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ロンジン/ロンジン アビゲーション オーバーサイズ クラウン シングルプッシュピース クロノグラフ(1/1) 2014年05月号(No.52)

LONGINES AVIGATION OVERSIZE CROWN SINGLE PUSH-PIECE CHRONOGRAPH

大きな玉ねぎ型のリュウズと黒地に白の実直な文字盤。眺めているだけで、飛行黎明時代のスピリットを感じるのが、古き良きパイロットウォッチだ。レトロでオーソドックスな雰囲気を保ちつつ、個性と利便性はどのように表現されるのか。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・美しくまとめたレトロデザイン
・良質のコラムホイール搭載ムーブメント
・装着感に優れる

point
・ベゼルが緩めで不用意に動きがち
・暗がりでは時針と分針が紛らわしい

空の風を地上で感じて

かに想いを馳せるという行為には、ロマンティックな楽しみがある。30年代の航空黎明期を思い浮かべてみよう。パイオニアの飛行士が、吹きさらしのコックピットに収まっている。風はもろに顔に当たり、メーターパネルに計器類はわずかしか見当たらない。航行をナビゲートする数少ない機器のひとつが腕時計だ。プロペラの爆音の中で腕に目をやる気分は、いかばかりであろうか。数々のパイロットウォッチでも老舗の実力を提示し続けているロンジンから発表された、ロンジン アビゲーション オーバーサイズ クラウン シングル プッシュピース クロノグラフは、クラシックなスタイルに整えられたモデルだ。リュウズは大きく、ケースからやや遠い位置にある。これはパイロットグローブをはめた手でも、すんなり扱うことができるようにするためだ。そしてリュウズのヘッドまで距離があってこそ、夜光の三角マーク付きベゼルも回しやすい。
時計愛好家が、歴史的デザインのパイロットウォッチを何かひとつ欲しい、と考えているとき、このモデルに出くわしてしまうとどうなるだろうか。初期のパイロットに使われていた仕様をとりわけ意識し、デザイン上の力点を大胆に打ち出した佇まいを目にしてしまうと、これは手に入れるべき候補と瞬間的に判断を下すだろう。このモデルならではの特性と能力を吟味するのは、その次になるはずだ。ケース直径は41㎜と腕にしっくりきそう。過去にインスパイアされたワイヤーラグのような作りもなかなか良し(一見、ワイヤーラグ風に見えるが、ストラップ内にはバネ棒が通っている)。レザーストラップもしなやかで巻きやすい。艶やかな文字盤は黒々と、白い印字やトラックがクリアに見える。そして、クロノグラフ機能も、大きなリュウズと同軸で操作性は抜群に良さそうだ。第一印象で心を動かされつつも、やはり冷静な検分は怠れない。

ボリュームはあれども不恰好には非ず。コインエッジベゼルは、圧迫感のない二段構え。ラグは飛行黎明期を思わせるワイヤースタイルだが、実はバネ棒式。使いやすさへの配慮がうかがえる。

外観チェックだけでは分からない

では、メカとしてはどうだろうか。まず注目すべきは、クロノグラフ機構にコラムホイールを使用している点だ。このモデルはプッシュボタンをリュウズと同化させて一本化しており、外部からのアクセス箇所を最小限にまとめている。制御方法を、シングルプッシュクロノグラフとして効率良く作動するコラムホイール式にすることで、操作性が向上しているのだ。そこが興味深いところなのだが、そのコラムホイールの姿はケースの裏側からは見えない。存在を目で味わえず、ステンレススティールの裏蓋の奥には鎮座しているんだなぁと、ぼんやり感じることしかできないのは残念だ。同時に興奮を少々しぼませるのは、裏蓋がねじ込み式ではなくスナップ式なところ。しかも、裏蓋のエングレービングは長々としたモデル名とナンバーだけだ。“ THE LONGINES AVIGATION OVERSIZE CROWN SINGLE PUSH-PIECE CHRONOGRAPH”と文字が続いていても、いささか味気なくそそらない。もっとも、時計の神髄の美を追求してやまない愛好家たちに言わせれば、それは大したことではないはずだ。裏蓋がシンプルなのはこのモデルに限ったことではない。ロンジンのヒストリカルピースである他のパイロットウォッチ陣もそうだ。他ブランドのパイロットウォッチもソリッドバックに文字や数字を入れただけというのは多く見られる、という具合か。しかし、ムーブメントをのぞくひそやかな楽しみを奪われるのは寂しい、と感じる者もいるだろう。ムーブメントを愛する向きは、お気に入りの時計店で裏蓋を開けてもらうといい。目に飛び込んで来るのは自動巻きキャリバーA08・L11。共にスウォッチ グループの傘下で、姉妹会社関係にあるETAが製造している。ローターに入った金文字の記載で分かるように、ロンジンでのキャリバー名はL788・2だ。2012年に導入されたシングルプッシュのクロノグラフムーブメントは、2010年に発表されたA08・L01(以前のA08・231が名称変更になった)のバリエーションとして作られている。ETAはこのキャリバーをETA7750系統の派生としており、寸法や機能の表示のされ方はETA7750に相当する。

シンプルなソリッドバックの飾り気はないが、パイロットウォッチとしてはむしろ正統派。内蔵するCal. L788.2(ETAのCalA08.L11)は、コラムホイールを使用。数種の装飾が美しい。

ムーブメントを子細に検分

これらふたつのロンジンキャリバーの長所として重要なのは、ETA7750に典型的なクロノグラフの作動カムを青色のコラムホイールに替えていることと、パワーリザーブが約46時間から約54時間に向上していることだ。その上、緩急針のメカニズムや耐震軸受けを変更して、脱進機回りは改善されている。
エネルギー伝達のためのパーツとローターには数種の異なる装飾研磨を入れ、クロノグラフのレバー類は鏡面に磨き上げている。各パーツは面取りされてまではいないが、これに関してはETA7750系統の前身であるバルジューの古典的汎用機も同様だ。さらに、クロノグラフ機構への動力の伝達がスイングピニオン方式なのも変わっていない。この〝スイング式〟というのは、構築的には非常に優れているというわけでもないが、確実で丈夫なのだ。
ロンジンというブランドは、リーズナブルでありながらきっちりとした丁寧な作りに定評がある。それはスイングピニオン方式をキープした、このパイロットウォッチでも反映されていると言えるだろう。その価格は38万円。インパクトのある外観を、良質な仕上げ表現しているのは魅力的だ。
良い印象を持てたのは、歩度が落ち着いていたことにもある。歩度測定機では日差で6秒の進みが見られたが、着用テスト後も7秒から8秒までの進みにとどまった。クロノグラフ作動中はさらに良い数値が出ている。振り角も平均わずか11度しか落ちていない。

ヒストリカルピースの特徴を取り入れながらも、随所に工夫が見られる。画一的になりがちなパイロットウォッチに、さりげなく独自性を持たせることに成功した。

認識すべきは何か

つまるところ、見目麗し、操作は簡単、着け心地は快適で、内蔵のムーブメントも興味深い。では、何か足りないものはあるのだろうか?
このモデルを購入しようとするなら、リュウズと一体のプッシュボタンはクロノグラフにストップをかけた後に再スタートができず、スタート、ストップ、リセットの繰り返しのみ機能することを、承知しておかねばならない。もうひとつ、ベゼルがかなり軽やかに回るので、ちょっと触れただけでも意図せずセット位置がずれることもある。これらはベゼルを短いタイムスパンでのチェックのために実用しない場合でも、クロノグラフを紛らわしくなく読み取るためには覚えておきたい。
そして、暗がりでの視認性は、思ったより低かった。夜光塗料はしっかりと発光するのだが、いかんせん時針・分針の塗布面積が狭い。そのため夜間は闇にほぼ同化してしまうのだ。
とはいえ、昼間のうちはよく読み取れるし、これ以外では長所が短所を上回っているので、総合すると良い1本と言える。なんといってもこのデザインの仕上がりの丁寧さ、そして装着感の良さには説得力がある。そして、このムーブメントが、現実的な価格帯のクロノグラフ群の中に、特別感を与えているのだ。
オープンコックピットのシートに揺さぶられる機会など訪れないままであっても、この腕時計とともに過ごせば地上にいても気分は雲の上、となるだろう。

左: シンプルなスモールセコンド付きの3針モデル。グリュシデュール製のテンワに温度変化に強いニヴァロックス1ヒゲゼンマイを併せ持つ。自動巻き(Cal.L615、ETA2895-1)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41㎜)。3気圧防水。26万円。
右:24時間表示針搭載モデル。短針を戻すとそれに連動して日付を逆戻しできる。想像以上に、装着感も良好だ。ETA2895同様、そのグレードは「トップ」。自動巻き(Cal.L704、ETA A07.171)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SS(直径41㎜)。3気圧防水。33万円。

技術仕様
ロンジン/ロンジン アビゲーション オーバーサイズ クラウン シングルプッシュピース クロノグラフ

製造者: ロンジン
Ref.: 950.011
機能: 時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)、シングルプッシュクロノグラフ、30分積算計、日付表示
ムーブメント: ETA A08.L11(ETA7750ベース、自動巻き)、2万8800振動/時、27石、クイックデイトコレクト、スムーステンワ、耐震軸受け(ニヴァショック使用)、パワーリザーブ約54時間、直径30㎜、厚さ7.9㎜
ケース: ステンレススティール製、内面無反射加工ドーム型サファイアクリスタル製風防、両方向回転式ベゼル、リュウズ同軸プッシュボタン、スナップバック、3気圧防水
ストラップとバックル: アリゲーターストラップ、ステンレススティール製尾錠
サイズ: 直径41㎜、厚さ15㎜、重量100g
バリエーション: ノンクロノグラフ(セカンドタイムゾーンあり/なし)
価格: 38万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時     / クロノグラフ作動時
文字盤上 +9 +7
文字盤下 +10 +8
3時上 +5 +3
3時下 +3 +2
3時左 +6 +4
3時右 +3 +2
最大姿勢差: 7 6
平均日差: +6 +4.3
平均振り角:
水平姿勢 313° 302°
垂直姿勢 284° 273°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 7pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 14pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 78pt.

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