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パネライ/ルミノール マリーナ エイトデイズ アッチャイオ-44mm(1/1) 2015年03月号(No.57)

PANERAI Luminor Marina 8 Days Acciaio-44mm

このところ、目覚しいまでの急進ぶりを見せるのがパネライのマニュファクチュールラインだ。新たな基幹モデルは、メカの魅力もクォリティの高さも上々。8日巻きをもって、パネライらしさとは何かと力強く語りかけてくる。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
パネライ: 写真 Photographs by PANERAI
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

 
point
・自社製の8日巻きムーブメントを搭載
・カルト性のある独特なデザイン
・安定性のある精度

point
・パワーリザーブインジケーターがない
・ストップセコンド仕様になっていない

センターに位置する実力

8日巻き腕時計のメリットとは何だろう? すぐに思い付くのは、休暇で1週間出掛ける時などに、出先で時計を外して置きっぱなしにしている間、針合わせをしなくても済むことだ。あるいは毎日連用しても、週に一度、決まった曜日にリュウズを巻きさえすればよい。その時計が自動巻きなら、定期的な巻き上げすら、まず必要ないだろう。そして、パワーリザーブインジケーターが付いているなら、時々チェックして必要に応じて主ゼンマイ巻き上げ、新たにエネルギーを送り込めば万全だ。

しかし、今回取り上げるパネライのルミノール マリーナ エイトデイズ アッチャイオ-44㎜は自動巻きではなく、パワーリザーブインジケーターも付いていない。ちなみに、パネライでは2014年以来、イタリア語で鋼鉄を意味する〝アッチャイオ〟という言葉をすべてのステンレススティールモデルの名の末尾に添えている。自社開発をコンセプトとしたコレクションの新たな基幹として据えるべく登場したこのモデルは、秒単位までの時間をがっちり捉えるためのものではない。言うなれば、あらかじめフルに巻き上げておきさえすれば、オン/オフを問わず、1週間に及ぶ期間でも停止せずに動いていることを第一義にしたものなのだ。しかし、難点はなくもない。腕時計を複数所有するユーザーは、よく着け替えて使用するのが常だろう。このモデルが時計を収納したボックスで出番待ちをしょっちゅうするようなら、いざ出番という時、8日巻きのパワーリザーブのうち、すでに何日分が消耗しているかが不明という事態もあるのだ。
このモデルは、日付表示も秒針さえもなく、1分単位のインデックスも備えておらず、静けさが漂っている。収納場所から取り出して着用する時、5分おきのインデックスだけを頼りに、電波時計などを利用して現在時刻に一番近いインデックスに針を置いて待ちつつ、時間合わせをしっかりやり遂げるには、やはり落ち着きが必要だろう。もっとも、ストップセコンド仕様にはなっていないので、待つ間にも分針は進んでしまう。そのため、合わせたい時刻の少し手前に針を置いて微調整しなくてはならない。いずれにせよ、新たに設計されたムーブメントならば、より正確な時刻合わせのためにも、やはりストップセコンド機構はあらまほしき装備だ。

2枚仕立ての文字盤の上には2本の針のみ。必要最低限にまで表示は削ぎ落とされている。

おおむね称賛すべき出来

つまり、批判のポイントをまとめると、ロングパワーリザーブにもかかわらず、パワーリザーブインジケーターが装備されていない点とストップセコンド仕様になっていない点に絞られる。せっかくの8日巻きモデルといえども、これには少なくともパネライ愛好家は躊躇するかもしれない。しかしそれ以外の点では、このモデルの魅力は輝かんばかりだ。手間の掛かった設計や加工技術の高さ、優れた視認性と操作性、そして着け心地のよさ、さらに、ものに見合った価格と、かなりの好印象だ(詳細は評価欄を参照)。今回、テスト用に借りた時計はプロトタイプだったのだが、それでもその良さが存分に味わえた。これらの長所を考慮すると、パネライが強く押し出したいのは、実用に際して、秒やパワーリザーブの表示というものは、なにがなんでも必要というわけではないということなのだろう。
カルト的とも言えるパネライのデザインは、技術とクォリティの高さと同様にブランドの成功に大いに貢献した要素だが、それには引き算の美がものを言っているところが大きい。ルミノール マリーナ エイトデイズ アッチャイオの表情は、2針の時計として完璧なまでにシンプルだ。とはいえ、筋金入りのパネライ愛好家には、このケースのフォルムには物足りなさを感じるかもしれない。現行のルミノールのケースは、歴史的な1950年代のルミノールケースをシンプルに仕立て直した1993年のデザインに基づいているが、原型デザインはルミノール 1950に今も踏襲されている。弧を描いたサイドが印象的なクッション型に、段差をどんと出したベゼル、そして、そこにはまっているのは高く盛り上がった風防である。
ルミノール 1950と他のルミノールモデルのデザインの違いは、着用上は感じないが、サイドを見ると区別がつく。ルミノール 1950はリュウズガードに「REG.T.M.」とエングレービングが入っているが、他のルミノールモデルには入っていない。

左:直線的なサイドの形状と控えめなベゼルの初代ルミノールに比べて、ケースは全体的にメリハリのある仕上がり。
右:つややかに磨かれた尾錠は、しっかりネジ留めされ、横幅も堂々たるもの。パネライではおなじみの頑健なスタイルだ。

良質なムーブメント

搭載されている手巻きキャリバーP.5000は、2013年にパネライがリシュモンのムーブメント開発集団であるヴァルフルリエとともに成し遂げた、まさに良品と言うべきものだ。機能はシンプルながら駆動性に優れ、価格を比較的低めの74万円に抑えることができている。自動巻きに仕立てず、ストップセコンドやパワーリザーブインジケーターも設けていないのは、シンプルこの上ない。仕事の質の高さは、構築における仕上がりの良さが、そこかしこに見られることからも分かる。テンプ受けは、よくある片持ちではなく両持ち。テンプ受けの両端に据えられたふたつのネジが上からしっかりと押さえつけているため、調速機が衝撃を受けても天真の位置は適度に調整される。テンワは温度変化に強いグリュシデュール製。4つのバランスウェイトスクリューが微調整を受け持つフリースプラング式である。
数を抑えつつ堂々たる寸法で作られた部品は、基礎構造のしっかりしたこのムーブメントにふさわしい。がっしりとしたスポーティーなムーブメントの大きさは、普段使いの時計として、見るからに頼もしさを感じる。キャリバーP.5000の部品総数は127個。うち、21個はルビーが占める。厚さは4・5㎜、どこから見ても華奢さはない。ビジュアル的には特上品の風格はないが、みっしりと身の詰まったムーブメントのほとんどを覆うようなブリッジに、頑強さを重視するパネライらしさが表れている。

パネライらしさはムーブメントの仕上げにも見て取れる。ブリッジの表面は細やかなサテンで装飾され、彫り込まれた文字には青い塗料が流し込まれている。鏡面に磨かれたネジ頭と穴石の周囲はダイヤモンドカットで面取りされ、ブリッジのエッジも同様に面取りされている。面取りのわずかな表面は、磨かれてさえいるかのように見えるのだが、ルーペを通して見ると、細かいフライス作業の跡が分かるだろう。
こうした工業的な雰囲気を残す装飾加工は、現行のパネライムーブメントのすべてに共通しており、実用時計としてのブランドコンセプトにも合致していると言えよう。しかしながら外観上の短所はある。直径35・7㎜のムーブメントの大きさに対して、テンワが小さ過ぎるのではないだろうか。この特徴は、P.2000系のムーブメント(手巻きおよび自動巻き)にも共通している。一方、P.2000系より新しい手巻きキャリバーP.999とP.3000のテンワは明らかに大きい。その中間のサイズが、自動巻きのキャリバーP.9000系だろう。

香箱はふたつ、テンプ受けは高さを持たせ、そして、テンプはフリースプラング(左はブリッジを外した状態)。さまざまなものを排除した文字盤とは対照的に、その下では多くの手間と工夫がマニュファクチュールムーブメントに加えられている。

日を追うごとに分かる

実力新型キャリバーP.5000の特筆すべき点は、ふたつ隣り合わせに置かれてつながっている香箱だ。これはパワーリザーブが長いだけではなく、精度の安定化の役割も果たしている。香箱に接している輪列の歯車が回っている間、接していない側の香箱の中の主ゼンマイは張りつめた状態が続き、理論上、一定の間はエネルギーの消耗がコンスタントに進むようになっているのだ。
この理論は、歩度測定機でも確認できた。計測の前半では振り角は緩めで、日差は開き気味だった。 前半と言っても、4日目ではなく5日目にデータを取ったのは、8日巻きとは言うものの、実際には約10日は動くからだ。今回のテストは3回行ったが、そのうちの2回は9日と約17時間で時計は停止し、残りの1回は10日と11時間まで動いた。
パネライがパワーリザーブを8日としたのは、なるべく安定した走行ができる日数を提示するためなのだろう。その機能は今回のテストで模範的に示された。歩度測定機に掛けた結果、12時間後の平均日差は完璧にもプラス1秒、各姿勢の値は2日後、3日後、4日後でも同じという、驚くべき正確さを見せていたのだ(ただし、最大姿勢差が8秒と大きかったので、精度安定性の評価は10ポイント満点中、7ポイントとした)。
すでに予想していた通り、5日後に振り角は特記すべき値にまで落ちたが、平均日差はプラス2・8秒にとどまった(精度安定試験欄参照)。7日後の平均日差はプラス4・5秒と、やはり小さい数値に収まっている。もっとも、振り角は垂直姿勢でぎりぎり200度を超えるところまで落ちてしまった。
着用テストでは、文字盤のインデックスの間隔が広い中での目視ではあるが、8日後におよそ1分の進みが見られた。そこから計算すると、夜中は毎日〝文字盤上〟の状態がキープされた条件で、1日あたり平均8秒ほどの進みがあったことが分かる。〝文字盤上〟は、歩度測定機でも一番数値が大きく出たポジションだ。

あえて8日としたのはなぜか

総括すると、このムーブメントは謳われているだけのパワーリザーブと完璧に合致する。8日後の振り角落ちは目立つものだったが、うれしいことにまだまだ動き続けた。パネライが10日巻きと打ち出さなかったのを不思議に思ってもいいくらいだろう。しかし、今回のテストでの走行持続は、あくまでも一例に過ぎないことは認識すべきだ。
しかし、ここで締めくくるにはまだ早い。ほかに言及すべき点はもうないだろうか? 最後に付け加えたいのは史実だ。8日巻きはパネライでは歴史的な栄光をもって展開されてきた。1950年代初期に登場した最初のルミノールモデルは、すでに同じだけの走行持続力を見せていたのだ。だが、当時の中身はアンジェリュスのキャリバー240。手巻きとしては、パワーリザーブインジケーター付きという以外は、特に珍しいものではない。
シンプルという表現における質の良さ、そしてカルト的なポテンシャル。これこそが、パネライの8日巻きの伝統的な魅力なのだ。

44㎜サイズのケースには、直径35.7㎜のムーブメントを格納。トランスパレント化された裏蓋から見えるブリッジの大きさは、マッシブそのもの。

技術仕様
パネライ/ルミノール マリーナ エイトデイズ アッチャイオ-44mm

製造者: オフィチーネ パネライ
Ref.: Ref.PAM00560
機能: 時、分
ムーブメント: 自社製Cal.P.5000、手巻き、2万1600振動/時、21石、耐震軸受け(キフ・パレショック使用)、グリュシデュール製テンワ(4カ所にバランスウェイトスクリュー付き)、フリースプラング仕様、パワーリザーブ約8日間、直径35.7㎜、厚さ4.5㎜
ケース: ステンレススティール製、ドーム型サファイアクリスタル製風防(内面無反射加工)、トランスパレントバック、3気圧防水
ブレスレットとクラスプ: オールド仕上げのカーフ製ストラップ、ステンレススティール製尾錠(付属品:プレーンタイプのカーフストラップおよびストラップ交換用工具)
サイズ: 直径44㎜、厚さ13.7㎜、総重量124g
  ホワイトダイアルバージョン(PAM00561)74万円、チタンケースバージョン(PAM00562)79万
価格: 74万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

 

精度安定試験 (秒/24時間、振り角)

   12時間後  /3日後  /5日後  /7日後に計測
文字盤上  +5  +4  +5   +7 
文字盤下  +2  +2   +6   +7 
3時上  +3  +3   +5   +6 
3時下  -3  -3   -4   +1 
3時左  -1  -1   +2   +3 
3時右  0  0   +3   +3 
最大姿勢差:  8  7   10   6 
平均日差:  +1  +0.8   +2.8   +4.5 
平均振り角:        
水平姿勢  290°  286°  263°  235°
垂直姿勢  257°  247°  228°  205°


 

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.)  7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 82pt.

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