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ブライトリング/トランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイム(1/1) 2013年05月号(No.46)

BREITLING TRANSOCEAN CHRONOGRAPH UNITIME

世界を旅するならば、ワールドタイマーがあれば気分も一層盛り上がるというもの。最新技術をヴィンテージデザインに詰め込んだブライトリングのマニュファクチュールクロノグラフから、地球を包む時の流れが見えてきた。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・考え抜かれたデザイン
・ワールドタイム機構のセッティングが容易
・精度に優れている

point
・視認性に難あり
・腕上の座りが今ひとつ

時を越える旅人へ

く離れた外国へ向かう時、持ち上がってくるのは時計の表示をどうするかという問題だ。住み慣れたドイツからニューヨークに向かう場合、時計の針を正してあちらの現地時間に合わせるべきか? しかし、滞在中にドイツに電話するならば、元々の時間が何時なのかを知っておく必要がある。こんな場合、ふたつのタイムゾーンの時刻が一挙に分かればありがたい。メインの時・分針に、24時間表示を指し示す針が添えられている時計も、こういった時に役立ってくれるためのものだ。だがドイツ在住の者が、ロンドンの地からロサンゼルスへ電話するというような、アウェイからアウェイへの場合は、単純な時差計算では追いつかなくなってくる。 そこで重宝するのがワールドタイマーだ。ワールドタイマーには24都市の名称が記されたリングが備わり、1時間刻みで24エリアに分けられたすべてのタイムゾーンが判別できる。リングのひとつの都市名をメインタイムゾーンとして現在時刻に合わせれば、セカンド、サードタイムゾーンの時刻も一目瞭然、というわけだ。

ひとくちにワールドタイマーと言っても、現在、流通しているものはいくつかの種類に分けられる。よくあるのは、都市名入りのリング自体は固定されていて回らず、読み取りに工夫が必要なタイプだ。リングを回せるタイプにも、センターの時・分針はそのままに、12時位置にメインタイムとする都市名が来るように動かして、それを起点に他エリアの時刻を割り出すものもある。これらのタイプだと、時差があるさらに遠くの土地への旅や、先に挙げたような国際電話の際には最適とまでは言えない。

そのようなタイプと比べて、ブライトリングが開発し、特許取得のワールドタイマー機構は、明らかに使い勝手が良い。というのも、12時位置に据える都市名を変更すると、センターの時・分針も動いてその都市名の現在時刻に表示が切り替わるからだ。都市名入りリングを廻すには、リュウズを一段引き出して操作する。すると、時針が1時間ずつ素早くステップ移動して、知りたい土地の時刻が示されるようになっているのだ。ちなみに、リング設定はリュウズを右回りにも左回りにも操作できるため、日付がまたがるエリア移動の時は、日付表示もともに進んだり戻ったりして切り替わる。これは旅の最中にはとりわけ快適に感じるだろう。現在地の時刻がすぐに分かり、かつ世界各地の現在時刻も見渡せるというのは心強い。2012年のバーゼルワールドで発表されたこの新型ワールドタイマー機構は、自社開発ムーブメントのトランスオーシャン・クロノグラフと組み合わせてデビューを果たした。

C.O.S.C.認定クロノメーターのマニュファクチュールキャリバー05。ムーブメントを取り巻く幅広のスペーサーの文字盤側には24都市の名称を記載したタイムゾーンリングと24時間表示リングが控える。

シリーズ初代は50年代に登場

ブライトリングのトランスオーシャン・ラインは、初代モデルの発売が1958年。同社の50年代と60年代の気品あるデザイン要素が今日によみがえったモデルが展開されている。その当時にもユニタイムという名の自動巻きがあった。これは日付表示付きワールドタイマーだったが、パイロットや船長などの長距離移動の頻度が高いユーザーを想定していた。今回取り上げるトランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイムも、往年のモデルと同じく文字盤に世界地図が描かれている。積算計もそれにならって、3時、6時、9時の3箇所のスタイル。3時位置の30分積算計に入れられた長い目盛りも、当時のモデルから引き継がれた。3分ごとに課金される通話の時には、この目盛りが役に立っていたのだ。さらに、キノコ型のプッシュボタンやドーム型風防、文字盤上の昔のロゴも、同じく歴史的モデルを彷彿とさせる。

また、明るい茶色のカーフストラップも、麗しきヴィンテージデザインを引き立てている。しかし、ケースサイズは堂々直径46mm。唯一、これが現在のモデルだと判断できる要素だ。もちろん、全体のどこを見ても、仕上げ加工のクォリティが群を抜いているのは言うまでもない。針に始まり、アプライドインデックスや慎重に鏡面研磨されたケース、1点の傷もなく仕上がった裁ち切りのストラップや完全にフライスされた尾錠に至るまで、すべての箇所にハイレベルな仕事がなされている。惜しむらくは、ロゴマークがレリーフで入った美しい尾錠の裏面だけは、明らかに他の箇所との釣り合いが感じられないことだ。

しかし、この尾錠も我々編集部としてはふたつ折りのフォールディングバックルよりやはり断然ヴィンテージデザインらしいと感じている。メタル部品が小さいため、フォールディングバックルのように手首の骨に当たる不快感は皆無。ソフトな肌触りの裏打ちカーフが当てられているストラップも、着用感のよさを担っている。もっとも、このモデルは手首が細い場合には最高の着け心地とは言えず、次第に位置が滑り動いて、落ち着きを感じられないだろう。

オールマイティーではないと思わせる点には視認性も挙げられる。ステンレススティールの針は、銀色の文字盤の上では十分に浮き上がって見えず、24時間リングの数字や都市名も力技でスペースに詰め込んだように、かなり小さく印刷されているため判読するにはやや厳しい。それに対して、日付表示は容易に読み取ることができる。そして、周囲が暗くなって来ると、時・分針とアワーインデックス、さらに12時位置には2点ドットで置かれた夜光塗料がほどよくガイドしてくれるのはうれしいところだ。

クラシックな形状のケースと高く盛り上がった風防が典型的なトランスオーシャン。歴史的なモデルを基にしつつもケースサイズを大きくし、現代的な要素を融合させている。

設定方法に技あり

このモデルの使い勝手の良さは、つまみやすい非ねじ込み式リュウズからも謎解きができそうだ。1段引き出すとタイムゾーンの設定を変えられるが、2段目まで引くと通常の針合わせが行える。その際、秒針が止まるので、時報にもきっちりとシンクロさせることが可能だ。針合わせにつれて24時間リングは動いても、都市名が記されたタイムゾーンリングは動かない。これがワールドタイマーとしてあらまほしき姿なのだ。クロノグラフのプッシュボタンの押し心地もスムーズで、十分に望ましく仕上がっている。

では、日付修正についてはどうだろうか。これには時針だけを早送りして、零時を越えさせる作業が必要になる(タイムゾーンの設定変更により、時差で日付がまたがる場合も自動的に切り替わる)。日付表示だけが動いて切り替わるクイックコレクト機能が備わっていないものの、リュウズが両方向に回せるために、日付を進めることも戻すこともできるのは実に小気味よい。タイムゾーンの設定を操作しても分針と秒針には変化が出ず、変更作業中も時間は淀みなく進んでいく。その上、クロノグラフのランニング中でもタイムゾーンの修正ができるようになっているのだ。クロノグラフ以外はリュウズひとつで操作可能なのは、機能性に優れたメカニズムと言えるだろう。ただし、タイムゾーンを変更しようとしてリュウズを1段だけ引き出すつもりが、針合わせポジションの2段目まで引き出してしまい、ストップセコンドが働いて秒針が動きを止めてもそれに気付かず、分針を回してしまうということは、少なからずあるだろう。これはタイムゾーンをふたつのプッシュボタンで前後させる方式では起こらないことだ。

この新しいユニタイムには、珍しい点がもうひとつある。決まった都市名の横に赤い太陽のマークを付け、サマータイムに対応しているのだ。サマータイムは12のタイムゾーンで採用されていて、実施期間は半年に及んでいる。つまり、全体の半数のタイムゾーンはサマータイムは関係ないので、区別が付くのは実用的と言えるだろう。

しかし、このモデルでも、ワールドタイマーにおける基本的な問題点は解決されていない。インドやベネズエラ、オーストラリアの一部などの時差30分の地域に対応していないのだ。従来のものと同様に、区分は24ゾーン、都市名の表記も24都市にとどまっている。国内に時差のあるアメリカなどは、リング上に記載のないデトロイトはニューヨークと同じタイムゾーン、といった具合に把握しておく必要がある。そして、デトロイトから280マイルしか離れていないシカゴの正しい時間を知るには、メキシコのタイムゾーンを見なくてはならない。

次に浮上して来るのが、北米と南米間、欧州とアフリカの時差のややこしさだ。例えば、アフリカ南西部のナミビアは、ドイツのサマータイム期間はドイツとの時差が+1時間で先に進むが、ナミビアのサマータイム期間が始まると、今度はドイツの方が時差+1時間となり、ナミビアに先んじて時間が進んで行く。国によって、サマータイムの期間が異なっているのだ。しかし、国々で差が生じない期間もある。ちなみに、昨年2012年は、ナミビアのサマータイムの始まりは9月2日、ドイツのサマータイムの終わりが10月28日だった。こうした情報は、時計を見ただけではもちろん知り得ない。これはブライトリングのワールドタイマーに限ったことではなく、既存のワールドタイマー全般のウィークポイントなのだ。それと同じように、各国のサマータイムの実施が変更される場合にも、その都度問題が生じる。例えば、ロシアでは2011年10月から永年サマータイム制を導入し、夏時間・冬時間の区分の撤廃が決定された。今作のユニタイムはすでにそれに対応しており、モスクワは正しいタイムゾーンの位置に記載され、サマータイムマークである太陽も付けられていない。もっともロシアでは、以前の決まりごとに戻したいという動きがある。ロシアでは冬場は夜明けがかなり遅くなるため、国民と、恐らく肝心のプーチン大統領も、永年サマータイム制には納得し難かったのだろう。こうした人間界の事情は、当然ながらいち時計が順応できることではないのだ。

ところで、ブライトリングは、ETAがムーブメントの供給制限計画を明らかにした11年前に対策に着手した。現在、ETA社は、グループ外のブランドには以前より少ない量しか供給せず、かつてのように外部の取引先とともに成長するという状況にはない。ブライトリングは5年間の開発と生産体制の準備を経て、2009年に初の自社開発クロノグラフムーブメント、キャリバー01を発表。以降、セカンドタイムゾーン付きのキャリバー04、手巻きで24時間表示付きのキャリバー02と、バリエーションを増やしてきた。まだキャリバー03は発表されていないが、キャリバー05として登場したのがこのワールドタイマーである。今のところ、同社の自社開発ムーブメントの中ではこれが最も複雑な付加機能を持っている。

垂直クラッチにコラムホイール、そして、両方向巻き上げ式自動巻き機構を備えたこのムーブメントは、ブライトリングの目下の最高峰だ。さらに、ストップセコンド機構と瞬時切り替わりの日付表示も完備。また、ガンギ車の軸には保油装置が備えられている。緩急針と偏心ネジによる緩急調整のあたりが、ムーブメントの上級さに唯一見合っていない箇所だろう。しかし、信頼性があることには変わりはない。というのも、ブライトリングのすべてのムーブメントは、スイス公式クロノメーター検査機関であるC.O.S.C.の精度基準をクリアしているのだ。このムーブメントの大きな強みは、約3日間のパワーオートノミー(ゼンマイ巻き上げ完了から完全停止までの走行持続総時間)があることだ。ユニタイムを金曜の夜に腕から外して置いたままにしておいても、月曜の朝に再び着ける時には止まっていない。保証期間が5年間あるのも、精巧なムーブメントへの信頼の証しだろう。

尾錠はレリーフ仕立てのロゴマーク入り。天翔る者の象徴である翼も、整いのよさを引き立てている。

メカの姿は観賞できず

そのムーブメントはステンレススティールの裏蓋の下に隠されていて、残念ながら見ることができない。トランスオーシャン・ラインの中でワールドタイム機構が付加されておらず、同ライン中で唯一、限定品になっていないクロノグラフモデルの裏蓋さえ、トランスパレント仕様になっているにもかかわらず、ユニタイムはスティールバックなのだ。これはひょっとすると、タイムゾーンリングと24時間リングを擁するムーブメントを取り巻く幅広のメタルスペーサーがあるからかもしれない。そのスペーサーにもサンバーストの装飾研磨を施すほどの手の掛けようなのだが、ムーブメント本体自体はごく見慣れた仕上げだ。ローターには同じくサンバースト、自動巻きのブリッジにはコート・ド・ジュネーブ、ネジ頭は鏡面仕上げ。ムーブメント外周のエッジは面取りして鏡面に。ここは機械作業で容易に行える箇所だ。しかし、クロノグラフ機構のスティール製レバーが打ち抜きで作られているのは、あまり美的には見えない。レバーは磨かれてはいるのだが、汎用ムーブメントのETA7750と大差ない印象なのだ。
地板はブライトリングが自社で完成させ、ルビーのセッティングやムーブメントの組み立ても、もちろん社内で行っている。5本アームのテンワも自社で製造されたものだ。つまり、ブライトリングでは、このテンワとヒゲゼンマイのセットも独自に調達しているということになる。より良い精度のためには、極めて正確な計量・計測が可能な機器の所有と、厳密に作られたテンワを選別してヒゲゼンマイに適合させることが不可欠だ。テンワとヒゲゼンマイを自社でまかなうのは、非常に重要な事柄と言えるだろう。

歩度測定機に掛ける時も、期待できそうだと緊張感が否応なしに高まる。ウィッチ製のクロノスコープX1に掛けた結果、ブライトリングはクロノメーターの冠に偽りなしであった。平均日差はプラス2・7秒、これは最上級にほぼ近い数値と言っていい。そして、クロノグラフ作動中も、ほとんど同じようなデータが出たのも非常に素晴らしい。姿勢差は通常時で最大5秒、クロノグラフ作動時も6秒と、公式クロノメーターの基準内に収まっている。振り角落ちは、クロノグラフの作動中は垂直姿勢では目立ったが、厳しいことを言うほどでもないだろう。

それより厳しく見るべきは、やはり価格だ。多くのブランドに見られるべらぼうな価格設定傾向は、幸いにもこのモデルには当てはまらない。今回掲載のトランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイムは99万7500円。卓越したワールドタイム機構を搭載した仕上げ加工水準の高いマニュファクチュールクロノグラフとして、見合った金額と言えよう。視認性に関しては文句なしとまでは言えないが、いつの日か出掛ける世界一周の旅を想い、準備しておくのにふさわしい1本である。

技術仕様

ブライトリング/トランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイム

製造者: ブライトリング
Ref.: AB0510/A732
機能: 時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、クロノグラフ秒針、30分積算計、12時間積算計、日付表示、ワールドタイムおよび24時間表示
ムーブメント: マニュファクチュールキャリバー05、自動巻き、C.O.S.C.認定クロノメーター、2万8800振動/時、56石、偏心ネジ付き緩急針、耐震軸受け(キフ使用)、グリュシデュール製スムーステンワ、パワーリザーブ約70時間、直径40mm、厚さ8.8mm
ケース: SS製、両面無反射加工のドーム型サファイアクリスタル風防、ねじ込み式ソリッドバック、10気圧防水
ストラップとバックル: カーフストラップ、ステンレススティール製尾錠
サイズ: 直径46.0mm、厚さ15.4mm、重量112.5g
価格: 99万7500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時     / クロノグラフ作動時
文字盤上 +1 +2
文字盤下 +1 +3
3時上 +2 +1
3時下 +6 +5
3時左 +4 +6
3時右 +2 +0
最大姿勢差: 5 6
平均日差: +2.7 +2.8
平均振り角:
水平姿勢 293° 271°
垂直姿勢 277° 235°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 86pt.

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