを持たせるよう装備させた。その主ゼンマイの長さは、合計で2・2mにも及ぶ。

特筆すべき持久力

ワンミニッツトゥールビヨンを歩度測定機に掛ける場合、各姿勢とも最低1分間計測するか、ひと姿勢を数回テストする必要があることを考慮しなくてはならない。というのも、重力の均等化による効果はそうしなければ確認できないからだ。それで今回は、各姿勢とも5分間計測することにした。
主ゼンマイがフルに巻き上がった直後においては、垂直姿勢の歩度は期待した通りかなり良い。平置きの水平姿勢では、テンワにかかるトルクが幾分高めに表れているようで、振り角が大き過ぎるくらいだ。手巻き時計にとって重要なチェックポイントである、巻き上げから12時間後も数値は良好。姿勢差は最大で5秒、平均日差はプラス2秒だった。7日後も同じく優秀な歩度が保たれた。垂直姿勢での最大姿勢差は1秒を示した。13日後になって、ようやくパワーはやや衰えを見せ、姿勢差が開いて来ている。それでも平均日差はプラス2秒と、なおも小さい数値にとどまった。これらのことから、このトゥールビヨンのメカニズムは、幾分のパワフルさを要しているのは明白だろう。駆動開始時でも停止間際でも、水平姿勢と垂直姿勢との振り角の差は約60度と、通常の腕時計に比べて2倍ほどの開きがある。さらに印象深いのは、14日巻きというロングパワーリザーブモデルでも優良な精度を出すことへの道筋を付けたことだ。
しかし、これらの結果のように胸が熱くなるとは残念ながら言い難いのは価格だ。ピンクゴールドケースのモデルは2850万円である。手頃なテラスハウスでも購入し得る値段だと思うと、やはり誰しもあれこれ考えてしまうだろう。確かに、他の多くのトゥールビヨンと比べて、このモデルは値が張っている。だが、これほどのロングパワーリザーブを備えたものはほとんどないのも事実だ。
時計への投資はよく考えて決断したいところ。だが、その幾多の煩悶を乗り越えた者には、かくも麗しい細密世界との甘美な時が待っているのだ。

コンプリケーションウォッチの中でもとりわけ魅惑的なのが、時計技法の華とも言うべきトゥールビヨン。時計師たちの息吹が目に見えて伝わる愉しさがある。

技術仕様
ヴァシュロン・コンスタンタン/パトリモニー・トラディショナル・14デイズ・トゥールビヨン

製造者: ヴァシュロン・コンスタンタン
Ref.: Ref.89000/000R-9655
機能: 時、分、秒(トゥールビヨン上にスモールセコンド)、パワーリザーブインジケーター、トゥールビヨン
ムーブメント: Cal.2260、手巻き、1万8000振動/時、31石、チラネジ付きテンワ、ジュネーブ・シール付き、4つの香箱、パワーリザーブ約336時間(約14日間)、直径29.10㎜、厚さ6.80㎜
ケース: 18Kピンクゴールド(5N)製ケース、わずかに膨らみを持たせたサファイアクリスタル製風防、サファイアクリスタル製トランスパレントバック、3気圧防水
ブレスレットとクラスプ: ミシシッピアリゲーター製ストラップ、18Kピンクゴールド(5N)製ダブルフォールディングバックル
サイズ: 直径42.00㎜、厚さ12.22㎜、総重量353.71g
バリエーション: プラチナ製ケース(3300万円)、スケルトンムーブメント搭載プラチナ製ケース(3700万円)
価格: 2850万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

 

精度安定試験 (秒/24時間、振り角)

  巻き上げ直後  /12時間後  /7日後  /13日後に計測
文字盤上  +3  +5  +6   +14 
文字盤下  -1  0   +2   +11 
3時上  +1  +2   +2   -5 
3時下  0  +2   +1   -1 
3時左  0  +1   +1   -3 
3時右  0  +2   +2   -4 
最大姿勢差:  4  5   5   19 
平均日差:  +0.5  +2   +2.3   +2 
平均振り角:        
水平姿勢  339°  336°  327°  245°
垂直姿勢  280°  272°  267°  182°


 

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 19pt.
精度安定性(10pt.)  8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 10pt.
合計 86pt.

>>ヴァシュロン・コンスタンタンのモデル一覧はこちら

前の記事

パネライ/ルミノール マリーナ エイトデイズ アッチャイオ-44mm

次の記事

ロレックス/チェリーニ タイム

おすすめ記事

pick up MODEL

正規時計販売店

正規時計販売店

高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!

時計ランキング

時計ランキング

その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。

スペックテスト

スペックテスト

クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!

基礎からの時計用語辞典

基礎からの時計用語辞典

時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。

PAGE TOP