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IWC/インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”(1/1) 2014年01月号(No.50)

IWC INGENIEUR AUTOMATIC AMG BLACK SERIES CERAMIC

クロノスドイツ版編集部は、スーパースポーツカー、メルセデス・ベンツ SLS AMG GT ロードスターに乗り込み、強い逆風を受けながら、硬いセラミックス製ケースを身にまとったIWCの新型インヂュニア“AMG ブラックシリーズ・セラミック”を検証する。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto


point
・クールなデザイン
・傷に強いケース

point
・高額である
・蓄光塗料の発光時間が短い

極限に挑む

る晴天の夏の日、クールなIWCのインヂュニアを身に着け、最高スピード320㎞/hのカブリオレに乗る。アッファルターバッハのAMGから最新作の試乗を許された我々に課せられたミッションは、2750万円もするSLS AMG GT ロードスターを無傷で返却することである。何はさておき、午前中はこのスーパースポーツカーとともに時計の撮影をして過ごす。ディテールを存分に観察する時間である。

温かい色調を持つインヂュニアのメタリック・ブラウンの文字盤は、マットブラックのセラミックス製ケースと、黒く輝くセラミックス製ベゼルとのコントラストが極めて美しい。艶の美しいベゼルをケースに固定する5本のビスは、ネジ頭が特殊な形状に成形加工されており、時計により一層、テクニカルな印象を与えるのに貢献している。今回試乗したSLS AMG GTは、インテリアだけでなく、フロントグリルフィンやフェンダーフィン、ボンネットフィン、また、ドアミラーにも、ピアノのような輝きを持つグロッシー仕上げが施されていることから、新型インヂュニアの光沢のあるベゼルとの相性が良い。また、SLSのマットなボディーカラー「designoマグノアラナイトグレー」も、インヂュニアのマットブラックのセラミックス製ケースとよく調和している。
SLSのスピードメーターとタコメーターの数字は、インヂュニアの文字盤の12時と6時のアラビックインデックスと同じデザインになっている。インヂュニアでは数字が斜体になっていないことが唯一の違いである。このタイポグラフィは、2005年に復活した新生インヂュニア・シリーズの特徴として知られている。
ベージュオレンジカラーの蓄光塗料が塗布されたマットブラックのアプライドインデックスは、蓄光塗料が盛られた中央部が低く、縁が高くなっており、小さなレーシングカーのように見える。
現在、IWCで唯一、AMGの名を冠したインヂュニアのモデルには、黒一色でまとめられたものもあるが、今回のテストウォッチに選んだバリエーションでは、文字盤や蓄光塗料、そして、ストラップのアリゲーター製インレイの持つ温かい色味が、テクニカルな性格の強い時計に特別なニュアンスを与えている。まるで、コンクリート打ちっ放しの壁の前に置かれたブラウンカラーのレザーソファのようである。

SLSのインテリアも、インヂュニアと同じ方向性を有している。エアアウトレットやシフトレバーは、アルミニウムから削り出し加工されており、ジェットエンジンからインスパイアされたデザインになっている。また、インテリアにはレザーが贅沢に使用されている。

インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”も、SLS AMG GT ロードスターも、マットとポリッシュの面と面との交錯が美しい。

いよいよ、SLSで出発する時間がやってきた。幌を全開にし、スターターボタンを押すと、V型8気筒のファンファーレがリアマフラーから唸りを上げて鳴り響く。何とも言えない快感だ。このエキゾーストノートの前では、インヂュニアが時を刻む明快な音はかき消され、バング&オルフセン社製のハイエンド・サラウンド・サウンド・システムによる1000ワットの音でさえ、脇役的な存在となってしまう。それでも、我々はためらわずにスターターボタンを押す。低速走行時でも外気温が30℃を超えても、オープンカーの車内を快適な温度に保ってくれるエアコンも同時にスイッチを入れる。
SLS AMGは、わがままで扱いにくいスーパースポーツカーではない。マンホールの蓋の上を通り過ぎただけで歯の詰め物が取れてしまうこともなく、クラッチの操作にボディビルダーのような力も必要なければ、ステアリングホイールをバレリーナの繊細な感覚をもって操縦しなければならないわけでもない。どこかまだ、メルセデス・ベンツのクルマらしさを残していて、ギアポジションをDレンジに入れれば、直進走行時もカーブ走行時も軽やかで、サスペンションの利き具合も快適である。インヂュニアの場合も同じように操作は簡単で、扱いやすいリュウズは、リュウズプロテクターで守られていても、手前に回しながら簡単に緩めて、設定のために引き出すことが可能である。また、ストップセコンドと日付早送り機能を装備していることから、時刻や日付も正確に素早く調整することができる。
ようやく、市街地区間終了の道路標識が見えてきた。アクセルペダルを深く踏み込みながら、ドライバーはジェット機に突然変異しはじめたマシンがコースから外れないように努め、助手席のカメラマンはややおびえながらカメラを握りしめる。静止状態から100㎞/hまでを3・7秒で加速する様には、まるで巨人にひと蹴りされたような感覚を覚える。時速が160㎞/hの時点ではまだ、髪を吹き抜ける風が心地よい。320㎞/hという驚異的な最高スピードを試すことのできるアウトバーンがすいていなかったのは幸いだった。これに安心したのは、助手席の同乗者だけではなかった。

自動車とは異なり、時計の場合は速度ではなく、精度の高さが競われる。この点、インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟のプラス1・8秒/日という平均日差は、機械式時計としては最高のレベルに極めて近い。さらに、「文字盤上」や「3時下」など、すべての姿勢間で可能な限り差がないことが望ましいのだが、インヂュニアはこの点、6秒という最大姿勢差によって安定した精度を証明してくれた。また、テンプの振り角も姿勢が変わっても十分に安定していた。

SLSにとっても、規則正しい走行は望ましい。だが、時速360㎞/hまで表示するスピードメーターでは、スピードメーターの針が4分の1回転した時点ですでに時速120㎞/hに達しており、通常の走行速度である50㎞/hや100㎞/hを目盛りから読み取ることは難しい。幸いにも、走行速度は標準装備のクルーズ・コントロール機能でCクラスのモデルと同様に設定できるので、快適な速度を自動的に保つことが可能である。ただ、インストルメント・クラスター(計器盤)の画面については、今日の水準にしてはやや解像度が粗い感がある。
インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟では、SLSのスピードメーターよりも各表示要素の読み取りが容易である。12時と6時のアラビックインデックスとアワーマーカーによって時は簡単に確認でき、文字盤外周のメタルリングに5分刻みで配された数字は驚くほど役に立つ。トンネル内でも時刻を素早く判読できるが、暗所に長時間いると蓄光塗料の発光力が弱くなってしまうのが残念な点である。
しかし、今回、発光力の弱さが大きな問題となることはなかった。太陽の光がさんさんと降り注いでいたからである。さらに我々は、走行シーンに合わせてサスペンションモードを切り替えられる「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」のスイッチを発見した。このスイッチで「スポーツ・プラス・モード」を選択すれば、コーナリングをクリーンに決めることができる。このモードではサスペンションが硬めに調整されることから、インヂュニアに搭載された一体型耐衝撃システムには振動や衝撃からローターを守る役割が課せられる。直径46㎜もの巨大サイズのケースをしっかりと快適に手首に留めてくれるストラップは、さながら、ドライバーをしっかりと包み込むSLSのスポーツシートのようである。ストラップには圧迫感がまったくなく、内側のラバー面は、シートに使われているアルカンターラのように肌触りが柔らかい。

しばしクルマを止めて木陰に入り、ストラップとバックルをもう一度、観察してみた。まず、目を引くのはアリゲーター製インレイに入った美しい斑である。だが、ストラップにステッチが施されていることから、ここを通じて手首の汗による湿気が表のインレイ側ににじみ出てきてしまい、せっかく美しいインレイの縁の部分が黒く変色することが予想される。気温が高い所で着用する際には、明らかにデメリットとなるだろう。ピンバックルはセラミックス製ではなく、マットチタンで出来ているが、時計との相性は良く、取り扱いも簡単である。ストラップの穴は斜めに切り込まれているので、フライス加工されたピンバックルのツク棒を穴に差してもストラップが膨らんでゆがむことはない。

異素材の組み合わせが際立つ。バックルはマットチタン製。アリゲーター製インレイ付きのラバーストラップは作りが精巧。

SLSでも、セラミックスよりもメタルパーツが目立つ。オプション装備で提供されているゴールドブレーキキャリパー付きのカーボンセラミックブレーキは、インヂュニア AMGのセラミックス製ケースをデザインする際、間違いなくインスピレーションの源となったはずだが、今回試乗させてもらったSLSには装備されていなかった。AMGとの関連性はさておき、IWCにおいてセラミックスは伝統的に使われてきた素材である。1986年には、ダ・ヴィンチ・コレクションで世界に先駆けてケースにハイテク・セラミックスの酸化ジルコニウムを使用した。そして、1994年からはパイロットウォッチのラインでもセラミックスが採用されるようになった。

セラミックス製ケースのビッカース硬さは1350で、スティールの6倍も傷に強い。その一方、この素材はスティールを変形させるのに必要な力の10分の1ほどの力を加えるだけで砕けてしまうのだが、インヂュニアのケースはめったなことでは破損しない。IWCはケースをオランダのメーカー、フォーマテック・テクニカル・セラミックス社に委託し、極めて複雑な工法で作らせている。傷に強いケースの恩恵により、SLSの長いボンネットを開ける時など、誤って角にぶつけてしまっても問題はない。

エンジンについては、IWCもAMGも持てる能力を余すことなく発揮している。SLSには、AMGが自社で開発し、2006年に初めてメルセデス・ベンツE63 AMGに採用されたV型8気筒6・2リッターエンジンの改良版が搭載されている。このエンジンは、ひとつひとつがひとりのメカニックによって最初から最後まで組み立てられ、クォリティの証として銘板の上にメカニックのサインが記されている。IWCでも、2005年のインヂュニア・ラインの再生を機に完全自社開発のキャリバー80110が導入された。曲がりくねったローターブリッジが特徴的で、巻き上げ機構に対する衝撃を吸収する能力がより一層、強化されている。このシステムは、ラチェットによるペラトン自動巻き機構とともに、1950年にIWCキャリバー85でデビューした。両者とも、当時、IWCの技術部門の責任者だったアルバート・ペラトンによって設計されたものである。そのほか、このムーブメントはトリオビス緩急調整装置を備えているが、装飾は控えめである。ローターはこのモデルでは黒く塗られており、さまざまな模様彫りが施されているが、面取りしたエッジやポリッシュ仕上げの面はあまり見当たらない。
以前のインヂュニアのモデルと異なるのは、耐磁性があまり重視されていない点である。厚みを抑え、サファイアクリスタルのトランスパレントバックを装備するため、今回のモデルでは軟鉄製インナーケースが採用されていないのだ。だが、SLSではオーディオシステムのサイドスピーカーがやや高めに取り付けられているので、アームレストで腕を休めても、時計がスピーカーに近付きすぎて磁気を帯びてしまう危険性はない。

マニュファクチュール・エンジン。最高出力435kW(591PS)、V型8気筒6.2リッターのAMG製エンジンと、一体型耐衝撃システムを装備し、2万8800振動/時で時を刻むIWCの自動巻きキャリバー80110。

SLS AMG GTでは、1954年に発表されたガルウイングドアを持つメルセデス・ベンツ300SLのデザインが受け継がれている。1954年のクーペ・モデルは1957年にはロードスター・モデル(オープンカー)に移行した。メルセデス・ベンツ300SLが発表された1年後の1955年に登場したIWCのインヂュニアとの類似点は、ここでも見付けることができる。インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟もまた、時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタが手掛けたインヂュニアSLのデザインをしっかりと継承しているのである。1976年に生まれたインヂュニアSLは、スポーティーなラグジュアリーウォッチをコンセプトとして、一体型のメタルブレスレットを備え、ベゼルに開けられた5つの穴が象徴であった。2005年、インヂュニアが再始動した際には、特徴的な数字と、よりエッジの利いたフォルムを持つケースが導入された。リュウズプロテクターは2009年のインヂュニア・オートマティック・ミッション・アースから装備されるようになった。5つの穴の代わりにベゼルに5本のビスが取り付けられているのは、インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟における新しい点である。ベゼルからケースバックまで貫通している5本のビスには、ベゼルとケースバックをミドルケースに留める役割がある。このビスを観察すると、特殊な形状に成形加工されたネジ頭など、加工の秀逸さにも気が付くだろう。レザーのステッチのひとつひとつが丁寧に仕上げられているSLSにも共通するクラフツマンシップである。

高級感とは、とりわけ価格によって具体化されるものである。SLSの購入を検討する際、ネックとなるのは100㎞で13・2リッターという燃費ではなく、どちらかと言えば2750万円という価格の方だろう。今回試乗したモデルにはオプションがいくつか装備されていたので、さらに費用が必要となるが、オプション装備の多くは、実際なくても困らないものばかりである。IWCのインヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟の購入を考えるなら、予算に107万5000円を計上しておかなければならない。これは、SLSにAMGカーボンセラミックブレーキをオプション装備したい場合に追加料金として支払わなければならない金額よりも安価だ。こう考えれば、インヂュニアの価格もそれほど高額に感じないかもしれない。だが、これだけの金額を支払うのだから、ムーブメントにはもう少し多くの仕上げや装飾を期待したかった。とは言うものの、クールな時計を身に着けてSLSのようなスーパースポーツカーで外出できる人間にとっては、金額など決して問題にはなるまい。いずれにしても、SLSを手に入れることのできる幸運な愛好家には、AMGカーボンセラミックブレーキをオプション装備するのではなく、セラミックス製のインヂュニアを購入することを強くお薦めしたい。

そろそろSLSを返却する時間である。どんなに別れが辛くても、電動式のルーフを閉め、キーを返さなければならない。そして、エアコンのない古いフォルクスワーゲン・パサートで家路に就きながら、少しずつ現実に戻っていくのだ。それでも、試乗の余韻をまだ楽しむことはできる。少なくとも、インヂュニアだけはまだあと数日間、手首に着けていられるのだから。

秀逸なデザイン。このSLSは2011年、ドイツ・デザイン賞において金賞を受賞した。今回のテストで、インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”とSLS AMG GT ロードスターは相性が良いことが証明された。試みは大成功だ。

技術仕様
IWC/インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”

製造者: IWC
Ref.: IW322504
機能: 時間、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付表示
ムーブメント: 自社製キャリバー80110、ペラトン自動巻き機構、2万8800振動/時、28石、耐震軸受け(キフ使用)、トリオビス緩急調整装置、一体型耐衝撃システム、パワーリザーブ約44時間、直径30㎜、厚さ7.26㎜
ケース: セラミックス製ケース、両面反射防止加工を施したフラットサファイアクリスタル、ねじ込み式セラミックリュウズ、5カ所ネジ留めされたサファイアクリスタル製トランスパレントバック、12気圧防水
ストラップとバックル: アリゲーター製インレイ付きブラックラバーストラップおよびチタン製ピンバックル
サイズ: 直径46㎜、厚さ14.5㎜、総重量142g
価格: 107万5000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時    
文字盤上 +1
文字盤下 +3
3時上 +1
3時下 +5
3時左 +2
3時右 +1
最大姿勢差: 6
平均日差: +1.8
平均振り角:
水平姿勢 291°
垂直姿勢 262°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 7pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 11pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 9pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 80pt.

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