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ジン/EZM10.TESTAF(1/1) 2014年07月号(No.53)

Sinn EZM10.TESTAF

子供時代に空を飛ぶ夢を見たことのない者はいないだろう。ジンのEZM10.TESTAFを身に着ければ、この夢が現実となる。パイロットウォッチ標準規格に基づくテストで認定されたクロノグラフが現実世界でも機能するか、検証を試みる。

ユリア・クナウト: 文 Text by JULIA KNAUT
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto


point
・堅固なケース
・暗所での視認性に優れる

point
・バックルの作りが簡素
・高額
 

パイロットとともに

僚から送られたメールを急いで読み、すぐに電車に乗り込む。1時間後には、ニューヨークに住む友人とスカイプの約束があるのだ。スマートフォンのディスプレイをひと目見て、それまでにどのくらい時間があるかを確認する……。日増しにデジタル化が進む我々の世界では、機械式腕時計は愛好家の遊び道具として、時代錯誤的な遺物と見なされているようにさえ思われる。だが、時計産業における売上高が増加の一途をたどっている現実を見れば、実際にはそうではないことがよく分かる。

テンプ、脱進機、香箱を備えた時計を所有することは、ステータスシンボルや美しいデザインを手に入れることだけが理由ではない。ジンのEZM10・TESTAFは、飛行機やヘリコプターのコックピットで機械式時計も緊急時の予備計器として、十分に機能することを証明するモデルなのだ。
EZM10・TESTAFは、アーヘン応用科学大学の協力を受けて、2008年に誕生したモデルである。TeStaFとは、「パイロットウォッチ標準規格」(原語:Technische Standard für Fliegeruhren)の略語である。「パイロットウォッチ標準規格」とは、民間機の飛行において腕時計が満たすべき諸条件を規定した、ダイバーズウォッチの規格のようなものである。TeStaFに基づくテストでは、機能性、外部応力に対する耐久性、安全性と適合性の、それぞれの分野で審査が行われる。TeStaFの審査で認定されれば、航空機に装備された各種計器が故障し、計器飛行が不可能になった場合、手動操縦に必要なすべての計時をこの時計で行えることが保証される。ジンの既存モデルとしてすでに供給されていたEZM10は、TeStaF認定書が交付された最初のモデルのひとつである。それを示すのが、文字盤の7時と8時の間に配されたグレーの小さなTeStaFマークである。EZM10・TESTAFとなったことでジンが変更しなければならなかった要素はわずかである。センター配置のクロノグラフ分針に蓄光塗料を加え、クロノグラフ秒針の発光面を拡大した点である。

扱いやすいベゼルと幅の広いプッシュボタンを操作するのは、パイロットでなくても楽しい作業である。

照明弾

EZM10・TESTAFは、サンドブラスト仕上げのシンプルなチタン製ケース、蓄光塗料をふんだんに使用した黒文字盤など、現代の流行に合った意匠を備えており、その様式美は明確かつ機能的である。だが、縦長のクロノグラフボタンがケース外側のフォルムに沿った形に成形され、フラットなベゼルがケース内側のラインに合わせたサイズであることから、この時計が、単にデザインの上で洗練されているだけではなく、TeStaFで規定された諸条件を満たしていることが分かる。ケースのフォルムや操作をつかさどる部品は、パイロットの装備品やコックピット内の計器に引っかかるのを防ぐため、突起や出っ張りがなるべくないように設計されている必要があるのだ。審美的要素よりも機能性を優先する考え方は、文字盤のデザインにも反映されており、3時位置の24時間表示で午前か午後かを確認でき、6時位置にあるオレンジ色のサブダイアルでは計測時間の情報を得ることができるなど、TeStaFで求められる諸条件を満たす構成となっている。計測された分と秒は、センターに配されたオレンジ色の2本の針で表示される。クロノグラフ分針には飛行機をかたどった矢印が付いており、時刻表示用のセンター分針と区別しやすい。
EZM10・TESTAFからは、航空計器の製造時に求められる配慮と精密さをもって、ジンがこのパイロットウォッチを作り上げたことがうかがえる。ケースは、ジンが独自に開発したテギメント技術で焼き入れされ、表面を硬化させることで、傷に極めて強い仕上がりとなっている。特殊結合方式によりケースに固定され、両方向に回転する噛み合いの重厚なカウントダウン式パイロットベゼルで設定を行うのは、特に楽しい作業である。ねじ込み式リュウズも扱いやすく、一番外側まで引き出したポジションでも巻き真は安定し、操作上、不安材料はまったくない。

TeStaFの審査において特に重視されるのは視認性である。日中でも暗所でも、また、視界がいかなる条件であっても、コックピット内では常に良好な視認性が確保されていなければならないからだ。こうした理由から、TeStaFの認定を受けるためには文字盤に赤を使ってはならないことになっている。赤は、照明下でも自然光下でも目視できる色ではないからである。そのため、ジンのクロノグラフが備えるコントラストに富んだ文字盤には、数多くの白い夜光マーカーとオレンジ色の表示要素が使用されている。また、EZM10・TESTAFでは、パイロットが望みさえすれば、計測時間を4分の1秒まで正確に読み取ることができる。特に、カウントダウン式パイロットベゼルで分の目盛りが全周にわたって途切れることなく配されているのは、ユーザーにとってうれしい配慮である。パイロットベゼルのマーカーやインデックスにはもちろん、蓄光塗料が塗布されている。EZM10 TESTAFは、インデックスが大きくデザインされていることから、暗所でも十分に強く発光する。だが、緊急事態に備えた予備計器としてこのクロノグラフに頼る必要のないユーザーにとっては、素早く時刻を読み取りたい場合に数多くの表示要素がやや障害になるかもしれない。
この時計が実際にミッションタイマーとして使用される場合は、パイロットがグローブをしたままでも各種の操作を行える必要がある。そのため、ジンはEZM10・TESTAFに扱いやすいベゼルと刻み目の深い大きなリュウズを装備した。日常使いで唯一、気になる小さな欠点は、日付早送り調整機能が装備されていない点である。
ベゼルやリュウズよりも、その扱いにおいてやや繊細な指先の感覚が求められるのは、精巧に作られたインテグレーションカウレザーストラップである。ストラップは、簡素な作りのチタン製尾錠と、同じく簡素な仕上がりのツク棒によって手首に固定される。インテグレーションカウレザーストラップは、約20・4㎏の力で引っ張っても切れずに持ちこたえるという、ストラップに求められるTeStaFの規準を満たしている。それに対して、バックルの加工品質がほかの構成部品よりもやや劣るのは残念である。

簡素な尾錠は美しいインテグレーションカウレザーストラップとやや不釣り合いである。

隠れた品質

だが、装着感が簡素な作りのバックルに阻害されることはなく、クッション性のあるインテグレーションカウレザーストラップと丸みを帯びたラグの恩恵により、EZM10・TESTAFは心地よく手首に収まる。唯一、ケースから少し突き出たリュウズが、ポジションによっては手首を圧迫することがあるかもしれない。EZM10・TESTAFは、コックピットでの使用にふさわしい外観を備えているばかりではない。ジンが独自に改良を加えたETA7750を搭載することで、このパイロットウォッチは強く、信頼性の高いエンジンを獲得することとなった。その上、ムーブメントはいくつかの模様彫りと青焼きのネジで飾られている。定評のあるクロノグラフムーブメント、ETA7750において、ジンはクロノグラフ分針をセンター配置に変更し、ディアパル・テクノロジーによって開発したオイルフリーの脱進機構を追加した。

精度はどうだろうか。クロノグラフ停止時の平均日差はプラス5・2秒/日、最大姿勢差は8秒と、残念ながら精度の点では平均的なレベルだった。クロノグラフを作動させた時のほうが、良好な結果を見せてくれた。
このムーブメントはテギメント加工を施したチタン製ケースをまとうことで、さらなる真価を発揮する。決して派手な特徴ではないが、TeStaFの審査がヘリコプターや飛行機のコックピット内で発生しうるさまざまな負荷を考慮した構成になっているため、EZM10・TESTAFには周辺圧力、温度変化、衝撃、航空機用燃料等の液体に対する耐性テストが行われている。飛行機の操縦桿を握る必要のない一般ユーザーにとっては、こうした性能よりも防水性や耐磁性、振動や加速への耐性のほうに関心があるだろう。日常生活では時計が航空機のコックピット内のように強い負荷にさらされることはないが、テニスをしても、コンピュータを使用しても、電動ドリルで作業しても、時計に問題が生じないことを知っているのは悪いことではない。
パイロットウォッチのファンやメカ好きの愛好家にとっては、82万円は決して高額すぎる価格ではないだろう。この価格を支払えば、ジンのテクノロジーが満載されたクロノグラフと、その機能的なデザインを堪能することができるのだ。また、飛行機のコックピット内で予備計器として使用できることを証明するTeStaF認定書が付与されているのも、さらなる安心材料となる。旧EZM10との価格差は約2万円である。EZM10のスタンダードモデルはもう供給されていないので、購入希望者はより高額な新型モデルを買うしかない。だが、子供の頃から空を飛ぶ夢を見続けてきて、それなりの出費もいとわないユーザーなら、ジンのEZM10・TESTAFを手首に着けることで、雲に一歩近づいた気分を味わえるかもしれない。

 堅固なチタン製ケースの内部では、ジンが改良を加えたETA7750が時を刻む。

技術仕様
ジン/EZM10.TESTAF

製造者: ジン特殊時計会社
Ref.: Model1 EZM10.TESTAF
機能: 時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)、センター配置の60分積算計を備えたクロノグラフ、日付表示、24時間表示
ムーブメント: ETA7750(「Top」ランク)ベース、ディアパル・テクノロジーによるオイルフリーの脱進機構、自動巻き、2万8800振動/時、34石、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、エタクロン式緩急調整装置、パワーリザーブ約46時間、直径30㎜、厚さ7.9㎜
ケース: テギメント加工を施したチタン製、ドーム型サファイアクリスタル(両面無反射コーティング)、カウントダウン式パイロットベゼル(両方向回転式)、ねじ込み式リュウズ、Arドライテクノロジー、-45℃~+80℃までの温度での精度保証、チタン製ねじ込み式ケースバック、負圧耐性、20気圧防水
ストラップとバックル: インテグレーションカウレザーストラップ、チタン製尾錠
サイズ: 直径46.5㎜、厚さ15.6㎜、重量111g
バリエーション: シリコン製ストラップまたはチタン製ブレスレットおよびフォールディングバックル (各87万4000円)
価格: 82万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時         / クロノグラフ作動時
文字盤上 +6  +4
文字盤下 +8  +7
3時上 +4  +5
3時下 +6  +6
3時左 +7  +5
3時右 0  +1
最大姿勢差: 8  6
平均日差: +5.2  +4.7
平均振り角:    
水平姿勢 326° 304°
垂直姿勢 262° 243°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 7pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 10pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 14pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 82pt.

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