MEMBERS SALON

パネライ/ラジオミール エイトデイズ チェラミカ -45mm(1/1) 2013年05月号(No.46)

PANERAI RADIOMIR 8 DAYS CERAMICA - 45mm

パネライはこれまで、数多くのモデルに自社製ムーブメントを搭載してきた。そして、ついに8日間のパワーリザーブを備えたセラミックス製ラジオミールを徹底的に分解し、解析する時が来た。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
マルクス・クリューガー、ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Marcus Krüger, Nik Schölzel
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto


point
・暗所でも良好な視認性
・興味深いマニュファクチュールムーブメント
・ロングパワーリザーブ

point
・ストップセコンド機能が搭載されていない
・デイト表示の切り換わりが遅い
・巻き上げに時間がかかる

ヴィンテージとハイテクの調和

ラミックス製ケース、デイト表示、そして、水平スライド式パワーリザーブインジケーターを搭載したラジオミールを見たら、イタリア海軍の潜水士は何と言っただろうか? いずれにしても、ケースのフォルムは彼らにとってもなじみ深いものであるはずだ。今日では“ラジオミール”と呼ばれる、ワイヤーループラグを備えたクッション型のケースは、パネライが1938年にイタリア海軍に初めて供給した時計にもすでに装備されていた。また、特徴的な数字を配したサンドイッチダイアルや、現在のモデルに見られる針のフォルムも、当時と変わらないものである。搭載ムーブメントがロレックスのキャリバー618からアンジェリュスのキャリバー240SFに切り換えられた1950年代半ば以降になると、スモールセコンドや8日間のロングパワーリザーブといった機能が手巻きムーブメントに装備されることもよく知られるようになっていた。イタリア海軍所属の潜水士も、デイト表示やパワーリザーブインジケーターに異を唱えることはなかっただろう。追加装備された表示要素が時刻の視認性を損ねることはないのだから、なおさらである。

マットブラックのセラミックス製ケースも、歓迎をもって受け入れられたことだろう。それには主にふたつの理由が挙げられる。ほぼすべての時計で採用されているポリッシュ仕上げのスティールケースとは異なり、マットブラックのセラミックス製ケースには光の反射を防ぐ効果があることと、ケースが極めて硬いことから、傷が付きにくいという特性を備えている点である。ケースの原料には酸化ジルコニウムの粉末に染料と結合剤を3%混入したものが使用される。この原料はまず、最大3000バールの圧力でアイソスタティックプレス(訳注:高圧常温型圧縮成形)される。アイソスタティックプレスとは、全方向から同じ強度をかけながらプレスする成形法で、粉末が圧縮されると円柱が形成され、この円柱を1500℃で焼結させると体積が約20%収縮する。円柱はこの後、ディスク状にカットされ、ケースの素材としてフライス加工などの後工程に送られる。最終工程では、ガラスビーズブラスト加工によってケース表面にマットな質感が与えられ、指紋などの油分をはねつけるコーティングが施される。

セラミックス製ケースのビッカース硬さは約1400で、時計のケースに一般的に使用されるステンレススティール(316L)よりも約10倍硬く、したがって傷にも強い。その上、腐食や摩耗にも高い耐性を示す。ただ、セラミックスはステンレススティールよりももろく、過酷な衝撃を与えると破損する可能性がある。だが、通常の環境で使用する分には、明らかにメリットの方が多い。

パネライの自社開発ムーブメント、キャリバーP.2002。テンプの軸方向へのアガキを両持ちのテンプ受けの下に組み込んだローレットネジで調整できるようにした秀逸な設計を持つ。

目に入るものすべてが極めて入念に装飾されている

ラジオミールの特徴のひとつに、ワイヤーループラグがある。このラグは、ストラップをバネ棒で固定する通常のタイプとは異なる形状を持つため、ストラップを交換するには4本の小さなネジを緩め、U字型のワイヤーループラグを外側に引き出さなければならない。ワイヤーループラグをケースから取り外したら、さらに左右に引っ張って、それぞれのラグをふたつのパーツに分解する。ストラップはこうして外すことができる。ラグを構成するふたつのパーツは、中央部のスリーブでつながっている。ストラップはバッファローレザーで出来ており、バックスキンのように表面の粗い風合いが特徴だ。このストラップは、マットブラックのケースとの相性は抜群である。尾錠もマットブラックで統一されているが、DLCコーティングが施されたチタン製で、ケースと同じように極めて丁寧に加工されている。

時、分、スモールセコンド、デイト表示を備えるラジオミールで特に目を引くのは、6時位置に配された水平スライド式パワーリザーブインジケーターである。デイト表示を除き、パワーリザーブインジケーターも含めたすべての表示要素は暗所でも良好な視認性を発揮する。インデックスとアワーマーカーは発光力が非常に強い。その理由は、蓄光塗料を塗布した下層の盤面と、数字とインデックスがフライス加工でくりぬかれた上層の盤面の二重構造からなる伝統的なサンドイッチダイアルにある。この構造では、夜光処理を施した通常のインデックスや数字に比べ、蓄光塗料を格段に多く盛ることができる。また、盤面をくりぬく技法からは、特徴的なフォルムを持つ伝統的なパネライの数字が生まれることとなり、「6」の数字は必然的に開いたフォルムになっている。分解してみると、多層構造にもかかわらず、文字盤はかなり薄いことに気付く。さらに、文字盤を裏返すと、蓄光塗料を少しでも多く盛れるように、数字とインデックスが上に来る部分の下層盤面に窪みを持たせてあることも観察できる。

次に、ケースバックを外してみる。マットブラックのケースに合わせてムーブメントも少し暗色に見せられるように、グレーに着色したサファイアクリスタルをトランスパレントバックに採用しているのは興味深い。キャリバーP.2002でさらに目立つのは、3つのブリッジによって視界の大部分が覆われている点である。見えるのは、比較的小さなテンプとバランスコック、2番車の一部、そして、2番車の下にある香箱のわずかな部分である。それと引き換えに、ブリッジは美しい線彫りで装飾されている。エッジには面取りとポリッシュ仕上げが施され、ネジ頭にも丁寧にポリッシュがかけられている。目に入るものすべてが極めて入念に装飾されており、ブランドのイメージにふさわしい。ただ、3つのブリッジで塞がれているため、多くを観察できないのは残念である。

セラミックス製ケースを採用することで、ラジオミール特有の外観とはまた趣きの異なる印象に仕上がっている。マットブラックは歴史的なフォルムによく似合う。水平スライド式パワーリザーブインジケーターにより、実用計器を思わせる意匠がより強化されている。

マニュファクチュールとしての地位を確立

いずれにしても、全歯車の軸が両側からしっかりと支持されている現在の設計は、非常に堅牢である。文字盤と針とともにムーブメントをケースから取り出すと、バランスコックに取り付けられた2個のローレットネジがよく見える。軸方向のアガキは、これらのネジで極めて精確に調整することができる。ロレックスで長年、信頼性の高さを証明してきた秀逸な設計である。微調整は緩急針ではなく、テンワに取り付けられた4個のバランスウェイトで行われる。緩急針を廃することで、ヒゲ棒によってヒゲゼンマイが規制されることなく、自由に抵抗も少なく振動することができるフリースプラング方式を採用することで、ヒゲゼンマイの耐久性が向上し、かつ、強い衝撃を受けてもヒゲゼンマイがヒゲ棒から外れることもなくなり、結果、長期にわたって高い精度が得やすくなった。

ムーブメントが堅牢性を重視して設計されていることは、バランスコックのほかにも、高いトルクで締め付けられたネジや、歯車の軸のホゾが太く設計されていることを見ればよく分かる。約8日間のパワーリザーブを備えたムーブメントでは、パワーリザーブが約2日間のムーブメントよりもはるかに大きな負荷がムーブメント全体にかかってくるから、その設計は理にかなっている。

文字盤側に目を移すと、文字盤の下にはもうひとつ、マットブラックのブリッジがあり、その下に水平スライド式パワーリザーブインジケーターが装備されている。パワーリザーブインジケーターのポインターは通常の針と同じように取り付けられており、文字盤を外す前に、他の針と一緒に取り外しておく必要がある。ポインターは、小さなブリッジの上にある1本のピンの上に取り付けられている。この小さなブリッジはラックにネジ留めされており、ラックはさらに下にあるフルフォーマットのブリッジに切削された溝とマットブラックのブリッジの間を移動するようになっている。ラックを支持する受け石はなく、動くと金属部品の接触部に摩擦が生じる。だが、ラックの動きは1日でわずか1mmという、ゆっくりとしたものなので、過度の摩耗が生じる心配はない。

手巻きキャリバーP.2002を完成させることで、パネライは2006年にマニュファクチュールとしての地位を確立した。キャリバーP.2002は、自動巻きムーブメントからトゥールビヨンまで、数多くのバリエーションのベースムーブメントとして貢献しており、開発時からセカンドタイムゾーンが搭載できるように設計されていた。このことは、リュウズの機能によく表れている。リュウズを1段引き出したポジションでは、時針のみを1時間刻みで前後に動かすことができる。日付もこの方法で調整する。日付早送り機能は搭載されていないが、日付を前後両方向に切り換えられるため、日付調整にはそれほど時間はかからない。リュウズを2段引き出すと、分を合わせることができる。8日間のロングパワーリザーブを備えたムーブメントでは、完全に巻き上げるまでに時間がかかるのは当然で、巨大なパワーを100%蓄えるにはリュウズを約200回、回さなければならない。その点、リュウズが扱いやすい形状に設計されているのはありがたい。

日付早送り調整機能よりも、是非、搭載して欲しかったのは、ストップセコンド機能である。キャリバーP.2002の別バージョンではストップセコンド機能が搭載されているばかりか、“ゼロリセットセコンド”仕様にさえなっているのだ。ゼロリセットセコンド機能では、リュウズを引き出すとスモールセコンドがゼロにジャンプし、リュウズを押し込むと秒針が再び動き出す。クロノグラフと同じ仕組みで、レバーが秒針車のハートカムを叩くことができるように地板に開口部が用意されているにもかかわらず、時刻を秒単位で正確に合わせるのに役立つこの有益なメカニズムは、残念ながらラジオミール エイトデイズ チェラミカ︲45mmには搭載されていない。
日付が瞬時に切り換わらないのも残念な点である。具体的には、22時15分に切り換わり動作が始まり、午前零時10分になってやっと、次の日の日付に完全に切り換わる。それほど大きな弊害となるわけではないが、新しく設計されたムーブメントでは必ずしも見たい現象ではなかった。

これとは異なり、8日間のパワーリザーブは極めて実用的である。この機能のおかげで、数日間、ゼンマイを巻き上げるのを忘れたとしても、時計がすぐに止まる心配はないし、巻き上げるタイミングも、水平スライド式パワーリザーブインジケーターでいつでも確認することができる。

ロングパワーリザーブが精度の向上に貢献する機能でないことは、周知の通りである。エネルギーが放出されるにしたがってトルクも次第に減衰するからだ。完全に巻き上げた状態では十分なパワーを供給できるが、時間が経つにつれてムーブメントに提供できるエネルギーは徐々に低下する。パネライは、3つの香箱を直列に接続することでこの問題の改善に取り組み、フル巻き上げ時と7日後のトルク差を小さくすることに成功した。さらに、時計師によって独自のテスト方法が開発され、フル巻き上げ時と7日後の精度がすべての姿勢で点検されている。振り角の許容範囲は170度から330度で、最大姿勢差はフル巻き上げ時と7日後の測定時にCTMP値(Contrôle Technique des Montres Panerai)で算出される。

大きな尾錠はDLCコーティングが施されたブラックチタン製。厚いレザーストラップは、削り出し加工された大きなカーブを持つツク棒によって、折れ目が付いたり、傷んだりしないように配慮されており、尾錠は簡単に取り扱うことができる。

パネライの歴史を体現するリファレンスキャリバー

とはいうものの、限界値はかなり寛大と言えるだろう。最大姿勢差はフル巻き上げ時で10秒以内、7日後は20秒以内と規定されており、イタリア海軍の要求をかろうじて満たす内容である。今回のテストウォッチは、ほぼ規定範囲内の結果を見せてくれた。歩度測定機、クロノスコープX1では、最大姿勢差がフル巻き上げ時から12時間後には6秒と比較的小さかったが、7日後には22秒に上昇した。振り角は、7日後には水平姿勢で74度、垂直姿勢で75度落ちた。水平姿勢から垂直姿勢への振り落ちも50度を超える大きなもので、理想的な数値とは言い難く、振り角の規定限界値ぎりぎりという結果であった。平均日差はこれとは異なり、フル巻き上げ時から12時間後にはプラス2秒/日、7日後にはプラス3.2秒/日と、良好な数値を示した。精度を重視するなら、パワーリザーブを使い切ることなく、すべての手巻き時計で推奨されているように、毎日巻き上げる方が賢明かもしれない。

詰まるところ、ロングパワーリザーブを備えたこの手巻きムーブメントは、パネライの歴史を体現するリファレンスキャリバーと言える。文字盤やケースのデザインについても然り。パネライの時計を購入する理由の多くは、イタリア海軍の潜水士が使用するミッションウォッチの伝統を踏襲したアイコニックなデザインにあるからだ。また、卓越した加工品質と傷に強いマットブラックのセラミックス製ケースも、今回のテストウォッチにプラスの材料を提供している。さらに、1930年代の実用計器を思わせる意匠を備えている点も大きな魅力だ。

ラジオミール エイトデイズ チェラミカ︲45mmに関するここまでの検証結果を知ったら、イタリア海軍の潜水士はどんな感想を述べるだろうか? この時計が任務上、軍から支給されるものであるならば、彼らにとっては何の問題もないだろう。価格の点を除けば、この時計には歴史的なオリジナルモデルをはるかにしのぐメリットしかないのだから。

技術仕様
パネライ/ラジオミール エイトデイズ チェラミカ - 45mm

製造者: オフィチーネ パネライ
Ref.: PAM 00384
機能: 時、分、スモールセコンド、日付表示、水平スライド式パワーリザーブインジケーター
ムーブメント: 自社製キャリバーP.2002/3、手巻き、2万8800振動/時、21石、部品総数247点、フリースプラングテンプ(4個のバランスウェイトによる微調整)、耐震軸受け(キフ使用)、グリュシデュール製テンワ、直列に接続された3つの香箱、パワーリザーブ約8日間、直径31.8mm、厚さ6.6mm
ケース: テクニカルセラミックス(原料:酸化ジルコニウム)、ドーム型サファイアクリスタル製風防(無反射コーティング)、ねじ込み式裏蓋、グレーに着色したサファイアクリスタルのトランスパレントバック、10気圧防水
ストラップとバックル: バッファローレザーストラップおよびチタン製尾錠(DLCコーティング)
サイズ: 直径45mm、厚さ15mm、総重量119g
価格:

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T12とT168の日差 秒/日、振り角)

12時間後(T12) / 7日後(T168)
文字盤上 +5 +4
文字盤下 +4 +5
3時上 +1 -2
3時下 -1 +6
3時左 +2 +14
3時右 +1 -8
最大姿勢差: 6 22
平均日差: +2 +3.2
平均振り角:
水平姿勢 308° 234°
垂直姿勢 264° 179°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 84pt.

>>パネライのモデル一覧はこちら

前の記事

セイコー/グランドセイコー メカニカルハイビート36000

次の記事

ブライトリング/トランスオーシャン・クロノグラフ・ユニタイム

おすすめ記事

pick up MODEL

正規時計販売店

正規時計販売店

高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!

時計ランキング

時計ランキング

その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。

スペックテスト

スペックテスト

クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!

基礎からの時計用語辞典

基礎からの時計用語辞典

時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。

PAGE TOP