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モーリス・ラクロア/ポントス S ダイバー(1/1) 2014年01月号(No.50)

MAURICE LACROIX PONTOS S DIVER

ダイバーズウォッチといっても、ダイビングにまでは使わない愛用者が多いのが現実だ。水中と陸上の両シーンで、それぞれ何が時計に必要とされるのか。その違いを湖の底で実際に検証してみよう。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
OK-Photography(時計)、フレデリック・フランケ(潜水時): 写真 Photographs by OK-Photography(Watches), Tanjew Dittgen (Diving)
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・防水性が非常に高く、手間の掛かった堅牢な作り
・ダイバーズウォッチにふさわしく、かつオリジナリティあるデザイン
・日常使いに適した扱いやすさ

point
・潜水時はインナーベゼルが読み取りづらい
・ダイバーグローブ着用時はリュウズ操作に難あり
 

水中という現場での信頼感

2013年のバーゼルワールドで、実に太っ腹に新作をたくさん発表したブランドはビエンヌに本拠地を置くモーリス・ラクロアだ。気品があってミステリアスさも備え、過去の歴史にインスパイアされた新作だけにとどまらず、スポーツウォッチコレクションをより拡充してきている。

中でも一番ダイナミックなモデルは、今回テストに取り上げるポントス S ダイバーだ。デザインや機能、それをまとめ上げる技術で、純然たるスポーツウォッチの何たるかを突き付けている。構成にあたって、強調されているのは〝引き算の美学〟だ。それゆえに、シュノーケリングにともなうあれこれはシンプルにまとめている。使用時にガイドしてくれるのは、ダイバーズウォッチの命題でもある夜光塗料付きの各表示とインナーベゼルがメイン。頑丈なケースと、しっかりした作りながらもウェットスーツ着用時にも腕に巻くことができるエクステンション式のブレスレットも、スポーティーな時計の装備としては当然欠かせない。
しかし、ダイバーズウォッチとしての本来の要素は実際に満たされているのだろうか? 今回はこの疑問を解明すべく、ダイバーのイェンス・ケッペ氏にご協力いただいた。彼が潜水ポイントに選んだのは、南ドイツの古都ウルムの中心から南の方向に位置するグアレン湖。ここは浚渫湖(砂利等の浚渫によって出来た湖)なので一般的な水遊び向きではなく、ダイビングのロケーションとしての利用が圧倒的に多い。さまざまなダイバー団体により、ほとんど占有利用されているような湖なのだ。

潜水前にチェック

潜水の前にまずすべきことは、各装備のチェックである。我々編集部は、ポントス S ダイバーの操作方法を説明した。ケッペ氏の感想としては、バックルが片折れ式のため着け外しが容易で、ふたつのリュウズは大きくつまみやすく、すんなり扱えるとのこと。2時位置にあるふたつ目のねじ込み式リュウズは潜水時間の計測用で、インナーベゼルを動かすことができる。防水パッキンにはとりわけ手が掛けられており、リュウズを緩めるとリングを右左両方向に回せるようになっている。リングの動きは極めてスムーズ。潜水スタートを示す三角マークの設定も、いつでも分針にぴたりと合わせることができる。
しかし、非常に頑丈で手間の掛かった外観ながら、惜しい点をふたつ発見した。ひとつはブレスレットのエクステンション部分が19㎜しかないこと。実際問題、これでは7㎜もの厚さのウェットスーツ着用時には、腕に素早くは留められないのだ! もうひとつは、デザイン上、インナーベゼルに分の目盛りがないことだ。5分刻みでは判別が付くようにはなってはいるが、我々がぱっと見て、15分と20分を取り違えて見誤るのは一度だけではなかった。これではトータルな潜水時間は計測できても細かい所要時間は計測しづらいのは否めない。ちなみに、実際に着用して潜っていただいたケッペ氏は、普段の潜水時にはコンパスが組み込まれたダイバーズウォッチを使用し、一定方向ごとの潜水所要時間が分かるようにしているそうだ。潜水時の何段階かの作業はインターバルを置いて行うため、各設定時間がいつ終了するか、注意が必要なのだ。浮上開始時には時間設定用リングをリセットして、潜水時に掛かった時間と同じタイムスパンを厳密になぞりつつ行動するという。
こうしたダイビングの決まりごとを考えると、インナーベゼルが5分刻みになっている今回のテストウォッチは、細かな行動に沿ったタイムスパンを気にするにはいささか粗い感がある。とはいっても、水中でのトータル時間の計測は十分可能だ。スポーツとして潜るなら、所要時間は通常30分から60分といったところだ。そうしたシーンでは、インナーベゼルも落ち着いて読み取れるだろう。

どこをとってもみっしりとした重厚感あふれる仕上がり。ムーブメントを包む頑強なケースも、しっかりした安全ロック付きバックルも、足並みの揃った作りだ。

水中での使用感はいかに

さて、今回ケッペ氏に潜っていただいた所要時間は合計50分。その大半の時間は、水深6m弱の湖底での作業に費やされた。ダイビング中にさまざまな魚類と水中植物に遭遇できるのは、とりわけエキサイティングだろう。だが、今回の目的は水中探査ではない。ケッペ氏には、ポントス S ダイバーの操作性を、これでもかというほど吟味していただいた。
彼も多少予測していたが、おおかたの予想通り、安全ロック付きブレスレットは、爆破にも耐え得るかのごとき強固さを見せた。そして、両面無反射コーティング加工が施された風防は、水中ライトの明かりを受けても照り返しを防いだ。多くのダイバーモデルでは、腕を軽く傾けた角度から見た時には読み取れなくなってしまうことを思うと、このモデルの風防は効果的だと言える。そして、ケースの防水性は格段に高い。仕様データに書かれている深水域(60気圧防水/600m防水)にも対応させるには、これくらいしっかりした作りであるべきなのだろう。

それでは、ポントス S ダイバーに欠けているのは、インナーベゼルの細かな目盛りだけなのだろうか? これ以外にことに気になったのは、秒針に夜光塗料が施されていないという点だ。というのも、潜水用具のドイツ規格および国際規格では、明るさの不十分な深さにおいて、計器の操作中か否かにかかわらず、表示は常に明瞭に判別可能であるべしと規定されているからだ。とはいえ、夜光塗料についてはあまり過敏にならなくても大丈夫だろう。あえて言うならば、この時計は自動巻きなので、完全に停止していた状態からすぐに潜らない限り、30分なり60分なりの潜水の間中、作動が止まるかもしれないという心配は、よほどの慎重派以外はまず気にしなくてもいい。時計が問題なく動いてさえいれば、ダイバーは常にライトを携帯しながら潜るため、読み取り不能に陥ることはまずないはずだ。なにしろ暗い水中で細かい表示を見分ける際、地上と同じわけにはいかないのは、この腕時計に限った話ではない。中間価格帯、あるいはもう少し下の価格帯の潜水用電子装置では、ディスプレイに暗がりへの対策がまったく取られていないものも多く見受けられる。
つまり、秒針に夜光塗料が使われているかどうかよりはるかに重要なのは、普通に見た時の基本的な見やすさなのだ。それを踏まえた上で検証すると、ポントス S ダイバーは必ずしも視認性に優れているとは言えない。分・秒の60分割を示すバーインデックスは5分置きの太いインデックスと同じ長さに揃えられているため、薄明かりの下ではメリハリがなく紛らわしくもある。その上、分針がやや細過ぎて、文字盤全体の中で埋没気味だ。ぱっと見た時に、分針にはもっと存在感のある面積を占めているのが望ましい(これは夜光塗料の範囲に関しても同じだ)。形状も、明らかに時針とは違うと認識できるくらいの差異がほしいところだ。しかし、ボリュームを抑えていながらも赤い縁取りを加えているのは、実用することを念頭に置いた見やすさへの配慮だろう。

ともあれ、実際に湖底に潜って使用したケッペ氏の感想を聞こう。氏曰く、ポントス S ダイバーは、ダイバーズウォッチに求められることをきちんと踏まえた、まさにスポーツウォッチたる存在だという。バックルもしくはインナーベゼルひとつとっても、手間が掛かった作りだと分かる。ヘリウムガスのエスケープバルブが備わっていることも、現実にはプロダイバー以外の者には明らかに使われないものであっても、スポーツウォッチとして見かけ倒しではないことを証明していて好ましい。ただし、ディテールについては改善の余地があるだろう。何よりも水中の視認性が向上するよう期待したい。

“潜水現場”に選ばれたのは南ドイツのグアレン湖。水中での検証作業は50分間に及んだ。ダイバーズウォッチはウェットスーツを着た時に巻けてこそのもの。ブレスレットは通常のままではウェットスーツの上からは装着しづらいが、エクステンション部分を事前に伸ばしておけば着用しやすい。加えて、水中では地上以上に視認性がものを言う。サファイアクリスタル製風防の両面無反射コーティングが威力を発揮して、文字盤は斜めから見ても読み取ることができた。ただ残念なことに、素手ではつまみやすいリュウズも、グローブをはめると事情が異なり、水中でのリュウズ操作は想像以上に困難であった。

陸上で伝わりやすい魅力

次は編集部の我々が陸上で検証する番だ。テストウォッチには、湖水の中というハードな環境で使われた痕跡がほとんど感じられなかった。しかも、ウェットスーツの袖にはファスナーがあり、その上からテストウォッチを巻いていたので結構擦られていたはずなのだが、ケースにもブレスレットにもごくごく微細な傷しか見当たらなかった。むしろ、陸での日常的な環境のほうが、カーブを持たせたバックルなどは傷付きやすいのだろう。
多くのダイバーズウォッチと同様、このモデルもやはり水中より陸での使い勝手で魅力が伝わりやすい。地上で文字盤を見ると、時刻の確認は潜水時間を確かめる場合より視認性が高い。ダイバースーツの上からでは窮屈だったブレスレットも、普段通りに着用するときは十分なゆとりがある。加えて、インナーベゼルをちょっとした時間を計るために使う時も、手袋をはめずに操作する分にはリュウズも問題なく扱える。
ところが実際に自分で着けてみると、顔がちょっと曇ってしまった。この時計の直径は大きく43㎜、重量は191g。これは腕にずしりと重い。そして、がっしりしたバックルは、エッジにもう少し滑らかさがほしい。
しかし、こうした重厚感が気になるようであれば、長めに作られている専用のカーフストラップが取り付けられているタイプを選ぶのも手だ。ストラップのカラーはブラウンとブラックの2種類。ラグ間のバーにくぐらせてケース裏を通り、端が肌に当たらないように輪にしたかたちにして、ストラップの横からしっかり縫い留められている。そのため、腕当たりはしなやか。このフィット感は心地よい。尾錠も丁寧にフライスされ、見た目も整っているので気持ちよく使える。
レザーストラップに比べると、ステンレススティール製ブレスレットはいかにもタフな感じで、ちょっとやそっとでは壊れることはなさそうな印象だ。そこに、普段使いの時計としての頼もしさがある。
この安心感は、ダイビング時に限らず、日常生活において着用する際に、選択の指標になるのではないだろうか。生卵を扱うようにびくびくしながら使用するのは、誰しも避けたいに決まっている。プロダイバーが仕事に使うならば、改善が望ましい点はいくつか挙げられるが、日々の生活において、この信頼感は大きな魅力となるだろう。

カーフストラップタイプは、ストラップをラグに通し、ケース裏に這わせて輪にして縫い留めたスタイル。肌当たりは優しくフィット感が心地よい。

テストダイバーからひと言

ポントス S ダイバーは、手間の掛かった装備に注目すべき美しい仕上がりの時計ですね。時計は水中だけに限らず、一筋縄ではいかないさまざまなシチュエーションにおいても、深刻なダメージの心配なく使えるようでなくてはいけません。明るさがとりわけ不十分な水中では、真横からのような角度でも文字盤が分かるのは、特に良かったと感じました。それでも、インナーベゼルはグローブを着けているときの操作性にまったく問題がないとは言えないので、ダイビングで使うには制約が出てきますね。ブレスレットのエクステンションについては、ほかの多くのダイバーズウォッチと同様に、水温の温かい海などに向く薄手素材のネオプレンウェットスーツを着る場合なら、腕回りに届くでしょう。率直に言うと、我々のように厚さ7㎜のウェットスーツが欠かせないダイバーには短過ぎますね。

イェンス・ケッペ (ドイツ・ウルムのダイビングスクール「スキューバマリン」オーナー)

技術仕様
モーリス・ラクロア/ポントス S ダイバー

製造者: モーリス・ラクロア
Ref.: PT6248-SS002-330
機能: 時、分、秒(ストップセコンド)、日付表示
ムーブメント: セリタSW200-1“スペシャル”、自動巻き、2万8800振動/時、26石、スムーステンワ、耐震軸受け(インカブロック使用)、調整用偏心ネジ付きエタクロン式緩急調整装置、パワーリザーブ約38時間、直径25.6㎜、厚さ4.6㎜
ケース: ステンレススティール製、両面無反射加工のドーム型サファイアクリスタル製風防、二重ねじ込み式リュウズ、自動ヘリウムガスエスケープバルブ、ねじ込み式裏蓋、60気圧防水
ブレスレットとバックル: エクステンション式ステンレススティール製ブレスレットおよび片折れ式フォールディングバックル(安全ロック付き)
サイズ: 直径43㎜、厚さ15㎜、重量191g
バリエーション: シルバーカラー文字盤+尾錠付きカーフストラップ仕様(30万4500円)
価格: 31万5000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時         
文字盤上 -2  
文字盤下 -2  
3時上 -3  
3時下 +5  
3時左 -4  
3時右 +5  
最大姿勢差: 9  
平均日差: -0.2  
平均振り角:    
水平姿勢 279°  
垂直姿勢 256°  

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 7pt.
ムーブメント(20pt.) 10pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 76pt.

>>モーリス・ラクロアのモデル一覧はこちら

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