【81点】オメガ/スピードマスター ムーンウォッチ “ダークサイド・オブ・ザ・ムーン” VS. ブライトリング/クロノマット GMT ブラックスチール

FEATUREスペックテスト
2014.02.03

今回のテストのために、ヴェンペ時計部門の副工房長、マイスター時計師のフロリアン・ピコール氏がふたつのムーブメントを分解する

ムーブメントの構造

装飾よりもムーブメントの設計が重要なのはもちろんのことである。ムーブメントの設計においては、両方向巻き上げ式のローター、エレガントなコラムホイール、そして、モダンな垂直クラッチなど、数多くの共通点が挙げられる。パワーリザーブもETAの標準である約46時間よりもずっと長く、ブライトリングの香箱は約70時間分のエネルギーを蓄積し、オメガでは直列に接続されたツインバレルが約60時間のパワーを生み出す。ツインバレルは、均等な動力供給を可能にする。
ムーブメントを分解しなくても、ブライトリングが従来型の片持ちのテンプ受けに留まっているのに対して、オメガは頑丈な両持ちのバランスブリッジ(テンプ受け)を採用していることが分かる。また、オメガでは新型のニヴァショック耐震軸受けが搭載されており、腕時計に衝撃が加わった時の天真の復元性に優れ、天真を穴石の中心で安定させるように設計されている。一方、ブライトリングはガンギ車用の耐震軸受けを装備しているので、同様に高い耐衝撃性が期待できる。

緩急調整の方法においても両者は異なっている。ブライトリングのキャリバーB04には偏心ネジで微調整を行う緩急針が装備されており、オメガはテンワに取り付けられた4個のホワイトゴールド製バランスウェイトで緩急調整を行うフリースプラング方式を採用している。そのため、オメガの方がより精密な微調整が可能で、ヒゲゼンマイは自由に抵抗も少なく振動することができる。オメガのテンワに黒のクロムメッキが施されているのは審美的な理由からだが、ムーブメント全体とよく調和しているばかりか、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟の意匠にもふさわしい。
ローターとローターブリッジを取り外すと、より多くが見えてくる。オメガもブライトリングも、ブリッジの下には装飾が施されていないが、この価格帯の時計なら特別なことではないだろう。ブライトリングは自社製ムーブメントをメンテナンスしやすいような構造で設計し、輪列受けが自動巻き機構とともに取り外せるようになっている。輪列受けにネジ留めされている第2のブリッジを外すと自動巻き機構に手が届く。クロノグラフ積算車も独立したブリッジの下に組み込まれており、このブリッジを取り外すとリセットカムとクロノグラフ積算車を見ることができる。

オメガの場合はブライトリングとは異なり、クロノグラフ積算車とリセットカムにたどり着くには、まずローターブリッジを取り外してから、大きなクロノグラフブリッジを外さなければならない。だが、内部を観察してみると、オメガのパーツはすべて、作りが堅牢なことがよく分かる。ブライトリングの歯車には、ポリッシュ仕上げが施されているとはいえ、一部に薄いものがあるのに対し、オメガの場合は、ひとつひとつのパーツがムーブメント全体により一層の高級感を与えている。また、オメガの方が製造と組み立てがより慎重かつ入念に行われている。その結果、加工の痕跡や傷などはまったく見当たらない。特に、コラムホイールを比較するとその差が顕著で、ブライトリングのコラムホイールはルーペで見ると溝状の痕跡が確認される。ただ、オメガのコラムホイールは、柱状の歯のひとつひとつが独立した伝統的な形状ではなく、柱と柱がつながった星型に設計されている。

ブライトリングは、リセット時にクロノグラフ針を帰零させる機構に、独自の特許技術である自動センタリングハンマー(リセットハンマーの自動位置決め装置)を採用している。したがって、リセット機構の組み立て時には個別の調整が不要である。一方、レバーが作動する際の摩擦について、オメガは賢く解決している。その結果、プッシュボタンを押す力がブライトリングよりもやや少なくて済む。